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すごい世界観もすごい漫画も届かないと意味がない! #ほぼ日の學校

「ほぼ日の學校」アドベントカレンダー24日目の授業紹介は、
江上英樹さんの『漫画に詳しくなかった漫画編集者【前編】 苦闘の日々編』『漫画に詳しくなかった漫画編集者【後編】 よろこびの日々編』です。

授業紹介・視聴動機

漫画に詳しくなかった漫画編集者【前編】 苦闘の日々編
江上英樹 (漫画編集者、合同会社部活代表)

漫画に詳しくなかった漫画編集者【後編】 よろこびの日々編
江上英樹 (漫画編集者、合同会社部活代表)

小学館の漫画編集者として数々の名作を生み出してきた江上英樹さん。「ビッグコミックスピリッツ」ではギャグ漫画の黄金期を支え、「IKKI(イッキ)」では編集長として稀有な作品を数多く世に出してきました。
あの、漫画家・松本大洋さんをして、“江上さんとずっと仕事をしたかった” と言わしめる江上さんに、漫画のこと、漫画家のこと、独立のこと、いま進めているプロジェクトのことなど、前後編に分けて、あますことなく語っていただきました。

前編は、漫画編集者としての生い立ちから、漫画家との苦闘の日々について。漫画に詳しくなかった江上さんは、どのように新しい漫画を生み出していったのでしょう?
公開日:2022.10.24

後編は、松本大洋さんのこと、会社を辞めて独立したときのこと、鉄道漫画展のこと、などなど。
時代を切り拓いてきた漫画編集者が語る言葉は、謙虚でありながらも熱量に満ち、挑戦しつづける力に溢れています!
公開日:2022.10.26

江上英樹(えがみひでき)
漫画編集者、合同会社部活代表

1958年、神奈川県生まれ。 小学館入社後、『ビッグコミックスピリッツ』など青年誌の編集を担当。 2000年に『ビッグコミックスピリッツ増刊IKKI』(2003年から『月刊IKKI』)を立ち上げ編集長に就任。 スピリッツ時代、IKKI時代を通して、数多くのヒット漫画、名作漫画を世に送り出す。 『月刊IKKI』休刊後の2014年に小学館を退社し、翌2015年、漫画&展覧会を扱う「ブルーシープ」を立ち上げる。 その後、WEB漫画を企画・制作する「ワイラボジャパン」に代表取締役として参加するが、2020年1月退社。 2020年7月「部活」を設立。 大の鉄道ファンとしても有名。

漫画が好きです。年末、漫画原作というものを書いてみたいと考えています。漫画のことをよく知る江上さんのお話を聞きたくなりました。

江上英樹さんの言葉

漫画編集をはじめた頃

音楽雑誌の担当から、スピリッツの編集に異動後、最初は、大先生のところで、先生に顔も合わせず、原稿を受け取るだけの日々

大御所の先生達との仕事というのは
あまり江上さんが機能する機会もない
という感じでしたか?
まぁ ないですよね
もちろん まだ漫画知らないし
そんな偉そうなことも言えないし
よくわからないからいいんです
ただただ 粛々とやり続ける感じで
結局 それを早く離れたいがために
自分で起こすということを
やらざるをえないというのが
よくできたシステムですね
「自分で起こさない限りはこれずっとやるの?」と

自分で動かないといけないとわかってから、インタビュー記事の情報、単行本のあとがきから作家の奥様の情報をたどる、直接利害関係のない出版社に直接聞くといったことをして、気になる作家さんに出会っていきます。つまらない仕事に甘んじて、環境のせいにするというサラリーマンには、参考になるお話ですよね。

漫画が描けなくなる作家さんの原因

『ストップ!! ひばりくん!』の江口寿史さんが、描けなくなる原因について。なるほど、これは文章でもある程度、言えることかもしれない。

江口さんみたいに他に描けなくなった漫画家も
ご存知だと思うんですけど
絵にどんどん進むと描けなくなるんです
自分の絵のクオリティがすごい高くなっていくと
だいたい あの人もあの人も絵がすごくなって
描けなくなっちゃうんです
「自分の思った絵が描けないよりは落としたほうがマシ」という
優先順位になるんです

江口さんも
きっと 浮かんでるんですよ
すごいおもしろいシーンが
その絵をものすごい完成度で描かなきゃ
きっと自分も納得しないんだろうし
読者も納得してくれないと
思ってるのかもしれないけど
ものすごい時間をかけて
描かなきゃいけないハメに
なったわけです
絵のクオリティを上げすぎて

漫画の裏側については、この本に載ってるらしい。
ぜったい読もう。

作家さんとの関係、作家さんと共有すること

『哭きの竜』の能條純一さんが描いた『月下の棋士』のお話。
編集さんが漫画家を通じて実現していることの一つですね。おもしろいと感じていることを作家に伝え、その作家を通して何かを見たい、という感じ。自分が作れなくても、何かを世に出すことはできるんですよね。

将棋に一生を費やす人の勝負の世界が
やっぱりちょっと不思議な感じがして
だから その勝負観というのを
能條純一さんという『哭きの竜』もそうだけど
何かを掴んでそうな人の才能を借りて
将棋というジャンルを借りて
自分でも わかりたかったなと
いうのがあったのかな

江上さん自身が知りたいことを
代わりに漫画家さんに描いてもらう

それはあります
そういうのは すごくあります
それが全くないと難しいですよね
そう あります
そのモチベーションは
すごくおもしろいなと思います
でも ある程度 それは本当に
僕から出したネタじゃなくても
外堀から埋まっていったような
ネタでも やっぱりそこを掴めないと
どんなに時流に合っていても
おもしろくならないというか
難しいなと思います

作家さんと共有していることについて。

例えば よく使う例で
走り幅跳びか 走り高跳びかって
僕 けっこうよく使っていて
さっきの百メートル競争じゃないけど
例えば 時流にどっちが乗っているか
今 走り高跳びのスターが
日本に登場したから
やっぱり走り幅跳びをやったほうが
いいんじゃないっていうことは
あるんだけど
僕としては
走り高跳びと走り幅跳びって
全然違う競技でしょ と思うわけです
走り高跳びって
最後 跳べないバーまでいって
一番遅く負けた人が勝つんです
一番最後まで
バーを落とさなかった人が勝つ
最後に負けた人が勝つんですよ
最後に負けた人が勝つんですよ
最後にバーを落として
優勝者が決まるじゃない
走り幅跳び みたいに
一番遠くまで跳んだ人が勝つ
というのと
勝負観が違うような気がするわけ
だから本当は今の電子時代だったら
走り高跳びだってレーザーで棒だして
目安だけ見せといて
一番高く跳んだ場所を
測ればいいじゃんと思うんだけど
でも あのバーを落とすかどうか
みたいな感じが
一つの勝負観みたいなものであって
だから どっちに注目するかによって
作家がどっちかなっていうのを
掴めるかがやっぱり大事なのかな
それは非常に極端な例かも
しれないんですけど
だと思います

作家さんの力

漫画家さんの大きな仕事は、話を作ることではなく、その世界観を作ること。そして、それをどう届けるか。どう伝えれば、その世界が読者に伝わるのか。

いま 江上さんがおっしゃったように
漫画家さんはその世界をつくっているけれども
漫画で描いてるのはその一部分でしかない

そうですね
その世界を いかにつくれるかという
でも それもすごい難しいというか
すごいスキルですよね
だから 新人への漫画の指導って
もう ほとんどそれに尽きてて
あなたの中に世界はあるでしょう
きっとあると
あなたがつくった世界が
べつに否定することはないし
描きたいと思ってる世界が
きっと 取るに足らない世界では
ないと思うんだけど
あなたは それをどうやって伝えるか
ということですよね
例えば じゃあ1コマ目って
どこから伝えるんですかと
青い空から始めるんですか
人のアップから始めるんですか
というときに
けっこう難しいじゃないですか
どこからいったっていい
でも 読者はその1コマ目を見た時に
いろんなことを考えるわけですよね
空から始まった
空にモノローグがのっかってたら
これは空を見ている人の
モノローグなのか
空は客観的な景色であって
モノローグとの距離がどのぐらい
あるのかっていうのは
わからない状態で
1コマ目を見るわけですよね
つまり 1コマ目を見たときに
わかる情報と疑問がいっぱい出てくる
2コマ目にいったときに
その人の情報が少しフォローされて
もうちょっとわかる
この中が もうちょっと見えてくる
もうちょっと見えてくる
あなたの描きたい世界が
どんどん 順番に見えてこなきゃ
いけないんだけど
途中でさらに疑問が増えてきて
わからなくなっちゃったら
ダメでしょうと
読者は 1コマ1コマ
あなたの描いてるものだけを
見ているんですよ
それ以外 情報ないですからね
だから それを意識して描かないと
あなたは その世界を
全部知ってるわけだから
ということを よく言うんだけど
それぐらいしかなくて
松本大洋とか やっぱり
そのへんはすごいですよね

漫画家と仕事を続ける理由

漫画家に すげえことを
教えられたりするわけですよ
ウワッて
そこはやめられないけど
もれなく付いてくる苦しみもあるって
いうやつですよね

どうやって作品を届けるか、どう事業を続けるか

自分はすごく好きなんだけど
自分の漫画の趣味は
自分の国の中ではマイノリティだ
そんな感じのことを言うわけですよ
これがわかる人は そう多くない
みたいなことを言うから
でも そういう人がいっぱい現れると
いっぱいいるから
マイノリティを合わせよう
みたいな感じですね
200ヶ国から5千部で
100万部じゃん
という計算が成立するわけですよ
世界中の「IKKI」好きな人を
うまく取り込めば100万部なんだな
とそのとき思ったんです
ただ 届けるためには紙は無理だなと
当時から思ったんですよ
デジタルだなと思って
電子書籍でやるしかないなと
紙のコストを抑えるために
電子書籍にするんじゃなくて
世界中に届けるために
電子書籍にしなきゃいけない
電子書籍にすることと
海外に 世界に送ること
この2つが「IKKI」にとって
自分としては急務だったわけです
そこからは
それを実現するために
けっこう社内で働きかけたんだけど
動かなかったです
全然 動かなかったんですよ

まとめ

編集という仕事、雑誌という仕事、クリエイターのこと、クリエイターとの付き合い方、仕事のおもしろさ。たんたんとお話される中に、いろいろ詰まってましたね。特に、作品世界のことを読者に伝えることの重要性、漫画というコンテンツ自体を世界に広げることの重要さの話を聞けてよかった。やっぱりどんなに価値があることであっても、届かないと意味がないですよね。いつも、どんなときにも、「これを誰に届けるのか?」を意識したいと思いました。



いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。