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はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その2  Q3 トランスジェンダーはどれくらいの割合で存在しますか について

こんにちは。
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その2です。

はじめてのトランスジェンダーというサイトがありますね。

こちらのサイトはトランスジェンダーについて知りたいという人に紹介されることが多いサイトです。
しかし、このサイトには非常に多くの問題点が指摘されていて、トランスジェンダーについてはじめて学ぶ人に対して非常に不誠実な内容となっています。
それをなるべく丁寧に説明していきたいと思います。

Q3 トランスジェンダーはどれくらいの割合で存在しますか について

1.定義の定まらないものを数えられるのか

その1で紹介したようにトランスジェンダーの定義は国連、アムネスティ、『トランスジェンダリズム宣言』という書籍、ストーンウォール、そして「はじめてのトランスジェンダー」とで全て違う定義のされ方をしています。
そのような中で「どのような割合で存在しますか」という問いを立てても意味がないでしょう。
前回のブログにも書きましたが、『トランスジェンダリズム宣言』という書籍の定義に基づけば、女性の8割以上はトランスジェンダーでした。
曖昧領域をどこまで含むか、確信の有無を必要とするか違和感のみでいいのか、性表現のみでもトランスジェンダーなのか、
そういう定義の違いは数倍の差を生みます。
「自分が戸籍とは違う性であると確信している人」はかなり少ないでしょうが
「男性/女性に与えられる性役割に違和感を持つ人」はかなり多いでしょう。
定義の定まらない集団を数えるという行為、それ自体がそもそも不可能なはずなのです。

サイト運営者が上げたデータでは0.6%前後とのことですが、
こちらの調査だと成人で1.6%前後。若者に限れば5%とのことです。

調査の仕方や対象によってある程度の差がつくことは、社会調査につきものですが、
2倍、3倍というレベルで差がつくとなると、
そもそもその調査は有効なのか?と疑問符がつくでしょう。

少なくとも、「人口の中で女性はどれだけ?」「相対的貧困水準以下の人口はどれだけ?」「○○国籍の人はどれだけ?」という調査で、調査によって2倍、3倍という差がつくことはありません。

ですが、そもそも「トランスジェンダー」という言葉の定義が統一されていないとなれば、その結果も頷けます。
それぞれ違う定義で数えたものですから人数は一致しないでしょう。
おそらくサイト運営者は整合性への疑問符がつかないよう、その中で0.6%前後に収まるような調査結果をピックアップして掲載したのでしょう。

本来ならば「こういう定義に基づいた調査では」と前置きをするべき所ですが、そもそも定義がいくつもあるということを隠しているため、その前置きもありません。


2.UCLAの調査

サイト運営者があげた3つの調査はどれも数値が0.6%前後に収まっていることから、比較的狭い定義に基づく調査結果を持ってきたのでしょう。
それぞれどのような人を「トランスジェンダーである」と数えているのが見てみたいと思います。

こちらがサイトに上がっているUCLAの調査と思われます。
Recent data from the CDC’s Behavior Risk Factor Surveillance System (BRFSS) and Youth Risk Behavior Survey (YRBS)
「CDCの行動危険因子サーベイランスシステム(BRFSS)および青少年危険行動調査(YRBS)の最新データ」
(DeepL翻訳)
を元に0.6%という数値を出したらしいです。
どちらもサンプル数が十分に大きい調査であるため、サンプル数不足による結果の偏りはないと考えて良さそうです。

BRFSSの方を見るとランダムでの電話インタビューの結果らしいです。

トランスジェンダーに関する質問は
Do you consider yourself to be transgender?
というものです。
トランスジェンダーの定義についての共有は行われていないので、回答者のイメージする「トランスジェンダー」に該当するかどうかという質問になります。
しかし、何しろトランスジェンダーの定義がバラバラな状況であるため、この回答者のイメージするトランスジェンダー中身がバラバラである可能性が高いです。
この調査による成人のトランスジェンダー割合は成人は0.52%とのことです。

もう一つのYRBSの調査はアメリカの都市部に住む高校生を対象に行われたもののようです。

Some people describe themselves as transgender when their sex at birth does not match the way they think or feel about their gender. Are you transgender?
「出生時の性別が、自分の性別に対する考え方や感じ方と一致しない場合、自分をトランスジェンダーと表現する人がいます。あなたはトランスジェンダーですか?」
ここでは定義を共有した上での質問となっています。
その結果、高校生のトランスジェンダーの割合は1.8%です。

成人の数値の3倍以上です。

何故これほどの差がつくのでしょうか?
・高齢の方が世代的に性別への偏見が強い
・高齢の方が実際にトランスジェンダーが少ない
・若い世代は学校やメディアでトランスジェンダーについての情報を得る機会がある
・若い世代は自身のアイデンティティにまだ悩んでいる
などの理由が考えられますが、それ以前にそもそもの問題があります。
・質問がそもそも違う のです。

「出生時の性別が、自分の性別に対する考え方や感じ方と一致しない場合、自分をトランスジェンダーと表現する人がいます。」と定義を提示されての質問とそれを提示されないでの質問では回答が変わってくるのです。
調査方法の違うものを二つそのまま足し合わせるということは、
統計処理をする場合にはやってはいけないことですね。


3.大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート

これについては元のサイトにリンクが貼ってありますので、それを見てみましょう。

ここでトランスジェンダーとしてカウントされている人は

「あなたは今のご自分の性別を、出生時の性別(上で〇をつけたもの)と同じだととらえていますか。左側で2や3に〇をした方は、今の認識をお答えください。(〇はいくつでも)」

という質問に、「別の性別である」あるいは「違和感がある」と答え、今の認識について自分の出生時の性別以外に〇をつけた人をカウントしているようだ。
今の認識は 男 女 その他 の3つの選択肢でした。

トランスジェンダーという概念を聞いたことがある人ならともかく、そうでない人にとっては「今のご自分の性別を、出生時の性別と同じだととらえていますか」という質問自体が意味不明となる可能性があります。
GID特例法があるとはいえ、多くの人にとっては縁がないものです。
自分の性別が変化し得る、という概念を持っていない人はそれなりにいるでしょう。
回答者がどこまで質問の意味を理解して回答しているのかが明確ではありまっせんね。

またこの集計方法だと違和感がある人まで含んでいます。「異なる性である」という確信を持つに至らない人も数えているのですね。
Q1の「出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認を持つ人」とは違う定義で人数を数えていることになります。

別の性別だと感じる人が0.2%、違和感を感じると言う人が0.6%です。
はじめてのトランスジェンダーの定義で考えるならこの0.2%の方の数値を採用すべきでしたね。


4.埼玉県が2020年に実施した「LGBTQ実態調査」

3つ目の埼玉県の調査を見てみましょう。

https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/183194/lgbtqchousahoukokusho.pdf

「問24 あなたは今のご自分の性別を、出生時の性別(問23で〇をつけたもの)と同じだととらえていますか。(あてはまる番号1つに〇)」
となっています。質問文は大阪の調査とほぼ同じですね。
おそらく大阪の調査を参考にしたのだと思われます。

違うのは複数回答を禁止したことですね。
やはり複数回答では統計処理などの計算で困りますからね。

こちらも違和感がある人を含んでいますのでQ1の「出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認を持つ人」とは違う定義ですね。

こうしてみると、「はじめてのトランスジェンダー」で採用されている「出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認を持つ人」という定義に基づいてトランスジェンダーの人口割合を数えた数値ではありませんでした。

「違和感を持つ」だけの人をはずして数えると、0.2%ぐらいになりそうです。


5.別のトランスジェンダーの定義に基づいて調査するとどうなるか

さて、その1で紹介した通りトランスジェンダーという言葉にはいくつもの定義があります。

『トランスジェンダリズム宣言―性別の自己決定権と多様な性の肯定』(米沢 泉美 編著)を見てみましょう。

その中では「自分の生物学的な性別、または社会的に決められたその性別「らしい」振る舞いを求められることに対し、何らかの違和感を感じている人びと。」と定義されています。

この定義に基づいてアンケートとったところ、女性の8割以上、男性も5割以上が「自分の生物学的な性別、または社会的に決められたその性別「らしい」振る舞いを求められることに対し、何らかの違和感を感じている」と回答しました。

もちろんSNS上のことですので回答者の偏りは否めませんが、
1000票以上集まりましたので、私のフォロワーのみという程の偏りではないでしょう。
その偏りを加味しても6割ぐらいは該当すると言えるのではないでしょうか。

0.6%前後という数値はあくまである定義に基づいて、しかも「はじめてのトランスジェンダー」で用いられているものとは違う定義に基づいて行われた調査結果であり、普遍的な数値とは言えなさそうです。


6 まとめ

以上の事から、以下のことがいえます。

・人口の中のトランスジェンダーの割合はトランスジェンダーの定義の仕方によって異なる。
・狭義である「はじめてのトランスジェンダー」の定義に基づけば約0.2%
・「はじめてのトランスジェンダー」のサイトで紹介している0.6%前後という数値は、「はじめてのトランスジェンダー」とは違う定義による調査結果
・広義である「トランスジェンダリズム宣言」の定義に基づけば60%程度と推測される
・人口の0.2%~60%程度と、定義によって数百倍程度の揺らぎが想定される。
Q3については以上です。

目次はこちら
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」目次|ヘイトを許さない一市民🐸人権を相対化する改憲に反対|note

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