野口智博の水泳よもやま話し;ビート板編その2

冒頭、ちょっとこの記事をご覧いただけたらと思いますが…。

ここには、スイマーズショルダー(水泳肩)の要因がいくつか挙がっています。以前お伝えしたパドルを用いた練習のしすぎも、肩関節障害の要因の一つです。
しかし、ここにキックボード使用による肩関節障害があることも、明記されています。「ビート板で肩痛めるって、なんで?」と思う人もいるかと思いますので、ちょっと説明しておきましょう。

1 ビート板が凶器に?
2 ビート板の持ち方にこだわる
3 持ち方と姿勢によるメリット・デメリットを理解して使い分ける
4 一風変わったビート板の使い方

1 ビート板が凶器に?

昔はよく、コーチからビート板で頭を叩かれたりしましたね(笑)。あるいはプールサイドから、いきなりブーメランのようにビート板が飛んできたり。親切なコーチは、選手に正座をさせるときに、地べたではなくビート板を敷いて正座をさせたり…といった具合に。私たち世代のスイマーは、幼少期に、一度はそのような経験を持っているのではないか?と思います。昔からコーチたちは、このようにビート板の使い方をあれこれ駆使して(笑)、私たちを鍛えてきました。
ただこれらは、今では「やっちゃいけない指導法」なので、気をつけましょう!

ここで言う「凶器」とは、そっち系ではありません。

ビート板で板キックをしているとき、どのような姿勢になっているでしょうか? 腕を乗せて水平姿勢をとる際、腰が沈みすぎて、肩関節を過剰に伸ばした姿勢を取らせてしまったりしていませんか? 授業やマスターズの指導をしていてよく見るのは、板を手で押さえすぎていたり、顎・頭を水面上へ高く上げすぎたりする「肩に力が入ってる」ように見える姿勢ですね。
これらのような姿勢は、二頭筋腱や三頭筋腱、棘上筋や棘下筋などの緊張状態が長時間続きます。そのため、肩関節を取り巻く筋群に過度な負担をかけてしまい、故障の発症につながるということもあります。
冒頭に紹介した記事の中では、「ボードキックの際にシュノーケルをつける」「ヴァーティカルキックでキックを鍛錬する」など、その予防法を上げています。ジュニア期の選手には、普通に板キックをする分には、あまり影響はないかもしれません。成長期途中の選手や、海外製の浮力の高いビート板を持っている選手は、注意が必要かもしれません。
また近年、流行りのドリルワークの一つに、小さいビート板をパドルがわりにして、キャッチ時のエルボーアップを習得しようとする「ボードパドル」のような練習を取り入れるクラブもあります。これも、肩甲骨がうまく動かせない選手などは、水泳肩の要因になり得るので、一応そこは「やりすぎ注意」の警鐘を鳴らしておきます。やるのであれば、上腕筋群のストレッチングや小胸筋、棘上筋・棘下筋のマッサージなど、十分な入(はい)りの準備をして行うのが望ましいでしょう。

ちなみに私のマスターズの練習会では、あまりボードキックを長時間させません。それには実は、前述したようなキックボードの悪影響という根拠があるからです。また、マスターズの方の場合は、ボードキックの姿勢(顔を上げ続ける)を維持するだけでも、首の筋緊張が持続的に起こる方がいるので、注意が必要と思っています。

選手が肩関節障害に陥る原因は、ある程度限られます。過剰にエルボーアップに頼りすぎる場合や、胸郭の可動域が狭まった時、肩甲骨可動域が小さい選手…などです。それらは先行研究やリハビリ事例も多く、ある程度の予測や対応ができます。
しかし、いくつかの調査によると、マスターズの方が肩関節障害を起こす要因やその症状は、かなり多種多様です。もっとも、普通に生きていても「四十肩」「五十肩」なんてあるわけですからね(笑)。注意すべきことは、その要因の一つに「板キック練習」も少なからずあるのではないかと思っています。
特に、フィンが流通し始めてから、その傾向は強く出ているように思えます。フィンを使うと、長時間キック練習ができるメリットはあります。しかしマスターズスイマーの板キックでは、過剰に板に体重を乗せる人や、顎を水面に出してしまい、肩関節に緊張を走らせっぱなしの人が多く、やはりみていて怖い感じがするのです。

ただ、マスターズの方々にとっての板キックの練習は、筋量の多い脚をふんだんに使うことで、最大酸素摂取量を維持させるには有効なトレーニング手段です。キックが速い・遅い関係なく、心臓にトレーニング刺激を入れられるのは、大きなメリットですよね。なので、ノーブレにしたり(笑)、ある程度本数を限定したり、反復距離の短いセッションにしたり、1日の練習の最後に持ってくるなど、色々と工夫を凝らして、一番美味しいメリットが取れるようにした方が望ましいと考えられます。

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