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500円のカレーをお腹が空いてないのにお父さんと食べた話#64

3人目の子どもが生まれ、いろいろトントン拍子に決まり、家を買った。

高かった。でも快適な新居での生活は、「今までのくらしは我慢賃を払っていたんだ」と感じるくらいに満足度が高い。

新居入居に伴い、引っ越しをした。

子ども3人、特殊な組み立てテレビ台があり、ちょっと夫婦では無理だと、私の実家の両親と85歳のおばあちゃんを召還した。

高知から新潟、飛行機乗り継ぎ、コロナ禍陽性者数高止まり、観光もくそもない。ただ、引っ越しの手伝いに呼んだ。

仕事で帰る母さんたちを見送り、定年退職したお父さんだけ1週間居残りをしてもらうことになった。

お父さんは、周りから公認の変人で、ケチで、アルコールがガソリン、止まったら死ぬような人。でも、私にとってはなんでもできるスーパーお父さんでもある。

買い物に行くと「高知と比べて安い」に興味を示し、魚を丸々買って捌き、「いっぱい食べれてお得やろ」と話すお父さん。車に乗っていてもガソリンの値段の話。

こんなに倹約家なのに、私を中学から私立にいかせたせいでめちゃくちゃお金をかけさせてしまったなと後ろめたい気持ちになる部分もある。車も事故で1台つぶした。

せめて、子どもが巣立った今はいいものを食べてほしいと願うが、結局市場に連れて行っても、わかめやめかぶ、めんたいこなど安い海産物を買い、サイゼリアで喜んでワインを飲んでいた。

一緒に過ごすうち、お父さんの人間性を思い出して、むずかゆいような、恥ずかしいような、愛しい気持ちになってくる。

引越しでは、カーテンを縫い上げ、サンシェードを付け替え、それ以外の時間は孫を抱き、寝かしつけ、大きい荷物を運び、家具を組み立て、ツッパリ棚を付けてくれたりめちゃくちゃ活躍してくれて「やはりお父さんを一家に一台ほしい」と思った。

できる。

もってきたデコポンも剥いで出してくれた。

孫もたくさん抱いてくれたし、おかげで仕事の締め切りも間に合った。

一週間はあっという間に過ぎ、お父さんを空港に送った。

1人で大丈夫、とは言っていたが、なんとなく駐車場に車をとめ、お土産を一緒に選んだ。

早く来ていたので時間はあった。

お腹が空いてないと言っていた父が「ワンコインカレーやと」と、お昼ご飯モードになった。現金な人である。私はまったくお腹がすいていない。

「コーヒーつけても700円これならおごっちゃおで」とノリノリになってきたので、喫茶に移動して、カレーを頼んだ。

お腹がすいていないのに、時間がたっぷりあるのに、昔からの習慣で私もお父さんもがつがつ早食いしてたいらげた。「早食いやねぇ」と笑いながら。

ああ、懐かしいなぁ。この感じ。

この人の家で育ったなぁ。

で、成長するにつれ、段々外の世界を知って、そしてほかの家族へと枝分かれしていった。

でも、根っこにはこの家族があって、私はそれを懐かしいし、それに触れると妙に涙が出そうになる。

それは、こんなに離れたことに不意にきづいたからかなぁ。

育った家、ご飯、兄弟、おじいちゃんおばあちゃん、あの家族で楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと……。

全部の上に今の私がある。

当時うっとおしいくらい近くにあって、引きはがせないと思っていたものは、もう近くにない。

こうやって思い出をすくうみたいに引っ張り出してきて、それも指先からこぼれそうになるくらい、かすかなものになっている。

悲しいなぁ。

毎日幸せで、忙しくて楽しいのに、思い出したら、あのうっとうしかった日々が遠くなっているのに気づいて、寂しいと感じる。

家族は、変わるんだなぁ。

続くけど、変わるんだなぁ。変化や成長は嬉しいけど、離れていくんだなぁ。

そう思うと、涙が出る。

私が生まれた家族。今私たちがつくっている家族。

変わってしまうんだなぁ。

赤ちゃんを抱きながら、見送りロビーで私に全く気づかないお父さんを眺めながらそう思った。

お父さんは無事、今の自分の家族に帰っていった。

帰宅すると、お母さんが持ち帰り忘れた服がタンスに入っていて、最後までうちらしいなと思った。

願わくば、お互いの家族が毎日少しづつでも幸せでありますように。

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