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マイベストビールを決める話

ビールの大海を漂う

もうすぐ3歳の娘がなぜなぜ期なんです。先日海に行ったときのなぜは「海ってなんでお水がいっぱいあるの?」でした。それと同じくらい根源的な疑問は「ビールってなんでこんなに種類があるの?」だと思います。

コーラはだいたいコカコーラがペプシ、スポーツドリンクはポカリかアクエリ、同じアルコールの日本酒やワインはたくさん種類はありますが、小さなこだわりブランドが乱立という雰囲気です。

しかしビールは大手メーカーが複数ブランドを出し、同じようなウエイトでCMを打ち、日本中どこでも手に入るような環境が構築されています。なぜでしょうか。

それは我々ビール好きは永遠の3歳であり、旺盛な好奇心でおいしいビールを探求し続けていて、メーカー側はそれに応えているからです。何度酔っ払い大言壮語で恥をかいても、二日酔いの壁にぶつかってもビールを飲み続ける諦めない心。これは3歳に教えたい姿です。

そんな日ごろのビール環境に満足している我々も、現代の情報の海の中では流れが多くありすぎて気が付くと違う島にたどり着き、いつの間にか定住してしまったりすることがよく起こります。それはそれで楽しいのですが、やはり自分のアイデンティティと言うべきふるさとのような場所は必要です。探検家も安心して準備ができる根拠地があるのです。
そんな思いから、自分が一番好きなビールを決めるべく立ち上がりました。

ビールの地図

ビールの大海を漂ってしまう原因は地図がないからです。地図がなければ今自分がどこにいるかも、どこに向かって行けばいいのかも分かりません。そこでまずはビールの地図を作ってみることにしました。

地図を作るにあたって伊能忠敬は日本全国を隈なく歩きましたが、現代人の我々はその必要はありません。ありとあらゆる情報はインターネットで得られるわけで、ビールにおいても例外ではなく、各メーカーのサイトにそれぞれのビールの成分が記載されています。

①アルコール度数 ②エネルギー ③タンパク質 ④脂質 ⑤炭水化物 ⑥糖質 ⑦食物繊維 ⑧食塩相当量 

ちなみにこの成分表示はビールのパッケージにも印刷されているので、伊能忠敬的方法でも取得は可能です。

成分を一覧表にして比べてみたのですが、ビールによって結構差があることが分かります。

この成分の違いが味の違いになっているか調べるため、成分表のデータを用いてグルーピングし、似た者同士にまとめてみました。用いたのは主成分分析という手法です。

主成分分析について簡単に説明します。ビールの成分表には8種類のデータがありますが、8つ全ての指標を使うとグルーピングがめちゃくちゃ難しくなります。あっちが立てばこっちが立たずという状態です。そこで無理やり2つの指標に集約するのが主成分分析です。指標が2つになれば、グラフに図示できるので人の目でも簡単に認識することができます。

以下の図が主成分分析の結果です。ちなみに成分表のうち④脂質は全てのビールで0だったため除外、⑧食塩相当量はメーカーによって表記方法に差があったため除外しています。

右下に黒ビール、右上にプレミアムビール、一番搾り・黒ラベル・スーパードライの各メーカー主力の定番商品は中央左付近というように似た者同士が近い位置に置かれています。
この分布を見て横軸を「スッキリ~しっかり」の飲みごたえ軸、縦軸を「香り重視~苦味重視」の華やぎ軸と設定してみました。

この図を使うと、万が一行ったお店にお目当てのビールが無かった時でも代わりとなるビールを瞬時に選ぶことができます。その日の気分やおつまみに応じて飲みごたえ軸と華やぎ軸のレベルを設定して選んでもいいですね。
この地図により大海原で迷子になる心配はなくなりました。今すぐスマホにダウンロードしてみましょう!

マイベストビールチャンピオンシップ

さて地図ができあがり、どこにどんな島があるのかは分かりました。しかしどの島が一番居心地が良いかは実際に行ってみないと分かりません。旅行好きは地図を見るだけで楽しいと言いますが、我々ビール好きは見ているだけで楽しくなることはありません。3歳なのですから、実際に自分で体験することでしか成長できないのです。

ということで、マイベストビールは実際にビールを飲んで決めていくしかありません。渋々ではありますがビールの飲み比べをトーナメント方式でしていきたいと思います。

この大会はマイベストビールを決める史上最大の大会ですので、ルール設定が重要です。サッカーワールドカップも甲子園も地域予選がありますから、まずは近い者同士で戦って上を目指していくスタイルがいいでしょう。地域予選を含んだ大会対戦表を作成するために、クラスター分析法を利用しました。

クラスター分析法も似たもの同士をグルーピングする手法の一つです。ビールの成分表のデータから最も似た者同士をペアにします。そしてそのペアを一つのグループとみなして、さらに最も似たグループと結びつけていきます。これを繰り返すとトーナメント表のようなデンドログラムと呼ばれる図ができあがります。

これを少し改変して以下のようなトーナメント表を作りました。

黒リーグは試合数が少ないですが、甲子園地方予選も参加校数に差があるので良しとしましょう。ワールドリーグ・プレミアムリーグは名前の通り激戦が予想されます。定番リーグは強豪揃いで目が離せません。
さあ準備は整いました。いよいよ試合開始です。

1回戦

1回戦をダイジェストでお送りします。

@ワールドリーグ

ワールドリーグの注目はハートランド。1回戦は同じ緑の瓶詰めカールスバーグを破りましたが、そのうまさに驚き。これまで小洒落た店でハートランドしかないとがっかりしていましたが、そのイメージは間違っていたようです。この先の戦いでも期待大です。

エビスとオリオンが1回戦で当たっています。ということは似た者同士ということ。そんなイメージはありませんでしたが、実際に飲み比べてみると納得で味が似ています。

先入観はあまり役に立たないと感じたワールドリーグ1回戦でした。

@定番リーグ

「一番搾り×黒ラベル」、「スーパドライ×キリンラガー」の両試合ともに強豪同士の戦いで、ここでどちらかが敗退してしまうのは本当に惜しい。ファン必見の試合です。

勝ち上がったのは黒ラベルとスーパードライとなりましたが、定番リーグはとにかく総合力が高く、バランスが良いです。ビール好きな人も、そんなにでもない人も、みんながおいしく飲めるように絶妙なチューニングが施されているように感じます。

@プレミアムリーグ

各メーカーが力を入れているビール達が集まった中でも、特に注目の一戦が「プレミアムモルツ×スプリングバレー」でしょう。販売上でも両者はライバル視しているはずです。飲み比べてみるとどちらも華やかな香りがプレミアム感を演出していて贅沢な気分に浸れます。ビールを含め食品にとって香りの要素はとても重要だと気づかされました。

この試合はプレミアムモルツが勝利しましたが、決め手はビールらしい苦味をより強く感じたこと。ここまでの流れを見ると、より苦味を感じたビールが勝ち進んでいる傾向があり、個人的には苦味が効いたビールが好きなようです。

と言いながら、その対極にあるようなビールも1回戦を勝ち上がっています。それはSORACHI。苦味を全然感じないのですが、圧倒的に香りが強く、強烈な印象を残しました。

@黒リーグ

1回戦は一番搾り黒が勝利しました。香ばしい香りとまとわりつくような苦味が特徴的で、本場のギネスビールにも近い味でした。


リーグ優勝決定

各リーグ2~3回戦の戦いを経て、リーグ優勝が決定します。優勝ビールの戦いぶりから各リーグを振り返ってみましょう。

@ワールドリーグ

制したのはサッポロクラシックでした。ビール好きならご存知のとおり、北海道でしか販売されていません。地域限定のくせになぜエントリーされたかと言えば・・、僕が個人的に好きだからです。

公平な判断ができるか疑念が生じているところですが、フリーパスでここまで勝ち上がってきたわけでもありません。特にリーグ決勝戦では注目株であるハートランドに肉薄されています。最後は飲みごたえがしっかりしているという部分でクラシックに軍配が上がりましたが、シチュエーションが違えば分かりませんでした。

ワールドリーグはいろいろな味の指向のビールが集まっていて、合わせる食事、飲む場所、その時の気分で選ぶ楽しさがあります。我々ビール好きにとっては沼のようなところでした。

@定番リーグ

このリーグはスーパードライが優勝しました。2回戦で黒ラベルを破ったのですが、これが名勝負で最終的にはたまたま先攻だったスーパードライが爽快感を武器に勝利を収めました。決勝ではキリンクラシックラガーと対戦し、これまた僅差でしたが総合力で制しました。

定番リーグのビール全てに言えることは、味に奥行きがあるということです。最近スーパドライのパッケージに赤い曲線が載るようになりましたが、まさにあのイメージで、時系列で味が変化していくのです。口に入れて何秒後にこの味を持ってくるといったように入念に設計されているはずです。ビールの最先端を感じる戦いでした。

@プレミアムリーグ

注目選手が順当に勝ち上がり、決勝戦は「プレミアムモルツ×SORACHI」の一戦になりました。どちらも華やかで味のバランスも良く甲乙つけがたかったのですが、舌に残る余韻が若干長かったプレミアムモルツを勝者としました。ビール好きとしてはできるだけ長くビールを感じていたい。

プレミアムリーグの特徴は贅沢感なのですが、これはビールだけで出すことができないのです。ちょっとおいしい食べ物と一緒にということが重要で、このカテゴリーのビールは食事の味を邪魔しないように作られています。
ビールが苦手な人でも、ちょっと飲んでみようかなという非日常性と飲みやすさ。ビールのすそ野を広げてくれている存在です。

@黒ビールリーグ

トップは一番搾り黒でした。3つの中で最も黒ビールらしい味で、優勝にふさわしいビール、というか他のビールはどちらかというと黒ビール風で、国産で選ぶならなこれ一択でしょう。

日本で黒ビールはまだまだ浸透しておらず、本場では常温で飲むのが一般的なのに対し、ぬるいビールはちょっとという人も多いかと思います。今回も条件を揃えるため全て冷蔵庫で冷やしています。他のリーグとの戦いはアウェイになりますが、善戦を期待しましょう。


マイベストビール

各リーグの優勝が決まり、いよいよベスト4による準決勝・決勝に進んでいきます。

準決勝1試合
サッポロクラシック×スーパードライ

ほぼ頂上決戦
両者とも口当たり・ホップの香り・麦の甘み・苦味のバランス・強弱など構成はほとんど変わらず、違いはやってくるタイミングです。クラシックは一気に、スーパードライは順序立てて来ます。個人的な好みはその時々で味の感じ方を変えられるクラシックの勝ち上がりです。

準決勝第2試合
プレミアムモルツ×一番搾り黒

贅沢感の決勝戦
両者ともリーグ1位の名に偽りなくバランスが良いです。贅沢感の肝である食事との相性は、プレモルがより広く、辛い・甘い・油もの・自然系どれでもに対し、一番搾り黒は濃い味の食事により深くという感じで、方向性の違いが明確です。ここは万人受けの面を重視してプレミアムモルツを勝者としました。

決勝戦
サッポロクラシック×プレミアムモルツ

両者優勝でも
クラシックはザ・ビールの味でビールを飲んでいる感じがビンビンするし、プレモルはビールの枠を超えて「プレモル」という新しいジャンルです。クラシックは食事を包んでビール越しに味を透かしとる。プレモルは食事と伴走しながら味を引き立てる。
伝統的なビールが好きな僕はサッポロクラシックを選びました。

おわりに

今までビールを真剣に飲み比べたことがなかったので、純粋に新鮮な体験でした。味が似たビールであってもそれぞれに違うところがあり、おいしさは異なります。日夜おいしいビールを提供するために進化を続けているメーカーの努力に、驚きと感謝を酔ったあたまで感じながらこの企画は完遂です。

さてこれでビールを飲む理由が無くなってしまうと寂しく思っていたところ、アルコールの神様が降臨して新たな企画をひらめかせてくれました。

おつまみを入力するだけでピッタリのビールを提案してくれるAI

普段からビールが先かおつまみが先かは我々ビール好きにとって、にわとりと卵の問題と同じくらい難しく重要なタスクですが、これがあれば迷うことはありません。

AIはお酒を飲めませんから学習データを入力してあげなければなりません。ということはデータ取りのためにビールを飲む必要があるのです。これは厳しい仕事になることが予想されますが仕方がありません。やるしかないのです。ということでまだまだビールを飲めそうです。

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