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住宅の温熱環境を巡る話題 結露①

今回からのテーマは『結露』

 さて、今回からは住宅の結露について考えていきたい。結露についてもずいぶん前から勉強し、いろんな情報を集めてきた。ただ、他にやりたいテーマがあったので(省エネとかパッシブデザインとか)、ここ10年くらいはあまり積極的に情報を集めていなかった。しかし、これまで書いてきたように、ここにきて湿気、湿度、結露のことが注目されるようになり、様々な意見や情報が出てきたので、改めてしっかり整理してみようと思ったわけだ。

 おそらくこの結露というテーマは何回かにわたる記事になる。じっくり論理的に話を進めていきたい。

1.結露と湿度

 ここまで絶対湿度と相対湿度の話をしてきたので、結露についてのこのテーマに決着をつけておこう。

 結露は絶対湿度で見ないとわからない。

 これが結論だ。なぜかと言えば、結露現象においてもっとも重要になる露点(露点温度)は絶対湿度で一元的に決まるから。言い換えれば、絶対湿度を求めることによって露点が確定されるからだ。ひとつの絶対湿度(たとえば12g/㎥)を決める気温と相対湿度の組み合わせは無数にあるので、それを見ていても露点はわからない。つまり結露現象は見えてこないことになる。

 よく「結露は温度差で生じる」という話をする人に出会う。確かにそれは間違ってはいないが、同じ温度でも湿気が増えれば結露する可能性は高くなるし、何℃になれば結露するかどうかはわからない。空気の絶対湿度を求めることによって、初めて明確に結露が見えてくるようになる。

2.結露を簡単に分類する

 上の話はまた別の機会でゆっくり進めるとして、結露のことを整理していこう。

 結露はざっくりと「表面結露」と「内部結露」に分類できる。これを私なりに定義すると次のようになる。この定義について反論する人はほとんどいないだろう。

表面結露=(割と簡単に)目視できる結露

内部結露=(簡単には)目視できない結露

 表面結露で代表的なのは窓の結露だ。窓の表面結露は窓の断熱性能が高くなってきたことで、減る方向にある。表面結露には壁や天井の結露もあるが、やはり断熱性能の向上によってとくに最近の新築ではほとんど見かけなくなった。内部結露は躯体(壁、屋根、小屋裏、床、床下)の内部で起きる結露だと思ってもらってよいが、この多くは断熱性能が高くなってきたことにより、逆に増える方向にある(その理由については割愛する)。なので住宅の省エネ基準でも内部結露対策が付記されている。

3.様々な立場の人が様々な意見を言っている

 これまでに書いてきた内容を読んでもらえればわかるように、熱や温度よりも湿気や湿度のほうが理解しにくい。そして結露は何だか怖いイメージがある。さらには日本は湿気が多いと感じている人も多く(実際、夏は湿気が多い)、湿気のことについて関心が高い人が多い。

 そういう背景があって、とくに結露については「こうしないと危ないですよ」というような意見や情報を多く見かける。でも結露は理解するのが結構難しいから、そうした意見の中には基本的な理解が不十分だと感じるものが少なくない。また、そうした意見を読む人のほうも、やはり理解が簡単ではないから、そうした意見や情報の信頼性を判断することが難しい。そうやって(言葉は悪いが)「根拠が十分ではない脅し的な情報」が広がり、「結露対策としてこうしないと怖い」と感じる人が増えてしまっているように思う。この状況は不健全だ。

 ついでに言えば、(これは結露だけの話ではないが)そうした意見や情報でよく見かけるのは研究者(本来の意味での専門家)以外の立場の人や会社から出ているものだ。インターネット、検索システム、SNSの普及によって、それが加速しているように思える。誰もが気軽に自分の意見を世の中に発信できるようになったことは良いことだと思うが、そこでの情報の信頼性を判断するのは非常に難しい。本来、結露のような技術的な問題(理科的な問題)はまず研究者による研究の状況を知るべきだろう。

 そういう意味では、もちろん私も研究者ではない。でも私は、少なくとも研究者と論理的な話ができることを目指して基礎知識を習得し、それができるまではそのテーマには触れず、それができたテーマについては(まず論文を当たるなど)できる限り研究の状況を知ってからコメントするようにしている。さらには、どうしても自分で理解できないことについては「理解できない」と正直に言う。これが私のような「技術的なテーマについて何らかのコメントを出す立場」の人間として必要なことだと考えている。

4.結露の何が問題か?

 話を本題に戻そう。結露を考えるとき、そもそも結露の何が問題なのかを整理して考えてみよう。これまで私の知る限り、ここを明確にした議論や情報が極めて少ない。それが結露問題を厄介なものにしていると強く感じる。

1)結露による材料の劣化

 湿気や水は様々な材料を劣化させる原因になることが多い。建築材料に注目してみれば「木材」は湿気や水によって腐朽菌の発生・繁殖を促し、腐る可能性がある。また「金属」にとって湿気や水は錆びるという問題を引き起こす。とくに構造的に重要な部位として使われている木材や金属が劣化することは大きな問題であり、これが結露によって生じる最大の問題だと考えてよいだろう。住宅の省エネ基準や長期優良住宅の省エネルギー対策として、木造住宅の内部結露対策が規定されているのはこの問題を発生させないことが目的にある。また、窓の表面結露によってもこの問題が生じる可能性があり、それを回避するような措置が何より重要になる。

2)ダニやシロアリとの関係

 重要なところを明確にして話を進めたいので、ダニやシロアリのことをやっつけておこう。

 ダニの繁殖は湿度に影響されるが、結露は直接ダニの繁殖とは関係がない。「結露している環境だから湿気が多い。なのでダニも増える環境にある」という理解は大きく間違ってはいないが、結露とダニとの直接的な関係を言ってはいない。

 また、ダニはカビを餌にすることが知られている。なので「結露→カビの発生→ダニの繁殖」という理屈は正しそうに思えるが、そうした現象が本当に起きているかどうかを確かめる必要がある。そこで論文を当たってみたが、カビ数とダニアレルゲン数との直接的な相関を示すものは見当たらなかった。

 さらには、アレルゲンとしてのダニは布団中のものが何よりも重要であることがわかっている。なので、ダニの健康影響をアレルギーに限定すれば(それが適切だろう)、結露との関係を議論することはあまり重要ではない。

 家屋内にシロアリが侵入し、被害を与える要素のひとつに湿気や水がある。実は私はシロアリ調査や駆除を仕事にしていた時期があり、論文を読みつつ、実際の現場でのシロアリの生態を観察する機会が多かったのだが、「シロアリと結露」に関係することで確定的に言えるのは「結露水が定常的に壁を流れ落ちるような状況が生まれれば、家屋内にシロアリが侵入するリスクは増えるだろう」ということだ。したがって、この問題は1)で書いたこととほとんど重なる内容になる。

 つまり、「結露とダニ」の議論は重要ではなく、「シロアリ被害を増やす可能性のある結露は、構造的に重要な木材を腐らせるような結露と同じ」と考えれば良いだろう。ということで、今後ダニやシロアリのことには触れない。

3)健康影響という視点でのカビの発生

 カビは健康への悪影響があることが知られている。「カビ 健康」などでネット検索するとそのあたりの情報がたくさん出てくる。

 カビは水分と有機物があることが発生・繁殖の基本条件なので(温度もあるけど)、結露によってカビの発生・繁殖を促し、それが健康に悪影響を与える可能性がある。

 だから「カビを発生させない結露対策」に取り組んだほうが良いのは間違いなく、最近まで私は「目視できるカビの発生を防げばよい」と考えていた。補足すれば「目視できるカビ」というのは、内部結露であっても、たとえば壁を剥がしたりして、そこで目視できるカビも含んでの意味だ。

 しかし、ある機会である人から「外の湿気が多い夏に窓を開けると家の中がカビだらけになる。カビは健康被害をもたらし、さらにカビによってダニが増えることでも健康被害をもたらす。だから外の湿気が多い夏に窓を開けないほうが良い」というようなコメントを聞いた。

 確かに、外の湿気が多い夏に窓を開けることによって室内の湿度が上昇することは間違いなく、それがカビの発生・繁殖を進める方向になることは間違いない。しかし、その人が言っている「カビだらけになる」という意味が私にはよくわからなかった。私の家は夏でもよく窓を開けているが、少なくとも目で見る限り「カビだらけ」にはなっていない。なので、その人は「目視できないカビも含めてカビだらけになる」と言っていて、もしかして自分も知らない「湿気の多い夏に窓を開けると目視できないカビが増える。またそれによってこんな健康被害がある」というような新しい知見が出てきたのかもしれないと考えた。

 またちょうど窓の結露について情報を整理しようと思っていた時期だったので、「住宅のカビによる健康被害」の情報を当たってみることにした。

 そうやって国内の論文なども含めていろいろ調べていると、WHOから「WHO GUIDLINES FOR INDOOR AIR QUALITYーDAMPNESS AND MOLD」というレポートが出ていることを知り、それを全文和訳して理解に努めた。なお、そのあたりの詳しい話については、私の事務所(住まいと環境社)のサイトに掲載しているので、興味がある人は読んでみてほしい(下にリンクボタンを掲示)。英文の本文も和訳も読めるようになっている。

 このWHOのレポートを理解するのは結構骨の折れる作業だったが、「目視できるカビは予防すべし。また排除すべしと書いてある」というのが私が下した結論だ。

 つまり、「結露とカビ」については、このようにまとめて良いだろう。

 健康への影響を考え、目視できるカビの原因になるような結露はダメ。

 なのでおそらく、先の人の「カビだらけになって…」というコメントは調査や理解が足らないか、表現が適切ではなかったか、その両方ともに問題があったかのいずれかだろう。なお「外の湿気が多い夏に窓を開けないほうが良いか?」というテーマは、また別の機会に取り上げるかもしれない。

 つまり常識的には、結露対策としてもっとも重要なのは「木材や金属の劣化をつながることを避けること」であり、次は「目視で確認できるカビを発生させないこと」になる。

5.長期優良住宅における結露対策

 結露対策として、まず参考にすべきなのは長期優良住宅における内容だろう。ここで対象となっている結露対策は「(構造によらない)冬の内部結露」と「RC造での冬の表面結露」に限定されており、まずそのことに注目する必要がある。つまり「窓の表面結露(もちろん冬)」や「夏の内部結露」については対象となっていないわけだ。

 そのあたりのことは後述するとして、長期優良住宅における内部結露対策の措置は様々な研究結果を根拠にしたものであり、何よりも信頼すべきだ。なので、この措置に従っていれば(冬の)内部結露対策としては問題ないと考えれば良い。これが結論だ。ついでに言っておけば、(冬の)内部結露に関する何らかの情報を見たとき、それが長期優良住宅の内容に従ったものであるかを確認してほしい。そこから離れた情報であれば、まず信頼性は薄いと考えてよいだろう。

 参考のためにその内容を簡単に書いておくと、透湿抵抗比および一次元定常計算での確認が基本となっており、それ以外は特別評価方法認定による。吸放湿性のある断熱材などは、非定常計算によって特別評価方法認定を受けているものがある。

 さて、長期優良住宅において「窓の表面結露」が対象になっていないのは、おそらく「結露による窓の構成材料の劣化はほぼ考えられない(もしくはほとんど問題にならない)」「結露しても確認できるので対処しやすい」「窓の構造が様々であり、規定(基準)を設けるのが難しい」「窓の高断熱化は表面結露を少なくする方向(内部結露とは逆)」といったことが理由だろう。

 しかし実際に窓の表面結露はよく見かける現象であるし、多くの人にとって結露に関する問題でもっとも気になるところだ。なので、長期優良住宅において対象になっていないからといって無視はできない。ということで、窓の表面結露については次回以降で詳しく述べる。

 夏の内部結露(夏型結露、逆転結露)が対象になっていないのは、窓の表面結露とは意味が異なり、おそらく「現状で考えられる建築構造や建築材料において夏の内部結露が大きな問題を引き起こす可能性は低い」と考えているからだろう。ここでの「大きな問題」とは木材や金属の劣化を指す。なので夏の内部結露については、新しい重要な知見が出てこない限り、深刻に考える必要はないと考えてよいだろう。

 少し長くなったが、今回はこのへんでオシマイ。最後まで読んでいただいて感謝です。

 


 

 

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