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いちょうはその場所の風土を表している

10月も終わりが近づき,紅葉前線が南下してくる季節となりました。もみじ狩りは春の花見と同じく植物を眺めるイベントですがなんだか趣が違います。やがて散り行く色づく葉っぱを見て,1年が終わりに向かっていることを感じる少しセンチメンタルな体験です。

最近では民間気象会社が紅葉予報を出していて,もみじ狩りに出かける時期の参考になります。落葉するメカニズムとしては,気温低下と光量の低下により葉が光合成で生み出すエネルギーよりも使用するエネルギーの方が大きくなってしまうため,木が意図的に葉を切り離すからです。その過程で緑色成分を分解し栄養分を回収した後の黄色成分が残り,また分解により赤色成分が生成されるため葉が色づきます。しかし,どれだけ気温や光量が低下したら色づき落葉するかの条件については科学的にはっきりしていない部分の方が多いようです。

さて気象庁では「生物季節観測」として「かえで」と「いちょう」の色づいた日と落葉した日を毎年観測しています。

(生物季節観測は2020年度から大幅に縮小されてしまいました。その件についてはまた別の機会にまとめたいと思います)

この気象庁の「色づき日」の観測結果の平年値が以下です。

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かえでは素直に北から南へと降りてきている感じですが,いちょうはクセが強すぎませんか?

11月の最低気温の平年値の分布は以下の通りです。葉の色づきは気温が特定の温度以下となる時間の合計が一定を超えると始まるとされています。

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やはりかえでは素直に気温低下とともに色づいているのではないかと思います。一方いちょうは気温では説明がつきません。日照時間や日射量でも比較してみましたが,やはりいちょうはしっくりきませんでした。

いちょうの色づき日の図を再掲します。

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この複雑な線の理由は何でしょうか?推測してみます。

ひとつはいちょうの木に個性がありばらつきが大きいということです。例えば東北地方南部がとても早いですが,これは福島の観測点が特に早いからです。気象庁の観測は標本木で行うのでその標本木の個性が出ます。

もうひとつはその地域の地理的条件特性が大きく影響しているということです。例えば大分県付近と徳島県付近は他よりも遅いです。両地域とも地理的条件的には東向き斜面です。朝日が強くあたる条件と夕日が強くあたる条件では色づき違うのかも知れません。そう思って見てみると福岡付近や北陸~近畿が早いのもそのように見えてきます。広島・高知付近が他よりも早いのも興味深いです。

いちょうの色づきは地理条件による気象特性で木の個性が変わり,それに左右される。これはつまりいちょうはその土地の風土を表しているのではないでしょうか。

かえでに比べていちょうは街路樹に多く用いられたり,シンボルツリーだったり,銀杏を食用にしたり人間の生活に近いところにいる気がします。そんないちょうは気象特性だけでなく人々の営みによっても個性が変わるのかも知れません。

今回色づき等値線を見つけていちょうに非常に興味を持ちました。そして色づきの条件の解明をしてみたくなりました。とりあえず今年の紅葉はもみじをそっちのけで黄色のいちょうばかりを見ることになりそうです。

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