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現役並みの給与を支払うとは 技術職は必要なことかもしれません

労働人口が少なくなっていく現代では、今いる従業員をいかに長く定着して働いてもらい農場を維持していくかが課題のように見えます。

最近は大手企業でも60歳定年以降の給与水準を59歳時点と同じで雇用していくという話も聞くようになりました。

皆さんの農場では就業規則を定めている農場もあると思います。

常時10名以上の従業員を使用する使用者は労働基準法第89条により、就業規則を作成し所管する労働基準監督署へ提出することになっています。
多くの農場ではこれに該当することから、作成は必須で提出されていることと思います。
JGAP畜産でも要求基準にありますので畜産だから不要で、そもそも農業は不要と言うことはありません。

その中身を見ると、作成は今から数十年前のものをそのまま運用されているところが多いと思います。

今日お話しする現役並み給与とは、多くの農場に見られる60歳以降の処遇についてどのような意識を持っていますかということです。

さて、多くは60歳をもって社員として雇用していた従業員を臨時社員又は嘱託社員と区分わけをして継続雇用をすることが多いと思います。

そして休日設定もそのまま、労働時間と作業内容もそのままで継続していき、作業上の不便は労使ともありませんが、賃金は月給与から日当いくらに変わると思います。

その額は現役が1日15000円程度とした場合に、60歳以降は8000円か10000円としたキリの良い金額を提示して雇用を継続していくと思います。

責任者であった場合は就業規則から責任職から外し、一般として継続雇用していくのでその減額は当然であると聞きます。

最近農場の技術レベルはどうでしょうか。

多くは変わらないしむしろ向上しているという声もあるかもしれませんが、お金にシビアである農場では人の出入りが激しく定着しにくく技術もないという事例もあります。

鶏の能力が高ければ技術はいらないという話もある農場経営者は言いました。

確かに卵を産む、産まないは鶏しだいですから人がかかわるところが少ないのでそのように感じるのでしょう。

でも良く見てみると、その農場ほど産卵成績はまあ人並、特別技術もないので、故障対応も技術や発想力が少ない従業員が行い修理完了するのですが、多くは今日動けばよいという応急処置にとどまるという事例も多く見えます。

その背景には、修理をするということは再稼働出来ればよいという目先の目的なのか、故障個所を修繕してこの先も稼働できる状態までを修理というのかという視点が違うということです。

これにより、今日は動くのですが結果的に異常箇所に今以上の負荷がかかり周辺部品まで損傷し、次回再稼働できない時は大きな修繕とその対応時間が大きくかかり、広範囲な部品交換代と修理業者の職人給は大きくなる傾向があります。

経営者に報告が上がる場合の多くは経年劣化でそうなったとすることが多く、実際は人災ではないのですが初期対応の不備から損傷が広がるということまで気づく経営者は多くはないように見えます。

最近の機械類は数年5年程度で損傷することは経験から見てありません。
しっかり保全管理があれば10年それ以上何も手を入れるような事例は発生しないのですがそうもいかないという農場も多くあります。

年間数台しか売れない養鶏機械だからこそしっかり作り価格も高い傾向があります。

ですから多くはメンテナンス不足からくる破損、ベアリングやチェーンの摩耗や固着は給油不足が要因でこれが異音を出し動作不良を起こし、チェーンが絡み損傷や破損が良く見る事例です。

集糞ベルトの摩耗もベルトの位置不良(多くは位置合わせする金具の固着から伸び縮み調整ができないことから調整できず位置不良に至ることが多い)から片伸びして破損することも多く、その要因にはやはりメンテナンスが不足していることが要因です。

物は消耗するもの、時間とともに劣化するものありますが、多くは劣化していく過程がわからないのも原因に見えます。

そして金銭感覚があると自認している農場責任者ほど低価格な機械類を好んで購入します。

初期投資はどれだけ物を長く使うか決める要素では重要です。

安いものとは相応の物という認識が欠けてしまうと、養鶏機械専門メーカー1台500万円の集卵設備機と315万円の無名外国メーカーの類似品では同じ形状ですが、多くはこだわる(多くはメンテナンスを簡易にしたり不要とする時間を長くする工夫)ところがあるのが専門メーカーとの違いです。

専門メーカーは故障対応(アフター対応)できるほど十分多くの人員を配置できていないこともありますので、できるだけメンテナンスフリーかその方法を簡素化して農場で対応できるような工夫が見られます。

専門メーカーでない場合、いかにコストを削れた製品に仕上げるのかという点に意識があり、メンテナンスを想定していない、故障した場合広範囲でパーツ交換や取り外すための作りがないといった点があります。

またアフター対応も基本なく、国内養鶏機器メーカーに依頼することから構造からみて複雑でアフターしにくいという声も聞きます。

ある養鶏専門メーカー技術者と通路を清掃できるような箒を毎日動く給餌機に取り付ければ楽ではないか?という提案をしたことがあります。

技術者は関心を持ち方法と具体的なレイアウトを尋ねてきます。

私は給餌機の上部に柱をつけて、そこからワイヤーを垂らして清掃ブラシをつければ違うと思う。
そして引っ掛かりから給餌機を守るためにワイヤー強度は高くないほうが良いという助言をしました。

それから2か月たたないうちに試作機を取り付けて状況を見ました。
とても楽で日常清掃も簡単になりとても良いものでした。

それから数年に1度の養鶏展示会には、この新作が採用されたと聞きましたので、メーカーは現場の声をいかに大事にしているのかがわかります。

ここまでお話しして現役並みと言うキーワードがないと感じたと思います。
今日の話とは関係ないと感じたでしょう。

ですが、この気づく力や修理1つとっても考え方の違い、そして飼養管理技術は長く経験している従業員の方が経営者より現場にいる分、先を行く思考能力を持ちます。

経営者は経営と農場を開拓した力、そして農場をここまで大きくできたという高い能力があります。

従業員はその数割程度とされますが、このような技術部門ではそれ以上になることも珍しいことではありません。
マニュアル化し平準化すれば解決できると言われますが、技術は教育することが必須で気づく力がないと伸びてはいきません。

そしてマニュアル化した場合の多くはそれを確認することが仕事と捉えがちです。
本当は確認して(異常の有無を確認する)、記録する(異常がないことを記録していく)という本来の目的がありますが、多くはその方法までマニュアルにしてしまうので本来の視野を持ちにくいとも感じます。

技術は絶えず自身を磨くことで今よりレベルを高く上げていきます。
現場から気づくことでそれを気づき技術に生かすということです。
長い年月働くことで気づくことが出来自然とアップデートしていくのですが、若いうちはベテラン以上に気づくことが必要があり、そして知識を多く吸収していくことになりとても大変です。

だからこそ「見てまねて」「先輩の後姿を見る」という意識が大事なのですが、それを教える風土がない、教えるベテランがいないという農場が多いと感じます。

技術は現場に入らなくなると、多くはその時点のレベルで止まります。
それ以上の向上は止まるのです。

私は養鶏コンサルタントとして活動していますが、養鶏も技術が必要な産業の1つだと今も感じます。

それはその技術がいらないとする農場ほど停滞しやがて衰退してく所を多くみているからです。

ですから私自身も養鶏に関わることで気づく力、それを技術としてどのように発展していくのかという向上心をいつも大事にしています。

それがレベルアップしていくことの原動力になりますし、アップデートしていき今の鶏を知る、今の農場を知るという最新版になっていくことが必要であるといえます。

では、多くの農場の皆さん方も同じようにレベルアップしアップデートしていけばよいのでしょうが、仕事は細分化されている産業でもあり堆肥担当者、飼養管理者、作業員とそれぞれ役割と権限がありますので、それ以上のことまで踏み込むほど余裕がないのも実情です。

その実情が農場の限界を作ってしまう原因ではありますが作業員を24時間無限に働かせることはできません。
農業ですから法令では可能でも、そうすると人離れに至るのでできないのが本音でしょう。

であれば経験があり長く働いたベテランをそのまま農場にいてもらうことが一番の得策ではありますが、多くはその得策まで気づくことはありません。

60歳になれば嘱託社員になり賃金を下げるのが昔からの流儀、60歳超えて雇用することで若手が育たたないという不安。

でも農場を見てください。

若手は本当に育たないのでしょうか。
そもそも育てないのではないでしょうか。

昔は先輩の仕事を見てまねて覚えるが基本ともされました。
でも今は機械を見て巡回して記録をするが仕事になっています。
そこから今のような「見てまねて」という要素はあまりないように感じます。

だから技術はいらないという結論に至る経営者もいるのでしょう。

でも機械を見て異常であるという視点まで育てない、
巡回して鶏の異常を見分けるという技術は衰退する、
記録をつけるだけが仕事になり、その記録から改善を見つけるという視野が足りない。

だから農場は現状維持となり少しづつ衰退していくのでしょう。

農場も今の鶏を知りアップデートしていく必要があります。
それがないと衰退していくだけです。
そして怖いのは少しづつ気づかないような速度で衰退していくという現実です。

衰退してからの回復は容易ではありません。
それは衰退から戻す方法がないからです。

多くは機械が管理をしていると錯覚しがちですが、本当は人がその細部を担っているのです。
人の技術が衰退して回復できる方策を見つけることが出来ずやはり衰退していくという流れが変わらないというのが実情です。

繰り返しますが、昔の慣例を無理に変える必要はありませんが、農場を維持していくには、若い人を入れていくだけという新陳代謝という目的と技術保全目的では、意味が違い解決できないということを知っておくべきです。

そしてそのためにも技術伝承や気づきという視野を持つ60歳以上になる長い期間働くベテランをどのように処遇していくのが得策なのか。
確かに不満を言わず60歳以降も仕事はしてくれるでしょうが、今までとは違うはずです。

所定時間まで働くことが毎日のルーティン作業になります。
そこに気づきや経験を教えるというところまではいるのか。その賃金で期待できるのか。

コストだけが増えて意味がないという意見もあります。
確かに嘱託にして4割程度削減できたのに削減しないでは短期的にはコスト増しかないでしょう。
でもそれにより業績を維持したりそれ以上に引き上げる技術や視点を持つことで業績アップするはずです。  

どちらが得策なのでしょうか。

もし60歳をもってそのような方が雇用継続を辞退したとき、その農場での技術は未来永劫失うということにならなければよいのですが。

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