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鶏卵不足と見通しはどうか 鶏卵の供給には何が必要なのか 数か人か

全国でまん延している鳥インフルエンザですが、すでに国内餌付けの1割に当たる数の鶏が処分されています。
最近は販売価格が高いことで、店頭での消費者の声を取り上げたり、加工向け商品の提供が減少・見合わせをしていたりと、鶏卵がないことを取り上げる機会が増えてきています。
15日現在、全国25道県で1478万羽の被害となりました。
ご存じの通り令和2年度の大流行987万羽を超えています。
すでにピークは越えているとされていますが、発生農場の大規模化による1農場での防疫数は過去最大数を更新し発生しており、大規模集約化による弊害が見られています。
昨年より厳重警戒をお話ししておりましたが、すでに多くの農場ではこれ以上できないと言えるレベルまで対応をされていると思います。
もう少しの辛抱ですので手抜かりなく衛生管理を続けてまいりましょう。

さて、加工向けの供給はすでに遅延が発生していることはご承知していると思います。
専属農場から仕入れている加工向け工場も必要数がまとまらないような状況で、専属加工向けとして出荷していた農場はテーブルエッグに振り替えていることがわかります。
もともと、加工向けだからB級卵を中心に生産をしてるわけでもなく通常の規格卵でもあり販路先確保の観点で契約しているだけにすぎません。
弊所の管理農場も同様で、加工向けは従前契約数までは供給するものの、追加供給は対応していないと聞いており、テーブルエッグへの出荷を維持されているような状況です。

ですが、箱問屋や仕入れバイヤーからは追加を求める声も聞くといいますが、どちらも大事なお客様である以上価格だけで出荷比率を変えることはできないといいます。

ご存じの通り、鶏卵は中すうが成鶏農場にやってきておよそ2か月経過すると、概ねMサイズの鶏卵を中心とした出荷体制が整います。
年間スケジュールで調整をしており、多くの農場もそうだと思いますが幼雛や中すうの鶏入荷には遅延はないと思います。
ですが鶏卵を多く求める声には応えきれていないことでしょう。

現在廃鶏を延長して鶏卵を生産している農場は弊所で見る限りありません。
これは、スケジュールが狂うことで翌月以降のスケジュールが全てずれるからです。
昨年末「鶏を長く飼育して生産をしてほしく、年明けは鶏卵価格が下がる見通し」という旨を農水大臣はコメントしていますが、なかなか難しいところだと思いましたが、
先日農水大臣は、「完全に間違いというか、先を見通す力がなかった。あと半年は待っていただくような」といった発言修正をしています。
確かに養鶏業界の今の生産体制を知っていただくとこのような結果になるかと思います。
これにより販売先は「見通しが甘い」等国の見通しのなさを指摘されている報道もありました。

ですが、国が供給不安になるから「緊急事態です」とも言えませんから、ある意味このような形にもなるのかもしれません。
国のコメント以外にも大事なことは、このような被害を防ぐということや供給不安を生じさせない方法を構築することではないかと思います。

まずこの先の供給はどうなるのでしょうか。
鳥インフルエンザが発生し防疫措置後から回復農場が昨年末ごろまで発生したところでは早くて今月から3月には大びなを入荷するところも出てくると思います。
となりますと、5月には供給再開も可能になるということにはなります。
ですが、大規模農場は一度に失った100万羽を全て導入するということはありませんので、1ロット単位(多くは3~10万羽)程度になり、数週間から毎月にかけて1ロットの追加程度でロット数が10あれば10か月程度後に農場フル稼働になるということになります。これですと生産回復は年末から来年初頭になるということです。

既に大規模産地では県生産量の2割や3割といったまとまった数の鶏を失っており、明日・明後日で解決できる状況ではありません。
このため需要が減退し供給数低下とつり合いが期待できる夏ごろまでは、今の供給不安は続くとみるべきではないかと思います。そのため鶏卵相場は高止まりすることが予想され、一服感があるかどうかが年後半の姿を予測できるでしょう。

その後、秋の需要増加期には鶏卵相場は通常通りの上昇が続きます。
これは被害農場の再稼働が順調に進んだ令和2年流行後の流れとは違い、緩やかに回復していくという現状の餌付け状況と種鶏の状況から予測ができます。

昨年はコスト削減から成鶏農場のみならず、生産元となる種鶏農場でも餌付けを減少させたという声も聞きます。
つまり卵を産んでくれる農場向けのヒナは潤沢というほどではないという現実がありそうです。
このこともあり、回復は今年末まで続くことで年末はM規準値は330円かそれ以上となり年末を迎えるという流れになるでしょう。
そのころは令和5年度の鳥インフルエンザが発生しているとなればまた異なる未来があるでしょう。

今年度の大流行による飼養衛生管理基準の見直しは恐らくあるとみています。
例えば、冬だけのイベントとされた消石灰散布は通年行う可能性もあるでしょう。
鶏舎への出入りは鶏舎ごとに衣服や履物を用意し励行するということもあるでしょう。
現在、養豚農場ほど養鶏農場は衛生管理は厳しくはないと思います。
鶏舎ごとの衣服と長靴の使用は現実的ではないという声も多いことから、どうしても衛生管理意識は薄くなりがちです。
これは、鶏舎ごとに衣服や長靴を用意できないことや、その脱着場所を用意できないということもあるでしょう。
また飼養衛生管理者も鶏舎ごとに用意できているとしても、作業員はその基準にはないため全鶏舎を管理させるというところもあるのではないかと思います。

こうなりますと、鶏舎ごとに管理をして外部と遮断しているとは言えない環境ができてしまいます。
恐らく、鶏舎ごとに専用作業者を入れているところは大手の農場かごく一部の農場になるのではないかと感じます。
ですから、現状の設備ではできないから鶏舎靴は共有するが、鶏舎外は違う長靴を使用しているから遮断できているというところが多いのではないでしょうか。

これは今の人員不足から見て仕方ないという方もいるでしょう。
ですが、人の意識が農場の衛生管理レベルを左右させることは皆さん知っていることと思います。
であれば、厳しい基準にどう合わせていくのかという意識が大事なのですが、多くは昔からこの人員で行っており昨日までは問題がないのだから、
厳しくする必要はないという発言もあるでしょうし、発生したら考えれば良いことという声もあるでしょう。

今年は過去最大の殺処分となりまだ2月も下旬になるのかというところです。
例年は散発発生になり3月には発生が収束するのですが、昨年は5月まで続きました。
そして渡り鳥が飛来する前の9月に野鳥から検出され不安が再燃している中大流行が始まり今日にいたります。

農場での野鳥対策は金網と言いますが、いまやウインドレス鶏舎で金網と言われても金網はなく入気口と排気口の設計になっており野鳥がスパイ映画のように排気口の回転する羽の隙間をぬって侵入することはありませんし、寒いからこそ積極的な入気もしていないでしょう。
ですから、野鳥が侵入するのであれば人が機材を入れたときに一緒に侵入してしまうということはあるでしょうが、これは人の意識の問題です。
短時間開放が基本なのに機材全てを入れるまで開放しているであれば鳥も入るでしょう。
それは良いことなのかと考えれば良いはずはありません。ですがそれが良くないことであることがわからないと作業優先であるという違う意識が働き衛生管理がおざなりになります。

これが意識の低下です。

人が鶏舎に入るときも同じです。汚染された敷地から履物を変えずに入ることのリスクはウイルスが見えないからこそそれはリスクではないと考えがちです。
ですが、人は手間を惜しむことに意識が向きがちです。そしてその理由に時間短縮と作業効率というキーワードを出すところもあります。
こうすることで、人の意識ではなく農場への貢献から効率・時短という言葉で紛らわせてしまうのです。
そして、見ていなければそのまま入ろうという意識も生まれてしまいます。
履き替えるというシステムがあっても実行は人なのです。

人の意識が大事なのがこのシステムの要になるのです。

飼養衛生管理基準に適合した設備面は多くは満たしていると感じます。
手指足の消毒をして鶏舎入るという設備や規則はあるでしょう。
では作業者はその規則を知り実施しているのかとみれば、人が見ていれば行うでしょうが、では不在時は?となるのです。
見えないものだからこそ油断しがちです。そして被害が発生したときは甚大です。

もちろん多くの農場は正しく実行し見えないものから農場を守っていると言えますし、しっかり対策を講じても不幸にして発生農場になってしまったと事もあるでしょう。
安全は毎日の安全の継続があることで成り立ちます。少しの手抜かりが安全というバランスを崩してしまい被害にあうこともあります。
大事なのは、今の衛生管理には人に意識はどこまでリスクになるのかという視点で農場を見るということです。

全てが人が原因とは言いません。
ですが多く見られるのは人がウイルスを運ぶ役になるということです。
それは鶏に一番近いところに人がいるからです。

今年の鶏卵相場は昨年以上に高値が続くことでしょう。
配合飼料やエネルギー価格は高いとはいえそれを補うには十分ではないにしろ著しい不足はないはずです。
十分に利益はないのかもしれませんが、この状態で赤字であるならば、平時は大赤字になる農場でもあり経営面から大変不安な状態です。

そのような環境下で衛生対策優先と言っても限りはあるでしょうし、それよりも生産向上を意識しているところもあるかもしれません。
経営戦略も大事ですが、安定した経営は衛生対策の基本の上に成り立っていますが、それに気づけていない農場もあります。

卵を産むからお金になるから衛生対策ではないという声も聞きます。

本当にその通りなのでしょうか。
卵を産むけど鳥インフルエンザが発生したらその卵は売れないどころか殺処分され明日から無収入になるのに衛生管理という視点は不要といえるのでしょうか。
殺処分されたら、衛生管理と言っても手遅れなのです。
最低半年は無収入を覚悟しなければなりません。たしかに補償金は受け取ることはできるでしょうが、それだけでは半年先までの収入は十分ではありませんし、鶏卵再出荷できても販路が変わっているということも珍しくはないのです。
その先が見通せない、相場が未来永劫高く続けば安泰ということでは平時の低卵価の際に生きていけるのでしょうか。
一部は廃業を選ぶという厳しい現実もあるのです。

「うちはそうならないよ」という声もありますが、根拠がない「ならない」はただの丁半博打の半と言ってるだけにすぎません。
それは鳥インフルエンザが発生し被害を知らないから言えるのです。

大金があり大手流通から引き合いがあり、販売は1年待ちで売ってやるという意識の殿様農場であればそう言っても安泰なのかもしれませんが、まずそのような養鶏場は見たことはありません。

多くは昨日まで何もなかったので今日も明日も来年もないという予測で話しているだけです。
繰り返しますが、大事なことは見落としがないのかもう一度見直すということです。それは身近なものに穴があるのかもしれません。
そして、これだけ発生が甚大化したという現実を直視し大規模化するということは鶏舎の工事費だけを負担するのではなく、衛生管理に要する費用や埋却地を用意し速やかに埋却できる準備も工面しなければならないのかもしれません。

恐らく都道府県だけの負担ではいくら国費が流入しているから負担はいらないという声も聞きますが、殺処分・埋却まで負担はしきれない状態になっているように感じます。
いらないし不便だと言われる消毒ポイントの稼働費用も本当は莫大な額になっているはずです。24時間稼働するため人件費も安いものではありませんし設備費も相当かかります。
ある養鶏家は訪れて、消毒方法を指南されたようで、あの人たちは消毒を知らないと豪語されている方もいました。
確かに消毒に携わる方々には民間団体の方や地域の建設業者さんといった普段から消毒を専門に行う方々ではないのかもしれません。
ですがタイヤ回りといった感染源を断ち切るべきポイントはしっかり身に着けているように感じますので、無知で無意味とは言えないのが本当の姿に見えます。

その方は消毒液があるのだから車両全体をかけるべきなのだと言ったそうです。
確かにタイヤ以上に効果が高まるかもしれませんが、車が運ぶリスクはタイヤとその周辺部になるのが一般的で、せいぜいドアノブや車内のフロアマット程度で十分と言えます。
それは農場内で交差汚染しやすい部位はタイヤ・人の靴底が農場従事者と交差するといったもので、車体本体ではないからです。
車に乗ってドライブスルーのように鶏舎に入ることはしませんし農場に着いたとたん車の塗装から菌が浮遊するということも稀すぎることでしょう。
このように目的を整理すると、あまり意味のない指南にも聞こえてしまいます。

そして殺処分する職員の方々もお金で解決できるような心身の負担ではありません。私たち養鶏家であれば淘汰できないほど弱い精神は持っていないはずです。この鶏100羽を淘汰してくれと言われれば心を無にして行えることができるでしょう。
ですが、普段から生き物の生死に携わらない県の方々にいくら負担が小さい炭酸ガスで安楽死させるとはいえ、補鳥作業、ガス注入、そのフレコン運搬に心を無にして3ローテの中ひたすら出来るのかと言えば難しいのではないでしょうか。
皆さんも初めて淘汰させたとき、心を痛めたり、何か殺生している感があったのではないかと思います。人によっては鶏肉がしばらく食べることができなかったという方もいたでしょう。
その作業を本来の業務でないのに行ってもらうのです。
「感染のたびに経営再建には大きな負担を強いられており、処分負担も重なれば生産者はいなくなる」という養鶏団体のコメントがあるようですが、繰り返しますが鳥インフルエンザが発生した農場の衛生意識は本当に高く偶然の感染だったと言い切れるのか。
ということです。

その背後には決して表に出ないかもしれない人の行動が隠れていることもあるのかどうかということです。

確かに再建には大きな負担が生じます。
そしてそれを理由に生産を取りやめるところもあるでしょう。それはまた感染したら耐えることができないからです。
ですが、これだけ広範囲に鳥インフルエンザが発生し、野鳥との因果関係から断ち切ることが難しくなっている現代では今まで同じ衛生管理では太刀打ちできないのも現実になります。

であれば、新しい考え方として必要な措置とそれにかかる費用の在り方、発生農場の基準違反による補償金減額基準の見える化も大事になるでしょう。
少なくとも発生があった際には基準不適合には相応の対応は必要になります。そしてその減額分は県へ交付させるという仕組みもあってよいのではないかと思います。

無料の物が有料になるという時多くはアレルギーを起こします。有料になれば廃業が発生する。有料になれば大手以外生き残れないといった具合です。

意見はその側の意向を中心に話をします。
ですから一理あるのですが細部を見ると本当にそれだけでそうなるのか。
本当にそうすることが養鶏家にとって不利益になるのか。
こうすることが養鶏家にとって有益ではないのか。
このような第三者的意見も大事なのではないかと思うのです。

誰もが鳥インフルエンザが発生したら大変で、その先の危機を知っているからこそ不安なのです。だからこそ、そうならないように対策を講じているのです。

そして感染ルートが解明されていないからこそ、あらゆる方法で遮断する方法を実施していくのですが、あらゆるが多すぎたり、人の意識次第で穴が開いた管理になってしまうこともあるのです。

では、そうしないために人の教育をして十分なのか。
本当はそれだけで足りるのか。
根本から見て設備面で対応させるのかという方法もあるのです。

飼養衛生管理基準では鶏舎への出入りに外部を介さない方法であれば1つの鶏舎とみなすという規定があります。
つまり、渡り廊下を設置し外部を歩かせないという設備を作るだけでも履き替えしないかもしれないリスクといった無駄な工程が省略できるのです。

後は、お金を出せるのかどうかの話です。昔はそのような規定はありませんでしたから無駄な議論に聞こえる方もいるでしょう。
ですが、法令が改正されるということはそのような管理をして遮断させる必要があるということを意味しています。
ですから、昭和の時代ではという昔話しかできないでは令和の時代に生きてはいけません。
経営側も時代にあったアップデートが必要なのです。

まだまだ鶏卵価格は高止まりしていくことが確実視されているからこそ、私たちはそこから利益を得て必要な対策にお金を投じていくことがとても大事なことなのかもしれません。
鶏の数を増やすことも大事なことですが、長い年月借金を返済していくためには安定した生産ができていなければ話にはなりません。そのためには鳥インフルエンザを防ぐように安全な鶏舎管理ができていなければ難しい話です。

では、皆さんは鶏の数を増やし農場を回していきますか。それとも人の意識のためにお金を使い安全を第1にしていきますか。
どちらかが正解で、片方は不正解ということはありません。
皆さんの考え方次第ではどちらも正解になるのです。

それはどうすればよいのか。
そう心に問いかけてみてください。
きっとベテランであるあなたが、明確なビジョンを示してくれることでしょう。


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