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はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その19 Q27 性別を変える治療をして後悔する人が多いと聞きましたが本当でしょうか

こんにちは。
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その19です。

はじめてのトランスジェンダーというサイトがありますね。

こちらのサイトはトランスジェンダーについて知りたいという人に紹介されることが多いサイトです。
しかし、このサイトには非常に多くの問題点が指摘されていて、トランスジェンダーについてはじめて学ぶ人に対して非常に不誠実な内容となっています。
それをなるべく丁寧に説明していきたいと思います。

今回は Q27 性別を変える治療をして後悔する人が多いと聞きましたが本当でしょうか について見ていきます。

また、ここでは性別移行をした後、元の性に戻ることをデトランジション、
それをする人をデトランジショナーと呼びます。


1.「後悔した人」の数値は医療を継続した人のみの数値

質問への回答の全文を見てみます。

「Q27 性別を変える治療をして後悔する人が多いと聞きましたが本当でしょうか

イギリスの調査によれば公的保健医療制度を使って性別移行をした3,398人のうち、性別移行を後悔した人は0.47%でした。このようなわずかな例を引き合いに、性別移行があたかも簡単に行われるとか、性別移行を勧める医師によって患者の自己決定が損なわれているかのように間違った議論が行われることがあります。」

ここでサイト運営者が根拠としているのが、以下の発表要旨です。

https://epath.eu/wp-content/uploads/2019/04/Boof-of-abstracts-EPATH2019.pdf#page=139

この文章によると、後悔した人を調べた方法は以下の通りです。

Patient assessment reports created between August 1st 2016 to August 1st 2017 were scanned electronically for words related to detransition or regret. The reports that were retrieved in the search were reviewed by study authors to identify evidence that patients had detransitioned or expressed regret related to their transition. Data extraction included patients’ age, gender identity, gender assigned at birth, and descriptions of their detransition or regret.

「2016 年 8 月 1 日から 2017 年 8 月 1 日までに作成された患者評価レポートを電子的にスキャンして、脱移行または後悔に関連する言葉を探しました。検索で得られたレポートは、患者が脱移行したか、移行に関連して後悔を表明したという証拠を特定するために、研究の著者によってレビューされました。データ抽出には、患者の年齢、性同一性、出生時に割り当てられた性別、脱転換または後悔の説明が含まれていました」(google翻訳)

しかし、この調査方法には疑問があります。

皆さんは、自分に何らかの心身の不調があって治療を受けた後、
その治療が適切でないと考えた場合どうしますか?
適切でないと思う治療をした病院に行って、
「自分はこの治療を受けるべきじゃなかった、後悔している」と
医師に向かって言う人がどのぐらいいるでしょうか?

多くの人は何も言わずに病院に行くのをやめる、
あるいは別の病院に行くのではないでしょうか?

仮に病院に通い続けたとしても
直接医師に「後悔している」とは言わず
他の方法に関するアドバイスを求めたりする人もいることでしょう。

そうです、わざわざ病院に行って医師に向かって後悔を表明する人は
後悔している人の内の極々一部にすぎないのです。



しかも、患者の後悔の表明というのは、
医師からすれば誤診の証拠です。
問診の中でちょっとぐらい迷いの言葉が漏れたとしても
カルテに記入していない可能性もあります。

そういう状況の中でカルテに明示された情報のみを下に
デトランジショナーの数であると認識するのは無理があるのではないでしょうか。

下記はデトランジションをした人についての調査です。

デトランジションをした100人の中で医師にそのことを伝えたのは24%だけだといいます。
その24%もこういった調査の情報にアクセスでき協力するような人達の中での24%です。
トランジションの失敗で社会の居場所を失ってしまった人や精神疾患などに悩まされる人は、
こういう調査にアクセスできる可能性が低いです。
そういう人も含めれば性同一性障害の診断をした医師にデトランジションを告げた人の割合はより低くなるでしょう。

同じくデトランジショナーの割合を示すデータとして引用されることが多いのは以下のスウェーデンでの調査です。

(PDF) An Analysis of All Applications for Sex Reassignment Surgery in Sweden, 1960-2010: Prevalence, Incidence, and Regrets (researchgate.net)

これによると後悔する人の割合は2.2%です。サイト運営者が上げた0.47%の5倍近くですが、それでも割合としては多くはないですね。

そして、こちらの調査方法をみると以下のようになっています。

The regret rate is defined as the number of sex reassigned individuals at the time period when they did their first application that will later apply for reversal to the original sex, compared to the total number of individuals who did their first application at that time period and received a new legal gender.

「後悔率は、最初の申請を行った時点で性別が変更され、後に元の性別への逆転を申請した人の数と、その期間に最初の申請を行い新しい法的性別を受け取った人の総数との比較として定義されました。」
(google翻訳を元に修整)

こちらは法的性別変更を行った人の中で、元の性別に戻す法的性別変更申請を出した人の割合で計算しています。
まず、法的性別変更を行う人はトランスの中でもごく一部にすぎません。

参考に日本では以下のようになっています。
(日本の場合は性別適合手術が性別変更の条件になるので、
 実際に性別変更を受けた人の割合は下記の5.9%よりももっと低い)

この調査ではホルモン投与や一部の手術を受けてそれ以上進まず、法的性別変更を行っていない人は含まれていません。
そして、そのように途中でトランジションをやめた人こそ、後悔している人たちの割合が高いでしょう。
そのように途中で引き返すことがなかった人たちだけの集団の中で見れば後悔している率は低くて当然です。

そして仮に性別変更について後悔していたとしても、
後悔している人がみんな「元の性別への変更を申請」する訳ではありません。
何しろ後悔している人は一度「法的性別変更」という手続きを行って
それが失敗だと思っている人です。
再度「法的性別変更」の手続きを行う心理的ハードルは高いでしょう。
後悔を抱えながらも再変更手続きは行わずに生きている人たちがいるはずです。

どちらの調査にしても、
わざわざ本人が後悔を明示的に表明しているケースのみをカウントしているだけであり、
後悔している人の全体像を把握しているとはとても言えません。


2.デトランジションを表明しづらいコミュニティがある

もしも若者が性別移行を途中まで進めた後で
「自分はトランスではなかった」と思いなおし、
デトランジションを行おうとしても、
それは容易ではありません。

トランスジェンダーのコミュニティの中では
デトランジションをした人を裏切り者のように扱い、
攻撃する雰囲気があるのです。

下記はイギリスでトランス男性として治療を受けた後、
自分の受けた診断・治療は間違っていたとして
それを行ったタビストック・クリニックに訴訟を起こしている
デトランジショナー、キーラ・ベルさんについての記述です。

しかし、キーラ・ベルさんはこのデトランジションによって
トランスコミュニティから攻撃を受けています。

いくつか引用してみましょう。

キーラ・ベルさんに対して非常に攻撃的な言葉が浴びせられていることが分かります。

トランスジェンダーのコミュニティからこのような攻撃を受けるとなれば、
心の中で性別移行を後悔していたとしても、
デトランジションを表明することは難しいでしょう。

仮にトランスをやめるにしても、
人に気づかれないように去る人も多いことでしょう。

彼らは自分達でデトランジションを表明できないようなコミュニティを作りながら
「デトランジションを表明する人は少ない」と言っているのです。


3.「性別移行があたかも簡単に行われ」ているように見える

先ほど引用したキーラ・ベルさんの記事を再度見てみましょう。

「注目すべきは、性別違和の治療を求める少女の数が増えていることです。2009年から2010年にかけて、ジェンダー・アイデンティティ・デベロプメント・サービスに紹介された子どもは77人で、そのうち52%が男の子でした。その比率は、数年後に全体の紹介数が急増したことで逆転し始めました。2018-19年のイングランドでは、男の子の紹介数は624人で、女の子は1,740人で、女子が全体の74%を占めました。紹介者の半数以上は14歳以下の者で、中には3歳の者もいました。裁判所は、タビストック病院の医師が、女児の急激な増加について「臨床的な説明」を行っていないことを指摘し、思春期抑制剤を開始した患者の年齢に関するデータを収集していないことに驚きを示しました。」

77人から、2364人への増加です。
もちろん「元々性別違和があったが医療に繋がることができなかった」という子どもも中にはいるでしょうが、
それにしても異常な増え方です。

そして、そういう子どもたちを診療する医療者について
このような問題が提示されているのです

“Primary and secondary care staff have told us that they feel under pressure to adopt an unquestioning affirmative approach and that this is at odds with the standard process of clinical assessment and diagnosis that they have been trained to undertake in all other clinical encounters.”

「一次医療と二次医療のスタッフは、疑問の余地のない肯定的なアプローチを採用するようプレッシャーを感じており、これは、他のすべての臨床現場で実施するように訓練されている臨床評価と診断の標準プロセスと矛盾していると語っています。」(Google 翻訳)

現場の医療スタッフが、子どもの性別違和の表明について他の原因を探ることなく、疑問を差しはさまずに肯定しなければというプレッシャーを感じているのです。
「診断の標準プロセス」に基づいた慎重な診断は行われていません。

そうなれば「性別移行があたかも簡単に行われ」る状況になってしまいますね。


4.まとめ

以上のことから以下のことがいえます。

・性別移行を後悔した人を数える際に、医療に繋がりつづけて後悔を表明した人や再移行申請をした人を数えるなど、数が少なく出る計算方法を用いている。
・デトランジションを表明した人に対してトランスコミュニティから攻撃が行われるため、デトランジションの表明は難しい。
・ジェンダークリニック受診者の急増、原因を探ること無き肯定など、「あたかも簡単に」性別移行を進めている状況がある。

Q27については以上です。

目次はこちら
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」目次|ヘイトを許さない一市民🐸人権を相対化する改憲に反対|note

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