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夢帰行4

仁志の病気2


 「そうだ。大した病気じゃないんだよ。」
姉にかけた言葉を頭の中で反芻してから、ふと気づいた。
『どうして姉は、清美から俺が入院したと聞いただけでわざわざ出てきたのか?遙の病状悪化を知らせるなら奈津子でもいいはずだ。』

「遙ちゃんな、肺炎になってしまったらしいんだ。一番気を付けにゃなんねぇ感染症だから、お医者さんもすげぇしんぱいしてんだと。」
仁志が今疑問に思っていることに姉は気付くこともなく、自分のしゃべりたいことだけを話していた。
「・・・そうか」
「清美さんな、会いたい人には合わせておくようにってことまで言われたらしいぞ。お前に分かるか?清美さんの気持ち。自分の子供が助からないって言われたのと同じなんだぞ。どんだけ辛いか。」
幸江は時折感情的になり、仁志を怒りながら泣いている。
「清美さん二年間も一人で一生懸命看病してきたのに、その間お前は何やってたんだ。」
姉の口調は、感情を抑えながら静かでゆっくりだったが、仁志には触れて欲しくないことであり、胸に突き刺さった。

 仁志は、遙の発病後半年で清美と離婚した。
白血病の子を置き去りにしての離婚は、姉の幸江には許せない行為だったに違いない。
しかし、仁志にも言い分はある。
遙の病気と清美との離婚は別のことなのだが、今ここで姉に反論したところで理解されることはない。さらにここに奈津子がいることが、話を面倒にしている。
仁志の口から清美と遙と奈津子をすべてを説明することは諦めた。
感情の高ぶった姉を前にして話すことではないのだ。

「近いうちにお医者さんに許可もらって行ってこい。姉さんも一緒に行くから。」
「何なら今から看護婦さんのとこ行って、相談してくっか?」
幸江は遠慮なしに急かしているが、仁志は沈黙している。
奈津子は所在なさげに黙り込んでいる。
仁志のベットを囲む三人を重い空気が覆った。

仁志の頭の中では、病気で苦しむ遙の顔と未だはっきりしない自分の病気のことがぐるぐる巡っていた。


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