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【800字小説】「感情の濃淡、乱高下」

 天正てんしょう のぼるは本当に物知りだ。
「映画見た?面白かったよねー」
 クラスの女子が今話題の映画の話をしていたら、別に昇に話しかけたわけでもないのに食らいついた。
「おお!おお!面白かったよな!特にあのシーン!」
 すると、その辺にいるクラスメイトを勝手にキャストにし始める。
「お前ここな。お前はこっち」
 そして高らかに映画のシーンを再現(?)した。

「何をしている!ここは王の間であるぞ!」

「かっけーよな!このシーン!」

 昇の寸劇にクラスが集まりだした。

「俺、それまだ見てねーよ。それよか、〇〇ダンスの方が気になるわ」
 一人の男子が言ったダンスの名はまだ誰も知らないようで、クラス中がザワザワしていた。

「おお!おお!あのダンスな!いいよな!あれ!」
 昇は発言した男子に駆け寄り、その男子の両肩をポンポン叩いた。
「よし!一緒に踊るぞ!」
 すると、そのダンスの曲を大声で歌いながらキレキレ……には程遠いダンスをし始めた。

 その滑稽さにみんな大爆笑。

「あたしはあのアニメが好き!」
「ああ!あれいいよな!」

「俺、あのアイドル!」
「メッチャ可愛いよな!」

 昇は相槌を打つたびにそのモノマネを披露した。はっきり言って上手くはないが、その下手さ加減が絶妙で、クラス中が笑いの渦に包まれた。

「昇、ヤベーわ!」
「アッハッハ!笑い止まんないぃぃ〜」

 熱狂の中心にいる昇のボルテージは最高潮を迎えていた。

「なんだ?賑やかだな。授業を始めるぞ!」

「ヤベッ!」
 先生の登場に、みんな慌てて席に着く。

「みんな楽しそうだったな。授業も楽しく行くぞ。まずは昨日の復習だ。昇!これなんだったっけ?」

「……ワ……ン」
 昇の声は隣の俺にさえ聞き取れなかった。

「ん?なんて言った?」

「……ワカリマセン」
 小声でつぶやく昇。



 …………。


 感情の濃淡の差!
Σ(゚д゚lll)Σ(・□・;)


 クラス全員の心のツッコミが聞こえてくるようだった。


 改めて思う。
 天正 昇は物知りだ。

 ……勉強以外は。


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