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「世界と世界をつなぐもの」第11話

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【第11話 エピローグ】

 夢を見た。
 私の目の前に私がいる。
「もし私が強引に体を奪おうとしたらどうするつもりだった?」

 青葉、あなたはそんなことをする人じゃない。私が一番わかっている。『自分自身』だから。
 でも、もしそうなっていたら……。

「その時こそ一人の青葉に戻れるチャンスだと思ってた。全力で迎え入れて全力で自分を放出するつもりだったよ」
 私はニヤッとした。
 青葉は驚いたように目を見開くと、フッと息を吐いて微笑みを浮かべる。
「負けたよ。こんなに成長したんだね。陰気で面倒くさがりの青葉だったはずなのに」
「みんなのお陰だよ。これからは一心同体。一人の青葉としてもっと成長していこうね。みんなと一緒に」
 私の言葉に笑顔でうなずく青葉。
「この世界に来るときにお土産を持ってきたから。せめてもの罪滅ぼしとして」
「お土産? どんな?」
「そのうちわかるよ」
 そして青葉は消え去った。私の心の中へ。

 学祭も終わり、もう実行委員の仕事もなくなった。
 今日は3年生送別会。これでほぼすべてが終わる。

 もう学祭に関わることもないんだな。
 そう思うと、ぽっかり開いた心の穴が広がっていく気がする。

 学祭の後、打ち上げの席にメイと池畑君が現れた。みんな驚きまくって、絶叫で会場がゆらぐほどだった。
 青葉は私を驚かせるつもりだったのだろう。でも1人の青葉となって記憶を共有しているから、青葉の持ってきたお土産の正体は、もうわかっていた。
 ゆらぎで記憶が消えることも、人が消えてその記憶が奪われることも、この世界のシステムから排除された。そして今までみんなから消した記憶もすべて元通りになっていた。

 それでもメイが消えたあの日から、私はセンターには行っていない。
 どうしても、あの時の情景が思い浮かぶからだ。
 センチョーとはたまに会っている。そのたびにいつもゲームをしているが、センチョーの弱さは相変わらずだ。
 センチョー、巻さん、阿佐部さんの3人は、この世界の住人になったことで、デバッグプレイヤーとしての特権を奪われた。プレイヤーが授業に出席しているわけはなく、出席の履歴がないことを理由にこれまでの単位をほとんど剥奪され、留年が決定した。卒業までにあと2年はかかると言っていた。
 巻さんはそれを知って、毎日勉強漬けで単位取得に励んでいるらしい。
 阿佐部さんは相変わらず美羽を陰で追いかけているようだ。美羽が『キモい』と今まで何回言ったことだろう。

「あおっち、おせーよ」
 集合場所に行くと、ペーパーが声をかけてきた。
「ごめんごめん。準備に時間がかかってさぁ」
 送られる側の3年生が集まっていた。
「そういえばフラッターズってあの後ライブやってんの?」
 学祭での盛り上がりを思い出す。
「やってないよ。就活とか忙しいし」
 亜里沙が絶賛伸ばし中の髪をかき上げながら返答した。目標の『清楚の女性』は長い髪じゃないといけないらしい。
「あれ? 美羽は一緒じゃないの?」
 絢里が不思議そうに聞いてきた。
「今日やることがあるからって。すぐ行くって言ってたんだけれど」
 絢里もアナウンサー試験に向けて発声練習などしていると聞いている。
 ヤッチーやヨモギン、そして殿もそれぞれの道に向かって歩み始めているらしい。

 その時、美羽が走って来るのが見えた。
「ゴメーン!遅くなったぁ」
「遅いよ美羽」
 そうとがめる私に見えたものは、キラキラ輝く美羽の目だった。
「あたし決めたの!」
 やはりそういう輝きだったか。何かを思いついたらしい。
「決めた? なにを?」
「理学部情報数理学科に転科する!」
 美羽の発想にはいつも驚かされるが、あまりにも突飛な話にのけ反りそうになった。
「なんでなんで? せっかくあと1年で卒業なのに」
 すると美羽は、遠い目で空を見た。
「あっちのお父さんとお母さんが住んでいるところに行きたいから」
「あっちって……現実世界のこと?」
「そう! だって現実世界の美羽は青葉を作って、青葉はこの世界を作った。それならあたしが現実世界に行くルートを作ってもおかしくないよね?」
 すごい発想。さすが美羽だ。

 でも、それができれば……。
 私の頭の中あった理想が現実になる。

「だから情報数理学科に転科して勉強するの! 2年次編入になるみたいだけどね」
「もう調べてたんだ」
「うん。今学生課に行って聞いたら、理系単位が足りないからそうなるんだって。だから青葉も行こ!」
 『だから』の使い方がおかしくない?と思いつつも、私はワクワクした。
 自分の理想を達成するためにも、そうしたいと思っている自分を抑えられない。
「いいかも! 私も行きたい!」
「え? 待って。美羽はいいとして、青葉は現実世界に行ってどうするの?」
 絢里の建設的な疑問に、私は自分の理想を告げた。
「世界を広げる。ここと現実世界を自由に行き来できるようにしたい」
 現実空間も仮想空間もない、すべてがつながる世界。
「なるほど。現実世界でアナウンサーになるのもいいかもね」
 絢里も乗りそうな雰囲気。
「面白ぇこと考えるじゃん。俺もやっちゃおうかな」
 ペーパーもノリノリだ。
「いいね! みんなでやっちゃおうよ!」
 美羽も手をたたいて喜んだ。
「そそるわぁ。その話」
 あれ? 何だかんだでみんな興味アリみたい。
「でしょ? それでさぁ、みんなでまたやろうよ!」
「何を?」
「決まってるよね!美羽」
 私の言葉に美羽も弾けるようにうなずいた。
 2人で声を合わせて。笑顔で。声高らかに!
 
 せーのっ!

「学祭実行委員会!」




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