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【CD感想文】フランツ・シュミット:歌劇《フレディグンディス》

知名度イマイチな作曲者の超マイナーなオペラ

 フランツ・シュミットは後期ロマン派の作曲家。今年はちょうど生誕150年にあたります。
 シュミットは交響曲や室内楽、器楽曲など幅広いジャンルで作品を残していますが、有名な作曲家とは言い難いでしょう。コンサートでは滅多に演目になりませんし(N響第2000回定期公演の曲目をファン投票で決めた際、シュミットの《7つの封印の書》が候補のひとつになりましたが、あえなく落選してしまいました)、出回っているCDも少ないです。
 私がこの作曲家を知ったのもほんの数年前のこと。雑誌『レコード芸術』で紹介されていた交響曲を聴いたのが最初です。ポリフォニックな曲の運びや変奏の巧みなところが気に入っています。ヨハネ黙示録が題材のオラトリオ《7つの封印の書》も好きな作品(聴いていると今世界で起こっている戦禍や飢餓、災害などが思い起こされて心が痛みます)。
 シュミットはオペラを2つ書いています。1つ目が《ノートル・ダム》。カラヤンの録音でこのオペラの間奏曲を聴いたことがある人は多いかと思います。そして2つ目が《フレディグンディス》です(初演は1922年)。

 先般、《フレディグンディス》世界初録音(1979年のライヴ)のCDが発売されました。この作品のCDは見たことがありませんでしたから、これは貴重です。
 海外盤なので、日本語解説などはついていません。初めて聴くオペラなのに、歌詞対訳が日本語で読めないのは、外国語ができない私にとってツラいです。今回もスマホの翻訳機能にお世話になりました(相変わらずぎこちない訳でしたけれど、ずいぶん助かりました)。

歌劇《フレディグンディス》はこんなお話

 フレディグンディスというのは主人公の女性の名前。6世紀のフランク王国に実在した王妃です。この人物を題材にした作品はいくつかあり、このオペラもフェリックス・ダーンの小説をもとに台本が作られました。でも、原作の段階ですでに史実とはだいぶ違っているみたいです。

 オペラでは主要な登場人物が4人に絞られています。主人公以外の名前は省略します(読み方がよくわからないし)。
・フレディグンディス(メゾ・ソプラノ)
・国王(バリトン)
・公爵(バス)
・公爵の息子。後の司教(テノール)

 あらすじをざっくりと整理してみました。ただ、スマホが訳した歌詞やト書きには意味不明な部分も多く、推測で補ったところもあります。間違っていたらごめんなさい。

第1幕
 公爵の息子は、使用人のフレディグンディスにぞっこん。身分の低い使用人と交際するなんてけしからん、と怒った公爵は息子を修道院送りにし、フレディグンディスは公爵家を解雇される。だが、たまたま通りがかった国王に見初められて側室に成り上がる。
第2幕
 どうしても正室になりたいフレディグンディスは妃を殺害。現場を通りがかった公爵ともみ合いに。その時奪った証拠を手に公爵は悪事を暴こうとする。しかし、司教(公爵の息子)はフレディグンディスに懇願されて証拠を隠滅し助ける。公爵は逮捕されて盲目になる(報復として目を潰されたということかな?)。フレディグンディスは国王から戴冠されて新王妃となる。
第3幕
 子供が重病になり、フレディグンディスは司教を呼び出し回復を祈るよう頼む。司教は、これまでの罪を悔い王妃の身分を返上するなら祈りましょうと返答。それに反発するフレディグンディスは司教の毒殺を企てる。ところが司教に飲ませるはずだった毒を手違いで国王が飲んでしまい、国王は死去。それに続き子供も病死。
 石棺のそばで国王の生き返りを願うフレディグンディスは、突如倒れてきた石棺の蓋に長い髪を巻き込まれ身動きが取れなくなる。後に司教らに救出されるが、国王や我が子の幻を見たフレディグンディスはその場で死ぬ(衰弱死か?)。

 この赤毛のヒロイン、なかなかの悪女です。でも、悪女なりの魅力みたいなものが、私にはまったく感じられませんでした。身勝手なばかりで共感できるポイントがないのです。
 他の登場人物に関しても、人物の造形や心理の動きに奥行きが感じられません(原作の小説ではどうだったのでしょうか)。

密度の高い音楽

 物語は深みに欠けるように思いますが、音楽は充実しています。
 オーケストラは、歌手が歌っている時もそうでない時も、あまり途切れることなく密度の高い音楽を奏でています。私は歌と管弦楽の両方を追いきれなくて、後からオーケストラ部分だけ集中して聴き直したりもしました。
 音楽の中で多くの要素が緻密に絡み合うところにフランツ・シュミットらしさを感じます。私が気がついた以外にも、もっとたくさんのライトモティーフが組み込まれていそうです。

 序曲はたいへん堂々とした管弦楽です。悪女の物語の始まりにしては立派すぎます。実はこれ、主人公ではなく国王の主題に基づくフーガなのです(この主題はオルガン独奏曲に編曲されています)。この主題が変奏されていき、最後に主人公の主題らしき旋律があらわれます。
 第3幕で国王が死んだ後の間奏も重厚。あたかも偉人や英雄のための葬送行進曲のよう。
 王室が舞台なだけあって、古風で豪華な音楽が耳をひきます。

 一方で、調性感がわからない部分があちこちにあって、これはやはり20世紀のオペラなのだなあと感じます。緊張感や不安感を引き起こすこれらの響きは効果的にドラマを引き立てています(例えば、主人公が妃を殺そうと寝室に潜んでいる場面や国王に毒が回っていく場面、人と人が対立する場面など)。

 CDの解説書には、オーケストラの扱いや変奏技法においてワーグナーの影響が顕著だとあります。対位法的に巧緻なところなどはリヒャルト・シュトラウスの影響もあるでしょう。不協和音や半音階が用いられた部分を聴いていても、確かに彼らの影響が感じられます。
 例えば、第1幕終盤で国王とフレディグンディスが愛を語り合う場面。濃厚な管弦楽とともに二重唱が高揚していくところは聴きどころのひとつだと思います。
 フレディグンディスを歌っているドゥニャ・ヴェイソヴィチは、ワーグナー歌手としても活躍していた人。そのパワフルな歌唱はこの作品でも生かされていて、ヒロインの野心や残忍さがよく伝わってきます。

 シュミットの音楽はいろんなものを詰め込み過ぎて、無駄に凝っている感はあります(リヒャルト・シュトラウスならもっと少ない素材を効果的に使いそうです)。でもこの過剰な感じ、私はけっこう好きです。聴くたびに「ああここでこんな旋律も鳴っていたのか」と発見があったりして飽きないのです。

 今年はシュミット生誕150年ということで、このCDの他にも未聴の作品をいろいろと聴いてみようと思っています。

指揮:エルンスト・メルツェンドルファー
演奏:ウィーン放送交響楽団
   ウィーン放送合唱団
   ドゥニャ・ヴェイソヴィチ(Ms)
   マルティン・エーゲル(Br)
   ヴェルナー・ヘルヴェヒ(T)
   ライト・ブンガー(Bs)他
レーベル:ORFEO


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