見出し画像

現代音楽科では何が学べるの?

今日は最近数々の音楽大学、音楽院に設立されている現代音楽科という場所の存在意義、またそこで何が勉強できるのかを紹介したいと思います。

現代音楽科の存在意義、実情

欧州の音楽大学では10年ほど前から現代音楽科という現代音楽の演奏を専門的に勉強する学科が設立(乱立)しています。これは古楽復興運動の流れの末に共に各音大に古楽科が設立された流れと相似関係であるといえるでしょう。現代音楽というジャンルで専門の学科を設置する意義は、まず奏法の多様化、情報量の多さに対応できるスペシャリストを育成する、次に複雑な機材や多様な作品の要望に答えるための十分な環境を若い奏者に提供するという大きくわけて二つの意味があります。ただ現実的には高いモチベーションと目的意識を持って入ってくる学生もいる一方で、消極的ですが学生の在籍方法の手段として使われている節も、、、そのため実情は現代音楽に対する経験値、情熱、技術、考え方など各生徒、各学校によりかなりばらつきがあるのではないでしょうか。しかしとにかく現代音楽というジャンルにどっぷり浸かれる環境がある、仲間に出会えるという側面の意義はとても大きいですし、なにより作曲科やジャズ科、演劇科やダンス科など周囲の様々な学科とコラボレーションが活発に行われるきっかけを若者に提供するという意味でも大学にこのような科が存在することは一定の効果が出ていると中にいても感じます。では次に私が実際に在籍した学校の様子をみてみましょう。

画像5

ストラスブール地方音楽院の例

まず私が最初に在籍していたフランス、ストラスブール地方音楽院について。この学校で私はLes cycles de spécialisation(Chant contemporain)、日本語に訳すると特別専攻課程(現代声楽科)に在籍していました。ちなみにフランスではまだ旧式の音楽院のシステムといわゆるボローニャ・プロセスによる大学・大学院のシステムが学校によって混在しており、後者に移行する過程上にあります。私が在籍したこの課程は音楽院システムにおける最上級課程になり、この課程に進学したいのであれば声楽の学位を持っている必要があります。ちなみに学校による公式なこのカリキュラムの説明はこちら。

画像1

最長2年(4学期)在籍できるのですが、なんと必修は学期中最低18時間の専門課程のレッスン以外は自由となっています!そのため受かると同時に学長や専攻の先生と相談しながら時間割を組むのです。私の場合は室内楽とコンピュータ音楽に興味があったこと、学外の講習会やフェスティバルに行く時間を積極的に取りたいと希望したのでカリキュラムはレッスンと室内楽、演奏家のためのエレクトロニクス、録音技術の基礎の授業に参加していました。人によっては即興やダンスの授業、音楽史の授業などをとる人もいます。もちろん練習に励みまくる人も。この課程では卒業試験(30分の自由プログラム)はもちろん在学中も学内外で多々コンサートがあり(ありがたいことにリサイタルもやった)そのための練習時間やリハーサルにも時間を割いていました。

私は自由度が高いカリキュラムだったことを生かし、この時期にはMUSICAをはじめとする現代音楽のフェスティバル及び多くのアンサンブルのコンサートに足を運んでいました。さらにこの学校はジャズやダンスはてはオンド・マルトノ、ツィンバロン科まで様々な科があるため時々それらの授業や発表会に忍び込んだり様々な学生と一緒に色々なプロジェクトを行ったことも非常に良い経験になりました。またこの期間中に訪れたマスタークラスにてさらに異なるレパートリーや演奏経験を積みたいと思ったことがきっかけで次のシュトゥットガルト音大に進みました。

画像4

シュトゥットガルト音楽・演劇大学の例

ドイツのシュトゥットガルト音楽・演劇大学は最も早い時期に現代音楽科が設置された学校の一つでしょう(といっても10年くらいかな?)。現代音楽を専門的に勉強したいという人がよくおすすめされる学科の一つではないでしょうか。では早速カリキュラムをみてみましょう。

画像2

このように前述のストラスブールとは異なりかなり色々な細かくカリキュラムが組まれています(時間をかけてブラッシュアップされていったらしい)。この中から120単位をとれば卒業なのですが必修、選択必修、選択科目があり学生はバランスよく組み合わせる必要があります(そして単位の計算に追われる)。では現代音楽科声楽専攻の要件をみてみましょう。

まず必修は専攻とコレペティによるレッスン、そしてパフォーマンス(演出付き)のプロジェクト、室内楽、現代音楽ラボ、リズムトレーニングになります。この中でも現代音楽ラボでは現代音楽科に属するすべての学生がとる必要があり、美学、分析、実践の3フェーズに跨がり現代音楽について意見を交換したりプロジェクトを共同で行う特徴的なものになっています。

選択必修では分析、美学、指揮、リズムトレーニングを一定数とる必要があります。もちろんどれも現代音楽のコンテキストに沿ったもので私の場合はマティアス・シュパーリンガー及びニコラス・フーバーの作品分析、音楽における引用(美学)、指揮(ジェラール・ペソンの5つのシャンソンを歌い振りなど)などをとりました。

そして選択科目。室内楽、合唱、副科作曲などメジャーなところから始まり、エレクトロニクス、マネージメントなどかなり色々なものをとることができます。また学外のコンクールやプロジェクトも単位となる配慮がなされているのもありがたい限りです。私は作曲科の新作初演コンサート参加や室内楽、即興、SWR Vokalensembleでの研修、そして引き続きコンピュータ音楽関連の授業(Openmusic、AudioSculptの基礎)等に出席していました。

最終的には卒業試験を行う必要があり、1時間のリサイタルになります。そこでは1950年以降の曲のみ(2010年以降の曲を含める必要あり)、電子音楽および室内楽を含めること、プログラムもしくは演奏曲の分析を提出する必要があり現在私はそれに必死に追われています。

このようにかなり幅広い選択肢が現代音楽科の中にすでに用意されているので自身の現代音楽に関する学びを深めたい人にとってはとても良い環境だといえるでしょう。しかし上にあげたようにカリキュラムが忙しいので学外のことをするには相当ポテンシャルがあるか上手く力を抜かないと難しいともいえます。コロナで色々とできなかったこともありますがそれでもここで刺激的な仲間とともに集中的に現代音楽を勉強できたことは自分の方向性を考えていくのにとても有意義でした。まだ卒業してないけど。

画像5

他にどこに開設されているのか

さてこれまで私の実例2つをあげましたが一体他にはどこで現代音楽を勉強できるのでしょうか。昔ブログにリストを作ってみたのですが割と規模が大きそうなところを中心に少し抜き出してみました。在学していた方のお話もぜひ聞いてみたいところです。

修士課程
フランクフルト音楽大学(IEMA
いわゆるEnsemble Modernアカデミー。

ケルン音楽大学
ピアノだけ特別に専攻があるのが特徴的です。

バーゼル音楽院
現代音楽科と並行して即興科が設置されているのも魅力的。

ルツェルン音楽大学
近年開設。ドナウエッシンゲン音楽祭に出れるようです。

ポストマスター課程
G.A.M.E
ベルギーにてIctusアンサンブルが行なっているプログラム。

CoPeCo
リヨン国立高等音楽院、エストニア音大、ハンブルク音大、ストックホルム音大の4つが一緒に行なっている2年間の修士課程で半年ごとにそれぞれの学校に行くようです。作曲との越境的な学科です。

パリ国立高等音楽院第三課程(D.A.I. répertoire contemporain et création)
IRCAMの電子音楽作曲家養成コースであるCursusの演奏家として参加するチャンスがあるのが魅力的。

こんな人におすすめ、進学に際しどんな準備をするべきか

まずは現代音楽に興味がある、好きという方でしょう。現代音楽が得意という方にも良いとは思いますが専攻で勉強するということは研究的な要素もある程度含むので好きじゃないと辛い部分が出てくるのではと正直思います。また地域性もですが各学校や在籍している学生の楽器のバランスによって取り扱う現代曲のジャンルもかなり異なります、その辺りも考慮に入れておくとより自分にあった選択肢が選べるのではないでしょうか。もちろん専攻の先生との相性はいうまでもなしです。

進学に際しては、軽く現代音楽の歴史や用語、自分の楽器の基礎的レパートリーなどは知っておいたほうが良いと思います。現代音楽も過去の音楽や他ジャンルと繋がっているので引き出しをたくさん持っていることは有利に働くでしょう。また他の楽器や専門の人と関わる機会が多いので自分の楽器の特徴について簡単に説明できることはとても重要だと思います。あとは勇気と体力!ただただ演奏するだけではなく何にでも挑戦する、好奇心を捨てない気持ちが最終的にものをいう学科だと私はやんわり感じています。現場からは以上です!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?