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海老の天ぷらと接骨院

海老の天ぷらと接骨院

 パチパチ、チリチリ、ジュワー。天ぷらが揚がる。

 大晦日に年越し蕎麦を食べた。今年は蕎麦の上にのせる天ぷらを買わずに自宅で揚げた。海老の天ぷらを揚げるといつもまっすぐに揚げることができず、反ってしまう。天ぷら屋の海老のように、せめてスーパーで売っている海老のようにまっすぐに揚げることができないだろうか。
 困った時のネット検索。なるほどと思いながらもいくつかのサイトをみる。よし、これでわかった。

 まな板の上に、海老をおく。身につけた鎧をゆっくりと剥がす。捨てるのはもったいない。これって、油で揚げて、塩胡椒すれば酒のツマミになりそうだ。よし、捨てずに取っておこう。
 尻尾だけつけた海老、背ワタを取って。よし、ここまではできた。海老を反らさないためにはここからだ。お腹に切れ目を入れると書いてある。斜めに入れると書いてあるサイトもあった。5ミリほどの深さで入れると書いてあるものもあった。ん〜。このあたりはやってみないと分からない。お腹に斜めに間隔をあけて、深さは適当に切れ目を入れた。まぁ、いいだろう。
 え〜と、次はどうするんだ? お腹を下にして背中を押す? その時、ブチッと音がすると書いてある。海老がブチッと音を出す?まさか。
 切り込みを入れた腹を下にして、まな板の上に置いた。海老の背筋を、指圧をするように押すと、ブチッと音がすると書いてあるが、まぁ、やってみよう。
 え?本当にブチッと音がする。まるで海老の背中を親指で指圧をしているようだ。ブチッ、ブチッ。裏返してみると、切れ目があるからだろうか、腹が広がっていた。しかも最初の状態より、間違いなく海老の背が伸びた。
 よし、これで天ぷらにしてみよう。

パチパチ、チリチリ、ジュワー
 パチパチ、チリチリ、ジュワー

 揚がる海老を見ていて、さっきのブチッ、ブチッという音が耳に戻ってきた。

 何かに似ている、この音、この感覚。

 あ、そうだ。あの時の音だ。
背筋がコリコリで整体に行った時だ。私がうつ伏せになると、整体の方が背筋を親指でグイグイとおしてきたときだ。ブチッという音がなった。そうだ、あの時の音だ。
 ブチッ、ブチッとした後に、熱した油の中に。あ、違う、違う。それは海老で私ではない。

 気づくと目の前の海老は、いい色に揚がっていた。


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