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夢帰行12

後悔2

 遙は眠っているようだ。
いったいどういう状況で寝ているのか仁志には分からない。
生死の狭間にいるということだけを聞かされている。
自分の入院生活は、ただ大人しく寝ていればよかった。
時折襲う痛みも入院してからは、のた打ち回る程ではなかったし、薬や点滴のおかげで、随分改善されたように感じている。
それが一時的なことであっても、今はこうして歩ける状態にある。

しかし、遙は小さな身体に沢山のコードがつながれ、四六時中点滴をされ、ただ寝て呼吸することしか出来ないでいる。
意識があるのかどうかさえ分からない。
二年間、ずっとその状態だったわけではないことは分かっていても、改善されていた時のことを仁志は知らないのだ。
目の前にいる遙は、仁志に病気の苦しさだけを教えているようだった。

小さな子供の痛みや苦しさ、辛さは、子を愛すれば愛すほど自らの身へ乗り移ってくる。

仁志は遙を愛していたのだろうか。

 仁志は、遙が産まれてからも、父親としての自覚はなかったようだ。
オムツひとつ替えたことがないし、一緒にお風呂に入ることもなかった。
三人で出かけることはあっても、遙と仁志の二人だけになることなど、有り得ないことだった。
時折、街中で他人が遙をちやほやする時だけ、その子の親として優越感を持っていたに過ぎない。
清美の付属物、装飾品としか、見ていなかった。

望んで産まれた子ではない事実が、愛情を抑制していた。
望んで産まれた子ではない事実は、仁志の後悔でもあった。
そんな仁志でも、二年ぶりに見る遙の姿には、痛みを感じざる得なかった。






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