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あにの 嘘も方便の小話

 あには弟が嫌いでした。

  そも幼少期。3つ年下の弟なんてほとんど自分の劣化コピーですからね。
 乳幼児のかわいい一瞬が過ぎ去ればあとはただただ自分が3年前に克服したあれこれができない愚鈍な塊です。
 しかも「おいーちゃん! おいーちゃん!」と呼びながらどこに行くにもついてくる。なにかやってると「おでも! おでも!」と割り込んでくる。
 好きなわけがありません。

 その日あには友達の上野くんの家に遊びに行くところでした。お隣のよしこねーちゃんのお下がりを父がリメイクしてくれた青い自転車にまたがって、さっそうと出発しようとすると、家の中からあいつが出てきます。

「おいーちゃん。おでもいく!」

 弟です。

 保育園児の弟が、あにから下賜された小さな補助輪付きの自転車を引っ張り出してきているではありませんか。

……とてもめんどくさい。

 補助輪付きの幼児用小径車に乗った弟は、もれなく兄に遅れをとります。
 そうすると後ろのほうからいつもの

「おいーちゃん! まーってー! もまーってもまーってもまーってもまーってもまーってー!」

という、弟の得意技「無限もまって」がはじまるのです。

 そもそも上野くんはあにの同級生です。なんでその上野くんの家に弟がついてくるんですか。理解ができません。

 ここで聡明な兄少年は考えました。なにか弟を家にとどめおく良い方法はないものかと…。


「弟ちゃん…いいかい、うえちゃんの家には爆弾があるんだ。だから…お前を連れて行くことは……できない!」

「おいーちゃんは爆弾があるのになんでいくの?」

「それはね。その爆弾は、保育園児が近づくと、爆発してしまうんだ。だから…お前を連れて行くことは……できない!」

「おいーちゃん!」


 その日からしばらく、あに少年は足手まといなしで友達と楽しく遊ぶことができました。

 その間弟が家でなにをしていたのかは知りません。

 だって兄少年は、弟が嫌いですから。

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