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説明義務制度で考えること

 住宅業界のみなさんはご存知のように、この4月1日から説明義務制度が始まる。今回はこのことについていま考えていることや取り組んでいることについて述べたい。

施策決定の過程における大問題

 国の計画では、説明義務制度ではなく、省エネ基準の適合義務化が実施されることになっていた(私は「説明義務化」と対比しやすいので「性能義務化」と呼んでいる)。それが突然、説明義務制度に変わった。

 国はその理由をいくつか挙げて説明しているが、そのひとつとして「現状の省エネ基準の適合率が低いから」と言っている。この言い分は誰もが感じるようにおかしい。適合率が低いから義務化すべきなのであって、たとえば適合率が100%だったら義務化する必要などない。省エネ基準適合義務化は、省エネ基準に適合しないような家をつくっている会社の省エネ性能を引き上げることが目的のはず。「そうした会社が混乱するから義務化しない」と言う前に、混乱を避ける措置を事前に取っておくべきだったはずだ。言い訳にもなっていない。おそらく、そうした会社が集まっている団体のようなものの圧力があったのだろうが、そうした一部の団体の圧力に屈するような施策決定があったとすれば、国民として容認できない。

私の「義務化施策」への基本的な考え方

 そうした大問題があったと私は思っているのだが、それはそれとして、私はそもそも「義務化的な施策は最小限にすべき」と考える立場だ。そうしないと、どんどん自由が奪われてしまう。

 世の中には改善すべき問題はたくさんあり、それをシステムとして解決していこうというのが政治であり法律だろう。しかしそれが強化されるほどに自由が奪われるという関係になる。そうした事態を避けたいと思うなら、国民が主体的に問題解決に取り組むしかない。今回の省エネ基準義務化に関することで言えば、住宅業界が自主的に省エネに取り組むことができていれば、性能義務化であろうが説明義務化であろうが、そんなもの(縛り)は不要になる。

 だから私はForward to 1985 energy lifeという活動を始め、自主的・自律的に家庭の(住宅の)省エネに取り組むチームをつくった。もちろんそうした取り組みをやっているチームは他にもある。まっとうに活動しているチームは、大変な労力をかけ、工夫を重ね、少しでも家庭の省エネが適切に進むような取り組みをしている。そこにはものすごく価値のあるノウハウが蓄積されている。国はそうした取り組みのことを知っているのだろうか。少なくとも私やForward to 1985 energy lifeが国からヒアリングを受けたことはない。少し調べればいくつかのまっとうなチームを探すことができるはずだ。そうしたチームが持っているノウハウを参考にし、それを施策として形にすれば、義務化というような方法ではない選択が取れたはずだ。

義務化でどこまで省エネができるのか?

 もうひとつ大問題がある。それは、そもそも性能義務化や説明義務化でどこまで省エネができるのかという計算方法が公開されていないことだ。いや、もしかしたらきちんとした計算を行っていない可能性もある。このあたりのことについて、「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の第5回で前さん(東京大大学院准教授)も思いっきり突っ込んでいた(第5回のタスクフォースのことについては近々ここで書く予定)。

 もしきちんとした計算が行われていないとしたら、これは本当に大問題だ。国はエネルギー基本計画で省エネ目標を決めていて、それに向かって進んでいるはずなのに、テキトーな計算に基づいて施策の効果を算出しているとしたら、義務化など我々が何らかの制限を受ける根拠がほとんどなくなってしまう。温暖化対策に頑張ろうとしている人も、国に従うしかないと考える人も、そんな根拠の薄い施策に納得するはずはない。

 ついでに言っておけば、これまで様々に実施されてきた省エネ施策(たとえばエコポイント)の効果を分析するような資料をこれまで私は見たことがない。「シミュレーション→実施→効果分析→次に生かす」という手続きを踏んでこそ取り組みのレベルは上がっていく。なのに国は当初からこうした予算をしっかり取っておくという発想が極めて薄いように感じる。頭の良い人たちが集まって施策を決めているはずなのに、なぜこんなことになっているのだろう。効率が悪すぎる。

説明義務制度が始まる

 「自由が奪われること」という視点で見れば、性能義務化よりも説明義務化のほうがずっとマシだ。だから私はこうなった以上、説明義務化によって住宅の省エネがしっかり進むことを強く願っている。

 そのためにどういう状況が生まれたら良いのか? それは「説明義務制度によって、さらに適切な省エネ住宅を建設できる会社がお客さんに選ばれるようになる」ということだ。適切な省エネ住宅をつくることができる会社がプレゼン力を上げることによってそうした状況が生まれる。

 まさしくこれは、Forward to 1985 energy lifeがこれまで取り組んできたことと一致する。我々はまず「適切な省エネ住宅をつくるための技術」についてしっかり学ぶ場をつくり、それと並行して「その技術をうまくお客さんに伝える技術」をリアルに学ぶ場もつくってきた。だから、そうした場に熱心に通い、力をつけた会社はこの説明義務制度を大きなチャンスだととらえている。

 個人的にも、様々な企業やネットワークと一緒にこうした場をつくり、時間と手間をかけて「つくる技術と伝える技術」の両方のレベルアップを図ってきている。とくにこの1年ほどは、説明義務制度をチャンスにできる住宅会社が増えるための勉強会などを企画していて、参加者はとても多く、参加後の反応も良い。良い傾向だ。

 説明義務制度に関わる具体的な話をすれば、「つくる技術」はもちろんのこと「伝える技術」においてもシミュレーションが極めて重要なキーワードになっている。私の周りでパッシブデザイン、温熱環境、省エネルギーといったテーマで成果を上げている住宅会社のほとんどが「こうした成果を上げることができた最大の理由のひとつがシミュレーションの実施にある」と答えている。ここで言っている「成果」はとてもたくさんあるが、簡潔に言えばお客さんの満足度向上と営業的な成果だ。

 だから私が深く関わるEnergyZOOというシミュレーションツールにおいても、このチャンスを最大限に生かしてほしいと考え、説明義務制度に対応するような新しいサービスを始めた。室温や光熱費のシミュレーション結果をお客さんに説明するときに使える資料とパッシブデザインを中心とした取り組みをわかりやすく伝える資料を用意した。

 せっかくなのでもう少しシミュレーションを活用したプレゼンのことについて述べると、「比較して見せないと自社の良さが伝わらない」というのが私の結論だ。そのために、EnergyZOOでは自社と比較するような「平均比較住宅モデル」の入力データも用意した(実はこうしたモデルをつくるには結構な専門知識や経験が必要になる)。ホームズ君などEnergyZOOとは違うシミュレーションツールを使っている会社も、がんばって比較モデルをつくることをお勧めしたい。シミュレーションに取り組んでいるような会社はレベルが高く、そんな会社が選ばれるようにますます努力してほしい。

 

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