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「世界と世界をつなぐもの」第9話 ⑦

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「美羽、遅刻ギリギリー。何をしていたの?」
 司会を終えて舞台裏にやってきた絢里に、今までの話を聞かせた。

 現実世界の美羽の話を聞いたときは驚き、
「だから美羽、目の周りが赤かったんだね」
と、いたわるように美羽の肩をなでていた。
 美羽は再び目を涙でにじませる。
「絢里はどうしたらいいと思う? つながりを切る計画、このまま進めてもいいと思う?」
 私がそう聞くと、絢里は口ごもった。
 いつも明朗に判断する絢里が迷っている。

「そんなことしたらダメに決まってるよ、ね。美羽ちゃん」

 美羽……ちゃん?
 このキモい呼び方……。

 姿を現したのは、
「あ……阿佐部さん!」
 思わず声を上げた。

 人を消す装置を作った張本人。
 仲間のはずだった巻さんもその手で消した、何を考えているか分からない男。

「なぁ、桜小路。そんなことしちゃダメだって。もしするつもりなら……」        
 阿佐部さんの手に握られていた黒い円筒形のものが光る。
 メイが消され、巻さんも消された道具。イメージをデータ化するプログラム。

「人を消すプログラム!全部壊したはずじゃ……」
 美羽は後ずさりした。あれを刺されて人が消えるのを目の当たりにしている。恐怖を感じるのも無理はない。
「データは残っているからね。何個でも作れるんだよ」
と、阿佐部さんが言ったその時、

 バン!

という音とともに、阿佐部さんの右手が大きくはじかれ、円筒形の物体は地面に転がった。
 それを誰かが踏みつける。
 パキッと音が鳴って、人を消す装置は粉々に砕けた。

「そんなことしたらダメに決まってるよね。セ・ン・パ・イ」
 阿佐部さんの後ろからペーパーが不敵な笑みを浮かべて現れた。
「こういう物騒なものはこの世にいらないッス」
 地面に爪先をトントンとして、靴の裏に付いた破片を落としながらそう言ったのはシマエだった。
「ペーパー、シマエ!」
「ここは俺たちが引き受ける。お前らは逃げろ」
「ペーパー、ダメだよ!暴れたら周りの人が……」
 美羽が忠告した。
 ここはステージ裏とはいえ、完全に密閉された空間ではない。大きく暴れればみんなに気付かれるだろう。

 その一瞬の隙を狙って阿佐部さんが美羽の横をかすめるように動いた。
「ねぇ、美羽ちゃん、これなあに? この綺麗な箱」
 そう言って阿佐部さんが見せたのは、美羽の両親が美羽に託した大切な『現実世界の美羽』だった。
「あ……それはダメ! 返して!」
 美羽が阿佐部さんに駆け寄ろうとしたが、阿佐部がポケットから再び黒い円筒形のものを出した瞬間、美羽の動きが止まる。
「何個でも作れるって言ったよね?……へぇ。美羽ちゃんの大切なものなんだ。何かなぁ? 中を開けて見ちゃおうかなぁ?」
「絶対ダメ!返して!」
「このキモオタ野郎、返せ!」
 ペーパーが歩み寄ろうとしたとき
「それ以上近づいたらこの箱、壊しちゃうよ? いいの?」
 ペーパーの動きが止まった。
 阿佐部は満面の笑みを見せる。
「美羽ちゃんの大切なものを僕が持っているなんて。嬉しくて、心が躍るよ」
 小箱を見ながら、赤ら顔でハア……ハア……と興奮したような吐息を立てる。
「美羽ちゃんが僕に話しかけてくれて、美羽ちゃんの手が腕に触れた瞬間から僕は君しか見ていなかったよ」
 あの時だ。美羽が私に学祭実行委員のテーマ決めのプリントを持って、センターに来た日。
 ゆらぎが起こって、美羽が阿佐部さんに声をかけた。そういえば、あの時から『美羽ちゃん』と呼ぶようになっていた。前は『新田さん』と呼んでいたはずなのに。
「ヤダ! ほんとにキモい! 返して、泥棒! 人殺し!」
 美羽の罵声に、阿佐部さんはなぜかニヤニヤして吐息が荒くなった。
「僕を罵る美羽ちゃんも可愛い。もっと罵ってもいいよ」
 寒気を感じた。キモすぎる!
「返せ! 阿佐部!」
 私は自分で驚くほどの怒声を発した。
「おいおい、呼び捨てか? 桜小路ぃ。今まで美羽ちゃんの親友だから目をつぶってきたけど、もうダメだね。お前たちの計画は阻止するよ絶対。だって成功したら美羽ちゃんを見れなくなるからね」
 私の中で何かがプチッと切れた。
 周りが見えなくなる。

 あの小箱は美羽の……
 美羽の両親の……
 現実世界の美羽の……
 すごくすごく大切なもの!
 絶対取り戻す!!

 後先を考えず小箱をめがけて突っ込んだ。
 一瞬、阿佐部さんのニヤリとする顔が見えた。
「青葉! 危ない!」
 美羽の絶叫が聞こえた気がする。でもすぐ前に小箱がある!
 手を伸ばした。
 小箱はフッと視界から消えた。その瞬間、

 ブスッ……

 背中に何かを刺されたよう……な………。

「青葉あああぁぁぁぁぁぁ!!」


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