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左様なら今晩は

ストーリー

2年間同棲していた彼女にフラれる陽平。彼女は部屋から出ていき、アパートの部屋には1人で暮らすことに。
彼女が出ていくとすぐに身の回りで怪現象が起き始める。それは若い女性の幽霊の仕業であった。
この幽霊は出て行った彼女のバリア的なパワーで今まで出てこれなかっただけでずっとこの部屋にいるいわゆる地縛霊だった。
この幽霊は部屋から出ることはできないため、やむなく共同生活を送ることになる。
陽平はこの不思議な生活に徐々にじょじょに適応していき、幽霊のことを「愛助」と名づける。
そして、陽平と愛助はお互いのことを大切な存在と思うようになり始めるが…

この2人、距離感と関係性がドンピシャ最高なんです。

ネタバレありあらすじ

彼女と別れた陽平、彼女が家を出て行った日にやけ酒をする。
そんな陽平の周りではポルターガイスト現象が怒ったのち、若い女性の幽霊が現れる。
その幽霊は彼女のバリア的なパワーで出てこられなかっただけで、2人のことはずっと見ていたと言う。

最初はその幽霊のことを拒絶していた陽平。
不動産に何度も訪れて幽霊について何度も聞くも、その都度跳ね返される。
線香を買って焚いてみると、逆に幽霊にその匂いを好かれてしまうなど、思ったように行かない。

線香を気に入っちゃう愛助。
なんなら自分で焚いちゃったりして可愛かった。

最初は幽霊にキツく当たっていたが、この幽霊も好きで幽霊をやっているわけじゃないし、何も悪いことをしていないということに気付く。
既に死んでいて、辛い立場にある幽霊につらく当たったことを謝罪する。
幽霊に残るかすかな記憶によると「ア」と「イ」が入ることを知った陽平は彼女のことをの記憶に残ってる「愛助」と名付け、反対に愛助は陽平のことを「よーさん」と呼ぶようになる。
愛助は恋愛経験がないものの、陽平に辛辣な言葉を浴びせることもしばしば。
そんなやりとりをして行く中で、やりとりを2人は徐々にお互いのことを大切な存在と思うように。

最初は視認することしかできず、お互いに触れることができない状態だったのも徐々に触れ合えるようにもなっていた。
ようふれあえるじょうたいだった

だいぶおせっかいな同僚女性 果南。
この映画で1番愛助の立場を掻き乱してくる存在。


しかし、陽平の同僚:果南が現れたことに事態は急変する。
果南は彼女と別れた陽平のことを気になっていたのだ。
会社の飲み会後、果南は陽平の家に上がり込む。
しかし、果南には愛助の姿は見えていなかった。
幽霊に見られてるとも知らない果南は陽平を押し倒してキスをする。
すると、それを見て動揺した愛助の心情に呼応するかのように部屋の電気がパッと消える。
驚いた果南と2人の情事を邪魔してしまったことを謝罪する愛助。
また電気がついた時、果南は愛助の姿を見てしまう。
結局、その日は果南はキス以上に進むことなく帰ってしまう。

愛助は陽平に謝罪をすると同時に「自分もキスをしてみたいと思っている」「よーさんみたいな人と付き合いたいと思ってた」と想いを吐露する。

一方、果南は陽平の家にいる幽霊のことを心配して叔母の霊能力者に協力を仰ぐ。
愛助を大切に思う陽平にとっては余計なお世話だったが、霊能力者は陽平の部屋に単身で入り込んで「あなたがこれ以上彼と繋がりを持ちすぎると彼は死んでしまう。成仏するかしないかは好きにすれば良いが迷惑をかけるのは本望でないはすだ。」と語りかける。
更に「もうこの部屋には縛られていない」と言われ、愛助は衝撃をうける。

愛助にキツい言葉を喰らわす霊能力者。
言ってることは正しいけど、今の2人にはやめてあげてくれ
そんな言葉を善意から放ってしまう。


霊能力者が部屋から出て来て、急いででて戻る陽平。
部屋の窓が開いていて一瞬いなくなったのではと焦るも、愛助はベランダにいた。
陽平はいきなり霊能力者が来たことを謝罪し、愛助のことを大切に思っているとちゃんと打ち明ける。それを受けて、愛助は「デートをしてほしい」とお願いをする。

陽平はそれを快諾し、2人はデートに行くことに。
陽平は愛助に可愛いサンダルをプレゼントし、そのサンダルを履いた愛助と共に町中を駆け回る。
自転車で二人乗りしたり、お好み焼きを食べに行ったり。
その都度、周囲の人物は愛助のことを視認していることに陽平は違和感を覚えるが、愛助が気にしていないことからスルーしていた。

お好み焼きにテンションが上がる愛助とモヤモヤする陽平。
このコントラストに妙な緊張感が走る。


続いて、愛助の生前のお気に入りの映画館に行くもそこは定休日。愛助はとてもと残念がるが、陽平がまた来ようと指切りする。
そして、最後に訪れたのは海。なぜか気持ちが暗くなってしまう愛助。
気持ちが晴れることのない愛助。「ハグしても良い?」と聞いて2人はハグをする。
陽平は不思議に思いながらも「帰りにプリン買って帰るか」などと言って愛助の気持ちを明るくしようと振る舞う。

プリンを買って家に帰る2人。
2人でプリンを食べると陽平は眠りについてしまう。
眠りにつく陽平に語りかける愛助「起きてることにさよならは言えなかった」と口にする。
愛助は自分が成仏すると悟っていたのだ。
最後に陽平に感謝を伝えると、陽平にキスをしてサンダルを持って成仏する。

朝起きると愛助の姿がないことにショックを受ける陽平。霊能力者からは「成仏したのだろう」と告げられる。
不動産に尋ねてここの幽霊が誰なのかを知りたいと聞くとついに教えてくれる。

陽平が訪れたのは「新井家」のお墓。名前に「ア」と「イ」が入るというのは苗字のことだった。、あまあこのべらんだにいた
涙ながらに愛助に想いを吐き出す陽平は思いの丈を吐き出し、最後には前向きな気持ちを見つける。
時は過ぎ、陽平はアパートの部屋を出ることに。
部屋には2人で食べたプリンの空き瓶に一輪の花を刺していた。

陽平は愛助が好きだったと言う映画館に足を運ぶ。
人もまばらな劇場に入ると、同じ列少し外れた位置に女子高生が1人座っていた。
その女子高生が「アイ、こっちこっち」と連れらしき人に声をかける。
声をかけられた女子高生は愛助によく似た姿をしていた。

感想

愛助が愛おしい

この映画は愛助のキャラクターで成り立ってる。
そんな中、脚本と演者・魅せ方が本当に見事にハマってる。

もう、なんと言っても愛助のキャラクターが愛おしい。
愛助はピュアでウブなんだけど、そこに変な飾りっ気がないのが良い。
常にまっさらな自分の気持ちに従って思ったことを口にするけど、そこに全然嫌味がないのが素敵。
だからこそ、最後のデート中に愛助が自分の気持ちを隠すところでグッと切なくなる。

役者のチョイスが完璧

愛助はピュアでウブという一見簡単なキャラクターに見えるものの、そこの裏にある要所要所の切なさとかこの世への未練を良い塩梅で見せるのが難しい役だった。

無邪気そのものが歩いてた。
どこまでもピュアな愛助は本当に愛らしいんよ。

そこを完璧にやり切った女優としての久保史緒里は素晴らしかった。
そして、愛助が持つ愛嬌もアイドルとしての経験が活きてて凄く可愛く見える。
サンダルを履いて可愛いと褒められた愛助の表情とか危うく惚れかけた。(いや、多分惚れた。)

そして、陽平役の荻原利久も一見感情の起伏がなさそうで芯の部分が変化して行く陽平を演じるのがとても良かった。

陽平、めっちゃ良いんよ。
儚さが素晴らしいんよ。顔つきとかベリーグッドなのよ。


ベランダシーンがいくつかあるが、初めて愛助に責め立てられた時と愛助に霊能力者のことを謝罪し想いを打ち明ける時とで全く違った顔つきになっているのは凄いと感じた。

BGMが良い雰囲気を作ってる。

BGMは全体的にそこまで目立つわけじゃないが、初めて愛助が出てくる時や要所要所で暗くなりそうな場面で明るく剽軽な音楽が流れるのがとても良かった。
映画の内容的にどうしても雰囲気をしっかり暗くしたくない中、BGMでそこを緩和できてたのは効果的に緩和していて映画の印象を決定づけるものになっていた。

間が良い

この映画、ひたすらに無言のシーンもチラホラあるけど「無言の間」が作り出す2人の微妙な距離感とか心情の揺らぎが表現されてるから間が持つ。
2人の微妙な所作とか表情も凄く丁寧で、見ててモタッと感は全然なかった。
要所要所で細かくバフが設定されてて、不動産の電話とかは場を整地するのにはちょうどよかった。

納豆はひきわり派の不動産屋。
ANNリスナーはピリついたかもしれない。

要所要所で画角が凄く良い。

とにかく俳優の表情を1番良く見せつけるアップの画角がとても良かった。
サンダルを履いて可愛いと褒めてもらった時の愛助の表情だったり、海辺でハグする2人の表情のコントラストだったり。ひ映画館から愛助が出てくるんじゃないかと映画館出口で出待ちしてみる陽平の表情だったり。
その時の人物の心情を1番わかりやすく捉えられるアップが凄く良い角度から撮られていて、俳優が1番映える角度で撮られていた。
そして、普通の映画に比べてかなり大きめに顔を映される中、表情だけで心情表現をする2人は凄い。

惜しいシーンもチラホラ

彼女と同棲解消のシーン。
良い感じの空気だったのに、なんかよくわからないけど彼氏がいきなりキレられる。
幕開けは登場人物の誰の情報も全くない中、結構円満な別れ方に見えて、いきなりまつ去り際の一言で激昂される。
いや、まあ陽平の「気の遣えないやつ感」を見せるのはわからなくはないけど、どちらにせよ激昂スイッチとしては弱いものではあった。

幽霊初登場シーンはどうじゃろか?
愛助初登場シーンではポルターガイスト現象にビビり散らかす陽平。
幽霊が登場前にはビビってるのに、姿を現すとパッと陽平は幽霊の存在を受け入れてしまう。
流石にそんなすんなり幽霊の存在に適応するかね…という違和感がフワッと残る。
それを踏まえてのその後のシーン。幽霊でも割とすんなり受け入れるタイプかーって思ったら、その後には幽霊の存在を拒絶する描写が連発するから「え?結局幽霊はめっちゃ嫌なんじゃん」っていう感想が最初にあった。
どうしてもそこは惜しい。
それ以降の陽平の心情の移り変わりは綺麗だったから、最初にいきなりスパッと受け入れられるのだけが残念。

ん?それ本当に必要だったか?
愛助が登場すると愛助は陽平の顔を覗き込む。
そこで陽平が「ノーブラなんだ」って言い出す。
メタ発言にはなるけど、服装的に「言うほどノーブラってわかるか…?」っていう違和感がチラッと残るので、なくても良いシーンである気はした。
原作では愛助が痴女設定なので、そこに対するリスペクトもあるのかもしれないけど違和感残すなら必要なかった感はある。

心霊写真……なのか?
同僚女性果南が陽平の写真を撮った時、陽平の周りに黒いモヤがかかってるというシーンがある。
このシーンは割と序盤で出て来て、劇中で3回この写真は登場する。
しかし、一目で何がおかしいのか違和感に気付きづらい。あまりにもやり過ぎないためにそうしてるんだろうけど、だとすれば写真はもっと大きく映すべき。
劇中では結構引きの絵でスマホを見せるから具体的に何が問題なのかわかるのは最後の最後、映画が1時間経ったあたりの3回目の登場シーンだった。

ネタなの?ネタじゃないの?
陽平がキスした翌日に狼狽えてるのを見て果南が指摘するシーン。部署の出入り口の棚に隠れて陽平に「なんかあったと思われるでしょ!」と言うシーン。
いや、そんな扉の前でコソコソしてたらなんかあったって全員にバレるわ!後ろ、人通ってますよ〜と突っ込みたくなる。
そういうツッコミ待ちのシーンなのだろうか?とも思ったけど、ネタ的シーンとわかりやすい描写もないからどうなんじゃろ感。
あと、関係ないけど飲み会で出て来たパイナップルみたいな鍋が凄く気になった。

総評

愛助を返してください。愛助ロスです。

もっと幸せな経験この先もあるんだから陽平と一緒にいてくれよ!って思わず叫びそうになるくらいには愛助の幸せを願っちゃうくらい愛助の愛おしさが半端ない。でも、その愛おしさとは裏腹にこれだけ可愛くても死んじゃってるんだよなとふと思ってしまうのも切なくて良い。

それの愛らしさを出した監督・脚本の高橋名月さん・愛助役久保ちゃんが凄い。し、そこを引き立てる陽平役荻原くんも凄い。大きな事件を起こすことなく、話に起承転結をつけて最後に感情を大きく動かされて良い映画だった。

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