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本当に学習に効果的なマルチメディア教材とは?

オンラインで教えるようになって、
スライドやビデオなどのデジタルコンテンツを
作成する時間が増えたという人多いんじゃないでしょうか。
最近はいろんなテンプレートが無料で手に入ったりするので
そういったテンプレートを使ってしまうという人もいれば、
パワーポイントや動画の作成はいつも
「なんとなく」やっているという人もいるかと思います。

言葉だけでなく、イラストや写真、動画や音声を使って
人に何かを伝えたり、学びをサポートする時、
自分なりに何か「見せ方」のルールって持っていますか?
スライドやビデオを作成する際、
絵や文字、動画や音声の配置が、学習者にとってどれだけ効果的かを
デザインの観点からクリティカルに考えたことはあるでしょうか?

今日はそんなマルチメディアデザインの話をしたいと思います。
これに興味をもったのは、マンチェスター大学のMultimedia Designという授業をとっていた時。
その授業では、認知心理学や教育心理学で有名なRichard E. Mayerというが提唱しているMultimedia Learning Theoryという理論を元に、視覚情報(絵や写真・ビデオ)と言語情報(文字・声)をどのように組み合わせるのが学習者の学びを最大化することができるのかについて学びました。

以下がその本です。

このMultimedia Learning Theoryの理論の根底には、以下の3つの考えがあります。

1. Dual Code Channel
人間が何かを理解しようとする時、視覚的な情報と音声的な情報に対しては、2つの異なる思考回路(Visual ChannelとAudio Channel)を用いているため、この両方を効果的に使う必要があるということ。

2. Limited Capacity
1. の回路で一度に処理できる情報量は限られているということ。

3. Active Learning
学びというのは、与えられた知識の蓄積ではなく、
頭の中で、必要な情報を選び出したり、
すでに知っている知識と統合させたり、
新しい知識を構成し直したりする、アクティブな行為であり、
マルチメディアはそのようなアクティブな行為をサポートするものであるべきということ。

Mayerはこの3つの考えをもとに、人間の学びをとらえ、
様々な実験結果から、Multimediaを効果的デザインするための12の原則(principle)を提示しています。
(MayerはMultimediaを「言葉と絵(写真・図・アニメーションを含む)を組み合わせた教材」と定義しています)

この12の原則が非常に参考になるので、
ぜひ自分が作成したマルチメディア教材がこの原則に当てはまっているか、確認しながら読んでいただけると嬉しいです。

12の原則全部紹介すると文字が多くなってしまいそうなので、
動画でみたい方はこちらをどうぞ(英語です)

1. Coherence Principle
最初の法則は、トピックに関係のない言葉やイラストがなく、情報が最小限でシンプルに、明確になっている時に学びが最大化されるというもの。

キャラクターとかデザインとか可愛いからと思って、いろいろスライドやビデオに装飾してしまうパターン。やってしまいがちですよね。
学びに必要な情報のみを載せて、関係のない言葉・絵・音などは入れない。
シンプルイズ・ザ・ベストです。

2. Signaling Principle
次は、スクリーンのどこに注目すべきかが明確な時に、学習者の学びを最大化できるというものです。
ポイントとなるキーワードに矢印を加えたりハイライトしたりするなどして、どこに注目を向けるべきかを示す。

全部大事だからと思っていろいろ言葉を載せてしまったり、いろんなイラストを載せてしまって、結局どれが一番伝えたいことなのかがパッと見ただけでは判断できなくなってしまう。パワーポイントで陥りがちな罠ですね。

3. Redundancy Principle
この法則は、人間は、ナレーション・視覚情報・文字の3つの組み合わせよりも、ナレーションと視覚情報のみの組み合わせの方がよりよく学べるというもの。Visual Channelに負荷がかかりすぎるような情報は与えない方がいいというものです。

たとえば、図とナレーション(声)で説明をしているのに、ナレーションと同じ内容を字幕でも表示するというパターン。
表示するとしても、ナレーションの全ての文字を載せるのではなく、ポイントだけに絞った方がいいですね。

ただ、このPrincipleに関して、言語教育の観点から言うと当てはまらない場合もあるのではないかなと個人的には思います。
私の場合、英語の動画を見ているとき、字幕があるほうが理解が進むと感じます。母語の場合は別ですが、耳からの情報で100%理解できる状況ではない場合は字幕での文字情報も有益なのではないでしょうか。

4. The Spacial Contiguity Principle
関連する言葉と絵(や図)の説明は同じ画面の近くに配置する。
学習者がスクリーン上にある2つ以上の情報を1つの関連ある情報として認識できるように、空間的に近い場所に配置するべきということです。

デザイン的にイラストと文字をスクリーンの対角線状に斜めに配置したりするケースをたまに見かけますが、そうすると学習者の視線は四方八方に散らばることになり、これは学びにおいてあまり意味のある行為ではありません。同じ情報は1箇所にまとめる。これ鉄則です。

5. Temporal Contiguity Principle
言葉と絵は同時に見せる。
言葉による情報(文字や音声)と視覚情報は、バラバラではなく同時に流れてくる方が学習者は理解しやすいというもの。
一通り言葉で説明しきったあとに絵を見せたり、イラストやアニメーションを見せてから説明するのではなく、資格情報と同時に言葉による説明を加えるといいそうです。

6. Segmenting Principle
これは、情報が一気に全部流されるのではなく、パートごとに区切られていて、学習者が自分でペースを調整できると学びがより深まるというもの。
全ての過程を一気にビデオなどで見せるのではなく、ステップごとに学習者が自分で止められる仕組みを作りながら情報を区切っていくことで、振り返りテストでの学習者点数が上がったという実験結果があるそうです。

7. Pre-Training Principle
トピックを理解するのに必要な単語や概念はあらかじめ示しておく。
トピックに関する言葉の定義や用語、概念を実際のコースが始まる前に学習者が知っておくことは大切ですね。

コースの途中で新しい言葉や概念が出てきて説明がないまま進められると、その言葉に気を取られてしまって内容があまり頭に入ってこなくなるという経験、されたことのある方多いんじゃないでしょうか。

そのためにも、コースオリエンテーションで言葉の説明があったり、わからなくなった時にいつでも参照できるような言葉のリストなどが手元にある状態だといいですね。

8. Modality Principle
絵(や図)を示す時の説明は、文字ではなく音声で。

これは3. にも関連しますが、人は視覚情報と文字の組み合わせよりも、視覚情報と話し声の組み合わせの方がよりよく学べるというものです。
たとえば、説明アニメーションがあるのに、そこに字幕までつけてしまうと視覚情報が多すぎて学習者が情報量に追いつけなくなるそうです。

ただこれは、絶対に文字を見せてはいけないというものではありません。
視覚情報がすでにある場合には、文字情報が多くなりすぎないように気をつけましょうということですね。

9. Multimedia Principle
文字情報だけよりも、絵や図などの視覚情報があった方が学びが深まるという法則で、これはMayerの理論の根底をなす考えです。

10. Personalization Principle
あまりフォーマルすぎる堅い言葉ではなく、インフォーマルな場面で話しかけられるような口調で説明された方が人はよりよく学ぶというもので、カジュアルな話し声が学習経験をより良いものにするとのことです。

説明する時には、
主語に一人称の「わたし」や「あなた」を用いることで、より親近感が生まれますね。

デジタルであっても、それを作って説明しているのは人間。
そんな人間らしさが感じられるようなコンテンツの方が機械的なものよりも学びやすいというのは、何となく理解できるんじゃないでしょうか。

11. Voice Principle
コンピュータ音声ではなく、人の声で。
SiriやAlexaはかなり性能も良くなってきて、
本当に人が話しているように聞こえることもありますが、やはり人の生の声に勝るものはありません。
特にコンピューターに向かって一人で学ぶという場面を考える際には、
教材=先生となるため、
先程のPersonalization principleと同様に、
声によって人間的な要素を取り入れることが大切になります。

12. The Image Principle
これはもともとの11の法則に加えて新たに最近加えられたものです。
インストラクターが話している映像を入れるか入れないかということですが、Mayerによると、必ずしもインストラクターが話している様子によって学習効果が上がるわけではないとのこと。
たとえば、手順を追っていくアニメーションに解説を加えたりしている場合、同じ画面にインストラクターの顔もあると情報量が多すぎて1.のCoherence Principleに反してしまいます。

この分野の研究はまだ早期の段階なので、あくまで参考程度にはなりますが
大切なのは、学習者の学びが深まることなので、インストラクターがただ話している視覚情報を載せるよりは、トピックに関連する視覚情報(絵や図など)をスクリーンに載せるほうが、効果があるということですね。

いかがでしょうか?
読んでみてみると当たり前のような内容に感じるかもしれませんが、デザインやインパクトにとらわれるあまり、無駄な情報が多くなってしまっていたり、口で説明しているのに同じ量の情報を文字で書いていたりするケース、意外と多いのではないかなと思います。

今回ご紹介したのは、認知心理学の研究に基づくものですが、関連して
もう少しデザインに特化したものでおすすめなのが、以下のノンデザイナーズ・デザインブック。

デザイナーじゃない人がデザインの基礎知識を身につけることでポスター作成やWebページ作成、名刺作成など身の回りのあらゆる「デザイン」ができるようになるための本です。

こちらも教材作成において私が参考している本のひとつです。よかったら読んでみてくださいね!

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