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『Liam Gallagher/Knebworth22』を観た


『OASIS  Knebworth1996』の話


 去年は、栃木県ではインターパークのMOVIX宇都宮での公開だった。
 丁度あの時期は、高校でのコロナ感染がなんとかと言ってオンライン授業展開だったのを覚えている。あの時の私と言えば、80-90年代の音楽と漫画を漁りに漁って懐古主義をだいぶ拗らせていた。(大して友達もいないけど)学校の人と会わないっていうこともあって、懐古主義の負の坩堝に見事ハマったのだ。
 懐古主義の坩堝というのは、きっとoasisファンなら一部は理解してくれると思うが、「過去のものを好むばかりに自分がその時代を共有できなかったことに対する絶望感と、それにより現在に目を向けられずに過去に囚われること」を指す。
 この坩堝に入ったら抜け出すのはそう簡単にいかない。何か大きな、何かショッキングなことがない限りは……。

 そしてその時期に観たのが存知の通り、『OASIS  Knebworth1996』だった。

 こう言うと「何で過去への鬱屈をまた過去のもので上塗りしてるんだ」と思われるだろう。私だって見るのが不安だった。また奥のほうに沈んで抜け出せなくなったらとうとう自分は何に手を出すか分からない。
 だけど、インターパークに行くまでのシャトルバスの、あの夕陽を見たら何ともたまらん気持ちになった。周りの若い学生たちを横目に孤独感が決してなかった訳ではないけど、これから1996年の“彼ら”に会いに行くと考えたら思いの外そんなんどうでもよくなれた。
 実際映画館で待ちぼうけしているときも、ライブに似た感覚でいた。エントランス内のソファには「LIAM」って書かれたサッカーユニフォームを着ている人がいたり、若い人もちらほらいて、会場アナウンスが流れた瞬間入り口の方に流れていった、私も含め。

 映画の内容は言うまでもない。過去への絶望感に暮れてる私に、やたらと多発される「あの頃はよかった」はだいぶ効いたが、それでも私が耐えられた、寧ろ坩堝から抜け出してくれたのは、同じoasis好きが集まって、現に映画館で気持ちを共有してる点にあった。これが家で1人で見るんであれば話は別で、自分と同じ時代を生きる人に、自分と同じ地域を住む人に同じ趣味の人がいるっていう事実がただただ嬉しくあった。
 映画ラストの『Rock 'N' Roll Ster』
 あれは良かった。
 おかげで私の悶々としていたものは吹っ飛んだ。映画の余韻の方がよっぽど濃かったからだ。
 あのときの高揚感がたまらなくて学生の少ない小遣いで7000円のDVDも買ってしまった。あんだけ満たされた買い物はない。
 「私はネブワ1996のDVDを持っているんだ
」っていうアイデンティティだけで高校への孤独が紛れる気さえしたのだから……。

 だからかもしれない。私は今回の2022に多大なる期待を寄せていた。私を大きく変えてくれる何かに期待して。



Liam GallagherのKnebworth公演の話

 私は大体の予想できていた、リアムがネブワースで公演するだろうってことを。
 だって再結成には都合が良すぎるし、だけどあの彼が何もしない訳がない。やり遂げてくれるだろうなって。

 発表後のTwitterではFFさんが「チケットがどうだの、パスポートがどうだの」と盛り上がりは異常だった。
 だけど私は何処か冷めた気持ちで見ていた。「だって高校生だぜ?日本の、英語もろくに知らない外国にも行ったことない一般的な女子高校生が?」
 あまりにも現実味がないのだ。
 だけどとあるFFさんが、私の「ネブワースに行きたい」っていうツイートを見て一報。
 「自分行けないんですけどネブワース公演のチケット持ってます。もしよければ譲ります」って。
 一瞬私の頭に今までなかったはずの「現実」がちらついた。あっ、行けるんじゃね?っていう。でもよく考えてみれば来年は受験生。親には画塾代と高校の授業料を払ってもらっている身。やっぱり行けるはずがない。悔しながらに断るしかなかった。(だけど結局そのFFさんはネブワまで行けたようなので良かった。)
 つまり何が言いたいかっていうと、1回、目の前に“それ”がちらついたのが悔しいのだ。絶対に行けなかった訳ではないという事実が。
 だって実際に、1996の映画を見た時点で「何もかも捨ててネブワースに行った」っていう台詞を見て私もそれに多大なる影響を受けていたはずだからつらいのだ。

 実際にネブワース公演を迎えた日。私は布団で呑気に過ごしていた。だけど心は全然呑気じゃない。だって海の向こうで「伝説」がもう一度起ころうとしているのに自分はそこに立ち会えないから。
 FFさんが次第にイギリスに着いていく。
 私はTwitterのスペースを開いて数人のFFさんとネブワへの羨望を語ったりした。やっぱり皆気持ちは一緒なんだなあって。安心したり、でもやっぱり羨ましかったり複雑だ。

 この時は映画化まではいかないだろうと思ってた。まあ言って円盤化くらいだろうなって。そのくらい。



『Liam Gallagher/Knebworth22』の話

頭光ってる


 今年は去年と違ってベルモールのTOHOシネマズ宇都宮で公開された。
 祝日には見合わない生憎の雨で、イルミネーションが水たまりに映って綺麗だった。公開は18:20-20:10。公開前までに母親と姉と夕飯を食べた。祝日の夜にしては人が少ない。こういうもんなのかしら。
 飯を食べたあと、もう会場時間になっていたから少し早歩きで2番シアターに入る。相変わらず広告が長い。だけどその広告でも涙が出るくらい揺さぶられやすい。
 シアター内は年齢層は高かった。ざっと15-20人くらいだったか。若い大学生が数人いるくらいであとはほとんどが中年だ。FFさんが若い人多いばかりに勘違いしたみたい。

映画の内容の話。

 oasisの曲がノエルとの間で云々で流せないという割に、それでも映画が保てるぐらいのリアムのソロの実力があったのがまず嬉しい。
 今回も1996の映画の内容と同様、ファンに焦点を当てているのが良かった。今回のネブワースの最大の良さは親子世代で楽しめることがデカかったように思う。実際、レノン君も会場入りしジーン君はドラムをゲストドラマーとして叩いていた。
 特に、マイブラのパーカーを着ていた少年が高校で音楽の趣味が合わずに孤独であったというのに共感した。だけど部屋は孤独さを感じさせないほどのポスターで、The SmithsやRadiohead……音楽が孤独を紛らわしてくれるというのはこのことだろうなと思う。
 そして個人的に嬉しかったのがネブワースでのThe Rolling Stonesの映像やThe Stone Rosesの映像が流れたっていうところ。UKロックファンとしては不意打ちが嬉しい。リアムによる『My  Generation』も良い。
 ディケンズも訪れたっていうのも胸熱。

 多分今回3回以上泣いたんじゃないか。
 1回目は始まってすぐ。「ロックスター」への言及と、ラジオでネブワース公演を明かした時。伝説がついに来たっていう興奮かしら。
 2回目は……どこだっけ。会場したあたりかな。楽しそうなファンを見ると涙が出てくるんだ。
 3回目は『Wall of glass』が流れた時。この曲を聴くために映画を観に行ったようなもんだしね……。

 映画全体を通しては、あのリアムギャラガーがoasisとしての彼からソロとしての彼へと昇華していく自伝的な内容だった。1996でのリアムは「快楽主義の象徴としてのロックスター」だった。だけど2022のリアムは「ロックの切実な後継者」のように思う。言い方を変えればロックの殉教者というのもある意味正しいのかもしれない。
 あれだけ思うがままに生きていたリアムが、ソロになり「ロック」を実現するべくそれに専念してきたというのは、いちファンとしてその実現に手を伸ばさなきゃならん。
 だってロックほど、アーティストの人生とファンの人生が絡み合う音楽ってないんじゃないかと思うから。
 実際そうだったじゃない?19歳のリアムも私たちも。


まとめ

 私は大人になることに対して恐怖と嫌悪を感じている。だからこそ、何故18という多感な時期に私はこうして彼を見届けられなかったんだろうという気持ちと、彼が大人になっていくのに私はずっと止まっていたいと思うのだろう。という複雑な感情でいた。多分やたらと泣きたくなったのはそれが原因で、思えばネブワースの映画のたびに私は精神的な何かを背負っている。前回はその何かが消化された、或いは誤魔化されたように思ったが、今回は疑問を投げかけられたままで終わった。というのも、私が大人への嫌悪と将来への不安を解消するには、リアムがあまりにも成長しすぎていたからだ。

 だけどそれでも私がまだ病まずに希望をもっていけるのは、私たちoasisファンにはまだ大きな野望が残っているから。それは言わずもがな。彼らが再結成を果たすこと。そしてそれを現地で見届けること。
 今までTwitterでは「再結成しなくても仲直りさえしてくれれば……」と言っていたけど、少し良い子ちゃんすぎたかもしれない。
 どうしても2人揃った姿が見たい、それを世界中のファンと共有したい。
 これは私の我儘だ。エゴイストだと言われても構わない、それくらいファンは待ち望んでいる。2人による『Live Foever』を……。


 っていうのを帰りの車で母親に話した。「再結成したなら私は絶対に行く」と。
 だけど母は驚いてから鼻で笑うじゃないか。
 ええい、そんなん気にしない。
 はやく私の青春の1ページに、終止符を打ってくれ。


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