フリー素材貝殻

未来2017年12月号 まぎれなき闇


   まぎれなき闇


まぎれなき闇と詠まれし身のうちに光はぐくむあこや貝はも

掌にのせてくれたときには〈夏〉だつた貝がら すこしちひさくなつて

桜貝ひろへば割るる夢ばかりレンズの片目失せし日々には

死に顔は口をぽかんと開けてゐつ 開かぬ浅蜊を箸に除けたり

あたたかなその手をずつと待つてゐた貝殻骨のめりこむ背中は

その黄を灯と思ひきなゆふぐれの四辻に白粉花の咲きをり

人びとに昼行燈と呼ばれたるわれが抱けるまぎれなき闇



NHK短歌のお題「貝」と、Twitterに投稿した「灯」の題で詠んだものです。

この号の締め切りは富山大会の後でしたので、そのころの自分が疲弊しきっていることを予測して、あらかた用意してありました。

実際、スタッフとして臨んだあの大会のことを歌にしたいという気持ちにはまったくなれません。そんな殺伐とした中にもただひとつ、歌にしておきたいと思ったことがありました。それが帰京後に差し替えた5首目です。

腰椎の手術の直後で体の自由がきかないため、お寺での「合宿」にも参加できなかった私の心身を優しくほぐしてくださった、文月郁葉さんの手のあたたかさを忘れることができません。

あの大会以来、いろいろと思うところもあり、自分の短歌への関わり方については暗中模索といったところです。今はほかにやりたいこともやるべきことも多いので、なんとなく、細く長く…としか考えていません。


銀いろの水面を天としてねむる貝まぎれなき闇をはさめり/横山未来子『水をひらく手』