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おとおとの 父との登山の話

僕ら兄弟の両親は同郷の幼なじみで
山に囲まれた集落の出である。

そのせいもあってか
親戚一同揃いも揃って登山、冒険、椎名誠が大好き。
父親に至っては50すぎて人生の思い出にとかいってキリマンジャロに入山するという筋金入り。

そんな父なので休みの日は息子と山に登りたい。
だがホソガリの兄と違い生まれて3ヶ月検診からずっと肥満児の僕は父との山登りなんかより近所に住む肥満児友達オオゼキくんと駄菓子屋でうまい棒片手に広末涼子の話をしている方がよっぽど楽しい。
なんで休みの日に坂道を延々とあるかにゃいけんの。
前世か?
前世でよっぽど悪いことでもしたんか?
と徹底的に拒否の姿勢でいる。
しかし父も息子と近所の高尾山に登るためにあらゆる作戦をぶつけてくる。

「なあなあ、高尾山行こ。」

もちろん断ると、なんと今回はリフトに乗せてくれるという。
山は嫌いだがリフトは別である。しかもリフトで上がれるならしんどい思いをしないであわよくば名物とろろ蕎麦が食える。
これ幸いとノコノコついていくと

「登りのリフトは地面しか見えてないから乗っても面白くない。帰りに乗ろう。」

この時点で交渉段階と言ってることが違うがもう来てしまったからしょうがなく自力で登る。
山道を歩いていると途中の売店でお団子が売ってる。
リフトで上がれないならせめて団子を食わせてくれとうったえると

「これは内緒の話だけどこの団子を丸める時、パートのおばちゃんが気合い入れるために手に唾をぺっぺってしてるからやめた方がいい。」

んなわきゃない。

今考えれば苦しい嘘だが小学生の純粋な少年は
簡単にお団子も回避される。
この時点でもうやられたと思っている肥満児。
そして数時間。
息も絶え絶えになりながらようやく頂上に到着。
すると父はキャンプグッズのガスコンロとチャルメラを出してせっせと調理し始める。

ちょっとまってくれ。
とろろ蕎麦わい。

「こんな観光客相手にしているお店のご飯は高くてまずい。それならオトンが作るインスタントの方が上手いし安いぞ!それに周りを見てみろ。みんな冷たいお弁当食べてる中、こんな熱々ラーメンを食べれているお前はこの空間ではむしろ富裕層だ。」

もうやだ。帰りたい。
とっととリフトに乗って帰りたい。
食事も終え、帰りのリフト乗り場に到着。
さあ父さん。行きでは地面しか見えなくとも帰りは高尾山の自然と遠くには都心が一望できる絶景リフトに

「リフトが数分でこの金額!たっか!だったらもう下りだけだしとっとと降りてそのお金で焼肉食べに行った方が良くね?」

おい親父よ。
さっすがに温厚な僕も高尾のリフト乗り場で怒りをさけ...

焼肉?

今焼肉って言った?
焼肉連れてってくれるの?
親父
いや、父さん
いや、大好きなパパ!
わかった。リフトは諦めよう!
だって焼肉だもん!!

そして自足で下山。
足も痛い。喉もかわいた。
でも大丈夫。
しつこいようだけど今日は焼肉だもん。

夕方、父にいったん帰って汗流してから焼肉に行こうと言われ家に帰ると、、
既に母が台所で晩御飯をこしらえている。


はい焼肉延期。


僕はこの時確信した。

父は息子を焼肉に連れていく気も
リフトに乗せる気も
最初からなかったのだろう。

以上。
登山好き一族で唯一山が大嫌いなおとおとの話でした。

最後に父をフォローしとくと
山の頂上で食べるチャルメラは世界一美味いラーメンである事だけは認める。
山嫌いだけど。

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