乃木坂しんの料理は、一人で作っているわけではないんです
いよいよ本格的な夏がやってきました。2022年夏の長期予想によると、今年は(も?)全国的に厳しい暑さになるそうですので、皆さま熱中症などには十分にお気をつけのうえ、無理せず夏を楽しみながら過ごしていただけたらと思います。こんにちは、乃木坂しんの店主・石田伸二です。
今年の関東地方の梅雨は、 記録が残る1951年以来もっとも早い梅雨明け(6/27頃)でした。期間も21日間と短くて、こちらも最短記録を更新したそうです。春が短くなって、すぐに夏がくるようになった、そんなことを感じる方もいらっしゃると思います。
毎日のように食材に触れていると、食材の移り変わりから季節変りを感じとるのですが、ここ1、2年は、食材の出方がとくに極端になったように思います。例年なら出回っている頃なのに、なかなか出てこないなぁと思っていた食材が一気に市場に出てきて、すぐになくなる。各地の旬も短くなったように思います。この時期なら、これかなぁと頭にある食材が手に入りにくくなっているので、食材の出方をみながら献立を考えることが多くなりました。
とくに魚は漁獲量が少なくなっています。料理人は、皆その危機感をもっていると思うのですが、近年は、お客様もそのことについて問題意識をもっていらっしゃっているように感じます。今年は、あの魚が獲れないというようなお話しを、お客様の口から聞くようにもなりました。それだけ深刻な問題ということですので、社会全体で解決していく段階にまできていることをさらに実感させられます。
試行錯誤して完成した
「賀茂茄子の胡麻味噌田楽」
先月は、お造りと天ぷらを盛り合わせたり、お肉を使った強肴をあえて外してみたりと、新しい献立作りに挑戦いたしました。7月と8月は、鱧と鮎、鮑と使いたい食材と料理が毎年決まってくるので、文月の献立では、新しい挑戦というよりは、一つひとつの料理を洗練させて、不要なものをそぎ落としていくような意識をもって日々仕事をしています。
「賀茂茄子の胡麻味噌田楽」も、一昨年から取り組んでいる料理です。賀茂茄子そのものの食材がストレートに味わえるだけでなく、見ただけでも料理の内容がわかるような料理だと思います。
コロナ禍以降、できるだけ日本料理の先輩方のお店にうかがって勉強させてもらっているなかで、2年前に京都の「御料理はやし」さんで、賀茂茄子の味噌田楽をいただきました。とてもおいしくて、素直に自分も作ってみたいと思うほど、感動しました。
胡麻味噌田楽は、昔から作られている料理なのですが、僕自身は作ったことがありませんでした。何度か試行錯誤しながら試作をしてみたのですが、なかなか思うようにできあがらず、どうしようかと思っていたとき、尊敬する東京・国分寺にある「潮」で食事をさせていただいた際に、同じような賀茂茄子の味噌田楽を潮大将が作られていたので、「大将、教えてください」と作り方を学ばせてもらいました。
それから2年、ようやく自分なりの賀茂茄子の胡麻味噌田楽ができてきたと思っています。そして今をゴールにするのではなく、さらにもう一歩進めていくためにも、一つの料理をつくり続けていきたいと思います。
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先付|胡瓜のすり流し 蓴菜とメロン
蓮の葉に集まった朝露をイメージし、大きな蓮の葉をかぶせた下のお皿には胡瓜のすり流しが隠れています。
胡瓜は、剥いた皮を湯がいて色出しをしておきます。果肉はぶつ切りにして重量に対して1%の塩をふって離水させてから、離水した水ごと果肉、皮をミキサーにかけてペーストにし、そこに昆布だしと塩で濃度と味を調整しています。
胡瓜は、できるだけ曲がっているものを探しています。
徳島の親戚の農家で、減農薬でほったらかしで胡瓜を作っているのですが、そうするとグニャと曲がってしまう。だけどじつは、その方がおいしい。というのも、胡瓜をまっすぐ育てるために、十分な肥料とたくさん水をあげることでまっすぐにしているそうです。
もちろんその技術は素晴らしいことで、たくさん安く胡瓜を運ぶための技術だと思うのですが、そうするとどうしても水分が多くて味がぼやけてしまうように僕は感じてしまいます。水をあげながら曲がってしまった胡瓜は形は悪いですが、味が濃い。今回のすり流しではとくに味が濃い胡瓜を使いたいと思っています。
すり流しには、 蓴菜とくりぬいたメロン、氷を浮かべてあります。試作では、すり流しにする際にメロンも加えていて、メロンの甘味が効いて飲みやすいおいしい味わいになったのですが、胡瓜の青っぽさがあまり出てこなかったので、別に浮かべることにしました。
暑いなかお越しいただいたお客様に、少しでも心地よい夏の涼と、清涼感のある青々とした香りを楽しんでいただきたいと思っています。
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前菜|鱧の湯引き
蒸したてジャガイモ 煎り酒ゼリー
湯引きした鱧と蒸したてのジャガイモに、梅干しとお酒、鰹節と昆布で作った日本古来の調味料「煎り酒」のゼリーをあわせた、さっぱりとしたお料理です。
鱧とジャガイモの組み合わせは、おそらく多くの日本料理店ではやらない組み合わせではないかと思います。とくに高級なお店ほど、ジャガイモやニンジン、タマネギといった日常的なお野菜を使わないことも多いので、なおさらだと思います。
僕自身は、蒸したてで温かいジャガイモのほっくりとした食感とほのかな甘さが、湯引きにした鱧のやわらかい食感と脂のとけた香りに合うと思っています。
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椀物|毛蟹進上
焼き茄子、小メロン、松葉インゲン、すり柚子
鰹節と昆布の一番出汁に、椀種は、毛蟹と鯛のすり身などで作った毛蟹進上、焼きナスと輪っかのように飾り切りした小メロンなどを盛り込んであります。
なめらかな口あたりの毛蟹進上には、ある夏の食材が使われています。その食材の甘さや香りが、毛蟹や鯛に加わることで味わいに奥深さを与えるだけでなく、食感も滑らかにしているのです。
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造り|水貝、茗荷、胡瓜、肝酢ダレ
昨年初めて挑戦した水貝を今年も献立に入れました。
水貝は、伝統的な生の鮑のお料理です。塩で揉んで角切りにした鮑を、胡瓜などの野菜とともに氷水に浮かべて、三杯酢や醤油などにつけて食べます。
作り始めて2年目ですので変にアレンジをせず、基本に忠実に昔からある水貝をきちんと表現したいと思っています。
つけダレは、お醤油や三杯酢にするお店もありますが、より鮑を味わっていただけるように鮑の肝に酢を溶いた肝酢ダレで召し上がっていただきます。
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造り|メイチダイの滋味造り
関東や東日本では、あまりなじみのない魚のメイチダイを、メイチダイの出汁と合わせた造り醤油をたっぷりかけた漬けた滋味造りにしてお出しします。
試作の段階から大きく食材を変更したため、写真はありません! 今回のように試作で思うように料理ができずまるっきり変更するということもあるんです。実際のお料理は、ぜひお店にいらして確認していただけたらと思います。
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焼物|鮎の塩焼き
先月に続いて焼物は鮎の塩焼きをお出しします。
長野県から愛知県、静岡県を流れる天竜川のなかでも長野県で獲れた鮎の塩焼きです。頭と腹、尻尾を3口に分けて召し上がってみてください。同じ鮎ですが、一口ひと口の印象が違うことに気付いていただけると思います。
というのも、鮎を串打ちし焼き台で焼き始めるときに、頭の方を下げ、しっぽを上げて斜めにして焼いています。こうすると熱を加えてできた脂が、頭の方に溜まっていくことになります。ですので、頭はから揚げのように火が入り、腹は炭火で塩焼きに、尾は熱風をあてて干したような焼きあがりなるのです。ぜひ3口でお楽しみください。
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凌ぎ|無花果と胡桃ダレ
2分ほど高温で一気に蒸して甘味を引き出したイチジクに、胡桃ダレをかけてお凌ぎとしてお召し上がりください。
無花果は、大さじ1杯ほどの味醂をかけて蒸すことで、味醂の甘味が加わるとともに、青っぽさが抜け食べやすくなりますので、ご家庭でもぜひ試してみてください。
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八寸|牛肉の冷しゃぶチリ酢ゼリー
もずく酢と素麺南瓜のお浸し
山桃、蛸のずんだ和え
鱧の子煮こごり、サクランボの白和え
「乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。
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強肴|大穴子蒲焼き
揚げ蓮餅、トマトのお浸し
岩手県大船渡市に揚がる1㎏サイズの大穴子を蒲焼にして、蓮根で作った揚げ蓮餅、写真にはありませんが、京都府京丹後市「和田農園」の和田泰幸さんが育てた「やりすぎトマト」のお浸し、粉山椒を添えてお出ししています。
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温菜|賀茂茄子の胡麻味噌田楽、実山椒
賀茂茄子は、下ゆでしてから出汁でたいてあります。この下茹でが、潮大将に教えていただいた方法で、こうすることで灰汁が抜けて、お出汁で炊いても煮崩れせずやわらかくきれいに炊けるんです。
胡麻田楽味噌は、胡麻と玉味噌を合わせて作っています。お出汁がはってあって、そこに炊いた賀茂茄子、胡麻味噌田楽がのっていて、出汁と田楽が混ざらない仕立ては、感銘を受けた京都の「御料理はやし」さんの仕立てをイメージしています。
賀茂茄子と味噌を和えながら食べていただいてもいいですし、お出汁に味噌を溶かして食べていただいてもいい。いろいろな食べ方で楽しんでいただきたいです。
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食事|鱧の玉子とじ
または、メジマグロ漬け
または、そば米雑炊
お食事は、上記の3つの中からお選びいただけます。1品でもいいですし、お腹に余裕があれば、少しずつ3品すべてお出しすることもできます。
なお、毎月の玉子とじと同じ考え方でご家庭でも再現しやすい親子丼の作り方をYouTubeで紹介しています。ご興味ある方はご視聴いただき、ぜひ作ってみてください。
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菓子|桃のコンポート、
赤じそシャーベット、蕨餅
最後の菓子は3品です。季節の桃のコンポートをモモを炊いたシロップをゼリーにしてカクテル風に仕立てています。清涼感のある赤じそシャーベットとともにお召し上がりください。
蕨餅は、写真ではきな粉がかかっていますが、献立ではなくし、より蕨餅のつるんとした食感を楽しめるようにしてあります。黒蜜をたっぷりとつけて食べてみてください。
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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。
「乃木坂しん」店主 石田伸二
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乃木坂しん(店舗公式)、石田伸二、飛田泰秀
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構成・文・撮影=江六前一郎