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袖振り合うも多生の縁:新橋

きのう、新橋にいた。
東京駅で新しいコワーキングスペースの内見をしたあと、「うぇっwうぇっw原稿終わんねぇwメールも打たなきゃwデュフフwww」みたいな雑なテンションで、今借りているスペースのチェーン店舗に向かった。
気乗りしないメールと大好きな原稿を書いてぐったりした後、雨の中、帰宅するため新橋駅へ向かう。
土砂降りだったけど、湿気が凍てつく冬の雨ではなくなっていて、もう春なんだわなんて思っていた。

地下街に降りようと階段の前を通りかかると、背の高い外国人男女と一人のサラリーマン。
おお、道案内か。
インバウンドが増えたからか、道案内に付き合う日本人をよく見かける。
今日のお兄さんも、時間に余裕があったから案内していたんだろう。

……と思って通り過ぎようと思ったのだけれど。
なんだか(なぜだか分からない)気になってしまって、お兄さんの方をジッと見た。
するとお兄さんと目があう。「たすけて」の目。まじか。
私は外国人二人とサラリーマンに近寄って行って、声をかけることにした。

「英語わかりますか」
お兄さんに尋ねられた。
別に太っているわけではないけれど、美味しいものを食べるのが好きそうな人だった。メガネにリュック。姿勢はいいが、背負っている荷物は重そう。
「あ、はい。多少は」
事情を聞けば、六本木に行きたいのだと言う外国人。銀座線の乗り場へ向かう階段が分からないので教えて欲しいということだった。

「あとは私が伝えておきます。お兄さんはもう行って平気です」
道案内をバトンタッチしてもらう。お兄さんは心底ほっとした顔で、汐留方面へ地上を歩いて去っていった。

さてどうしようか。
英語を聞き取ることは問題ないが、あまり喋る方の語彙力はない。
いや、英文ビジネスメールを送れる程度には語彙力はあるはずなのに、喋るとなると言葉が出てこないのだ。瞬発力がない。

とりあええず六本木。
「六本木行くならその経路じゃないほうが楽なんだけど〜……乗り換えあるとあなたがたまた迷うでしょ……?」みたいな気持ちになりつつ、とりあえず銀座線ね。正直どの階段から入ってもいけるけど。JRにさえ入らなければ。
ところがどっこい、外国人はJRの改札を指して「これ?」と尋ねてくる。
「節子それメトロやない。JRや!」
英語でだいたいそんなことを言ってから、なんとなく道を案内した。
まあ分からなかったらまた誰かに尋ねるでしょう。

案内が終わって地下道にもぐる。
外国人は知らない人。でかかったなー。サラリーマンのお兄さんも知らない人。
でも知らない人なりに助け合って暮らしている。
なんだか日々の暮らしそのものだ。

私がいま、これを書きながら食べているベイクドモチョチョ(名前は諸説あります)。
これはどこかの工場で誰かが協力し合いながら作っているし、作っている人同士でたぶんこの食べ物の呼び方は違う。
あんこを作っている人は今川焼きだと思ってるかもしれない。
皮にあんこを詰めてる人は大判焼きだと思ってるかもしれない。
袋詰めされたこの商品を箱に詰めてる人は回転焼きかも。
思っていることは違うけれど、なんとなく協力し合ってこの謎の……本当に謎の、小麦粉を焼いた皮の中にあんこが詰まっている和菓子が出来上がっている。
きのうの出来事と似ているな、なんて思いながらかじっている。

よく知らないけどなんとなく協力しあって社会がなんとなく回っているのがヒトのいいところ。
新橋に来るとしょっちゅうこんな出来事にあうので、この街は「袖振り合うも多生の縁」だなーなんて、思ったりする。

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