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D2Cの歴史に1ページを刻んだポーラ・オルビスとトリコM&Aの軌跡


なにより名前がいい。FUJIMIというまったく新しいサプリメントをつくると聞いたとき、その言語感覚にやられた。3人の創業者全員が「藤」のつく名字だった物語に、日本らしさを感じる美しい語感に、不死身という鮮烈なミーニングに。

FUJIMIを展開するトリコ株式会社のM&Aが発表された。バイサイドはポーラ・オルビスホールディングス。プレスリリースには

当社グループ傘下に入ることにより、当社の研究開発技術やエビデンスの活用の他、生産、物流面におけるシナジーの発揮が期待でき、トリコ社の成長をより加速できる
引用元:トリコ株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

とある。


ビジネスの世界に年齢も性別も関係ないことを承知のうえで、それでも創業者兼CEOである藤井香那さんについて語るなら、弱冠26歳の女性であることに触れずにはいられない。この事実が知れ渡ることが、世の中に大いなる勇気を与え、数多くのスタートアップへのチャレンジを生み出すと確信しているからだ。
彼女のキャラクターは公式なプロフィールで紹介しても十分伝わらないかもしれないが、まず簡単に触れておきたい。国立大学を卒業し、創業間もないスタートアップに参画。複数の新規事業を立ち上げ、2018年にトリコ株式会社を創業した。そして今回、設立登記から3年を迎える前にいわゆるEXIT、会社の売却までを成し遂げたことになる。

ここで伝えたい藤井さんの個性は、現代的な二面性が支える優れたバランス感覚にある。初対面でちょっと話してみたり、SNSで見てとれる雰囲気からは、どちらかというと「ギークっぽさ」というべきか、自分がいま取り組んでいることに没入する(いい意味で)オタク的な性質が覗ける。一方で、本人から聞いた話によると「大学時代は友達と飲み会でわいわい騒いだり、けっこうパリピでした」という過去もあるそうだ。
持論になるが、ギークかつマイルドヤンキー(素行が悪いというニュアンスは含まず、マスな消費感覚がわかり、よきミーハーであること)な性質を併せ持つパーソナリティは、2020年代にブランドビジネスを運営するうえで最高の素養だと思う。

2年ほど前、あるスタートアップのイベントで登壇が終わったぼくに話しかけてくれ、準備中の事業を見てほしいとすぐにピッチしてくれた藤井さんからは、すぐにそのバランス感覚の持ち主であることが伝わってきた。FUJIMIの名前と物語を聞くころには、このブランドが成功する以外の未来は想像から消え去っていた。
もともと先立って紹介を打診してくださっていたXTech Venturesの手嶋浩己さんからも、藤井さんはユナイテッド時代の同僚であり、その仕事ぶりは保証できるものだと後押ししていただいたこともあり、すぐに増資の払い込みまでプロセスが完了した。

はたして数ヶ月後FUJIMIは計画通りにローンチし、公開されたウェブサイトのほとばしるセンスを見れば明らかだったけれども、期待を裏切らない初速を順調に稼ぎ出した。心配していなかったことではあるが、プロダクトも確信を持って勝負していくにふさわしい出来栄えだ。正しく使ってもらうことと効果の表現が難しいサプリメントという領域において、悩みにうまくアプローチする吟味された成分と、携帯にも向く個包装のパッケージングは「愛用される」という難易度の高さを軽く乗り越え、ユーザーの生活に馴染んでいった。

落とし穴があるとしたら? 大変申し訳ないことだけど、若き創業メンバーたちであることから、もしかすると組織のマネジメントに関しては壁にぶち当たるかもしれない。ただ、それほど人数が増えるということは事業が拡大しているということと同義であり、そんなに大きな問題ではないかな。そんな失礼なシミュレーションをしたこともあるが、杞憂に終わった。トリコ社は見ているこちらが己を恥じ入るくらいの高成長を続け、それでいて当たり前のように淡々としていた。メンバーは日々増え、多少のトラブルがなかったとは思わないが、いつの間にか企業にあるべき統制がとれ、分業が進み、そしてベンチャーらしい自由な社風をも内包した立派な会社に成長していた。ぼくはただ失礼な想像を働かせた傍観者だった。
右肩上がりのグラフを描く過程で、ポーラ・オルビスホールディングスのCVCが増資に応えた。同じラウンドでXTechも追加出資を決め、経営チームのバックアップはより強固な体制に仕上がる。

定例や会食で話すたび、どこまでいってしまうんだろうかというほどの成長を感じていた。成し遂げたいという今後の展開も壮大であり、かつ抜かりなく足元のプランから固められている。
手放しで応援していた立場から、いち経営者としてジェラシーすら感じ始めていたころ「実は、M&Aが決まりそうなんです」と報告をもらった。率直にもったいないという感想を持った。しかし、これから腰を据えてFUJIMIをいつまでも愛されるブランドに育てていきたいという覚悟と、その相手がポーラ・オルビスであることを聞き、ぼくはまたしても藤井さんを徹底して応援しなきゃならないと改めさせられることになる。

今日、日本のD2Cの歴史を確実に一歩進めたこのプレスリリースで発表された事実に想いを馳せると、なぜだか複雑な気持ちになる。エポックな起業家が世に出たうれしさ、先を行かれた悔しさ、これから想像もつかない可能性に満ちた未来が待ち受けるトリコの行く先を想像するだけで、言葉が出ない。

最後に、自分の立場で大変恐縮ながら申し上げますが、ポーラ・オルビス社の眼力の鋭さに畏敬の念を抱きます。数あるブランド、投資先からトリコ社を選んだ目利きとタイミングは本当に見事としか言いようがありません。ディールをまとめてくださった岸さん、今後トリコのさらなる事業拡大をリードしていかれるであろうオルビスの小林社長およびポーラ・オルビスのみなさまの決断に心より敬意を表したいと思います。

関係者のみなさま、おめでとうございます。
周囲の想像を超える成果をもって次世代のロールモデルとなることを確信しています。

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参考

トリコ株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ:株式会社ポーラ・オルビスホールディングス

パーソナライズビューティケアFUJIMIを提供するトリコ、ポーラオルビスホールディングスにグループ入りのお知らせ。:トリコ株式会社

トリコを3年経営した感想と感謝の想い:トリコ社藤井社長note

POLA、ORBIS、FUJIMI、の時代へ。:手嶋浩己氏note

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