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君に見せたいダイヤモンド



『ねぇ、キャッチボールしようよ』




初めて知らない女の子に話しかけられた言葉だった。

こんな僕に声をかけられた嬉しさと戸惑いがあった。

「ねぇ、聞いてる?」

彼女は、僕を不思議そうな顔で覗かせる。

「あ、うん。」

しどろもどろになりながらも何となく会話をする。

「ほら、離れた離れた」

「いくよぉ〜」

彼女は、僕に向けて投げてくる。



「ありゃ〜ごめ〜ん」

彼女が投げたボールは、地面を叩き斜め左の方向に飛んでいく。

「下手くそやなぁ」 

彼女には聞こえない声でボソッと言う。

「ごめんねぇ〜」

とりあえず 

「いいよ」 と返す。

「投げるよ」

「うん〜」

彼女にふわっとしたボールを投げる。

彼女は、グローブを縦にしてボールを収める。

「上手い上手い」

とりあえず褒めとく。

「いくよぉ〜」

次は、僕の顔に向けて真っ直ぐ飛んでくる。

もちろん、とんだ下手っぴなボールが飛んでくると思っていたボッーとしていた僕はボールを上手く捌けず顔面にボールが当たる。

「痛ってぇ〜」

「大丈夫?」

彼女は心配そうに僕の方に駆けてくる。

「とりあえず、日陰で休もう?」

彼女は僕の荷物を持ってくれて近くにあるベンチまで一緒に歩いてくれた。

「どこぶつかったの?」

「鼻」

「あっ!鼻血出てきてるよ」

「ちょっと待ってて」

彼女は、どこかに走り出す。

(無視しといていいのに。何か雨まで降りそうだし)

彼女は、急いで戻ってくる。

「はい、タオル濡らしてきたからこれで鼻押さえて」

「あ、ありがとう」

彼女から貰ったタオルで急いで鼻を押さえる。

「下向くといいらしいよ」

僕は頷くと、下を向く。

「ごめんね。」

「いいよ。僕がボンヤリしてただけだから」

「そっか」



「ねぇ、名前なんて言うの?」

「〇〇」

「〇〇ね、私の名前は真佑ね。」

〇〇「分かった」

真佑「何歳?」

〇〇「18歳です」

真佑「おんなじだ。ちなみに高校生?」

〇〇「うん」

真佑「それじゃ、私の方が1つ年上だ」

〇〇「そうなんですね」

真佑「めんどくさいからタメ口でいいよ」

〇〇「分かりました」

真佑「もう敬語じゃん、後まゆたん♡って呼ぶこと!」

〇〇「え〜〜」

真佑「何その嫌そうな顔、カッコいい顔が台無しじゃん」

〇〇「んも〜分かりましたよ。まゆたんって呼びます」

真佑「おっ、えらいえらい」

彼女は僕の頭をヨシヨシしてくる。

僕は恥ずかしさからか彼女の手を振りほどく

真佑「なぁ〜に恥ずかちゃってかわいい奴め」

そんなこと言いながらまたヨシヨシしてくる。

真佑「顔も赤くなちゃって」

僕は、再び手を振りほどく。

真佑「〇〇ってさ、いつもここで1人で練習してるの?」

〇〇「そうですけど」

真佑「そっか。ってあれ?」

〇〇「どうかしましたか?」

真佑「高校の最後の大会って終わってるんじゃないの?」

〇〇「終わってますよ。」

真佑「受験勉強は?」

〇〇「僕はいいんです。」

真佑「なんで?」

〇〇「勉強苦手なので、高校卒業したら就職しようと思います。」

真佑「そうなんだ。でもさ、」

〇〇「?」

真佑「大会終わって、野球をしてるっていうことは野球に未練があるんでしょ?」

〇〇「…」

真佑「何も言わなくていいよ」

僕は彼女の言葉で何か救われた気がして涙が出てきた。

僕は彼女にはバレないように涙を拭う。

真佑「おいで」

彼女は手を広げる。

僕は彼女の懐に入る。

真佑「泣いていいんだよ。」

僕は彼女に抱きしめられながら泣く。







〇〇「ありがとうございます。」

真佑「いいよ。何があったのか聞いていい?」

〇〇「はい。」

真佑「少しずつでいいからね。」

〇〇「僕の高校って甲子園に行くような常連校だったんです…甲子園が決まるという県大会で…日向高校と戦ったんですけど」

真佑「もしかして〇〇って乃木高校?」

〇〇「そうです…」

真佑「もしかして、ワンアウトで勝てる!っていう時に暴投した?」

〇〇「そうです…」

真佑「そっか、ごめん思い出せちゃって」






乃木高校vs日向高校の決勝試合

3ー1 で乃木高校が勝利目前!

9回裏2 アウト2、3塁の場面

バッターがショートの真正面に内野ゴロ

誰もが優勝を確信した時、

〇〇はファーストの頭をゆうに越える暴投

この間にランナーは生還

土壇場で3-3の振り出しに…

そのまま次のバッターにタイムリーツーベースを打たれてしまい

3-4 と逆転され敗北

甲子園を逃した乃木高校でした。






〇〇「いいんです…もう…」

真佑「それで、野球に未練があると…」

〇〇「はい……」

真佑「辞めなきゃならない理由って?」

〇〇「うちの家族ってシングルマザーなんですけど、母親が最近大きな病気に罹ちゃって」

真佑「母親の手術代のために…」

〇〇「そうです…」

真佑「そっか。ごめんね。聞いちゃって」

〇〇「いいんです。もう…無理だから。」

真佑「いいな、〇〇には熱中できるものがあって」

〇〇「えっ」

真佑「そう簡単にできるものではないよ」

真佑「やりたいこと…今の私にそんなもんないもん」

〇〇「ゆ、夢とかはあるんじゃ…」

真佑「あるよ!アイドルになってみんなを喜ばせたい!」

〇〇「夢…僕なんか…」

真佑「諦められないんでしょ?当たって砕けろ!だよ」

〇〇「うん…」

真佑「それじゃやるしかないね!」

〇〇「う、うん…」 

真佑「キャッチボールの続きしよっ‼︎」

〇〇「えっ!」

真佑「どうしたの?行くよ!」

〇〇「あ、雨降ってる」

真佑「あれぇ〜?」

〇〇「フッ、おもしろ」

真佑「今、笑ったなぁ〜‼︎」

〇〇「だ、だって〜」

真佑は〇〇を押し倒す。

〇〇「服汚れたんだけど〜」

真佑「ごめんごめん」



〇〇「もういいや、やろう」

真佑「風邪ひくよ?」

〇〇「気にしない気にしない」

真佑「ふふっ、」

〇〇「投げるよ〜」

真佑「おっしゃこーい」

〇〇「それっ」

パシッ

〇〇「ナイスキャッチ」

真佑「えへへ」

真佑「いっくよぉ」

〇〇「うわっも〜」

真佑「へへっごめ〜ん」

ボールは〇〇の頭上を越える。

〇〇はボールを気だるそうに取りに行く。

でも何か分からないけどそこには嬉しさもあったように真佑には見えた。

真佑「気持ちが少し楽になったのかな?」

そう真佑は呟く。


2人は、土砂降りの雨の中黙ってキャッチボールを続けた。



真佑「なんで俺なんかに話かけてきたの?」

〇〇「なんでだろうねぇ〜」

〇〇「答えになってねぇし」

真佑「私も分かんなぁい」

〇〇「あっそう」

真佑「まぁ、いつかは分かるんじゃん?」

〇〇「なにそれ」

真佑「運命的な出会いということでいいんじゃない?」

〇〇「そういうことにしてやるよ」

真佑「んじゃ、最後に」

〇〇「ん?」

真佑「思いっきり投げるよぉー」

〇〇「。」

真佑「おりゃ」

シュッ



〇〇「えっ速っ!」

バーン

真佑「ナイスキャッチ!」

真佑「それじゃね。また今度ね」

〇〇「う、、うん」




〇〇「今までのボールはなんだったんだ…」



真佑「ふーん〇〇君ねぇ」 










真佑とあの日別れてから数日だった。


〇〇は、高校の監督に呼び出された。

高校監督「お前にいい話がある」

〇〇「なんでしょう」

高校監督「推薦だ」

〇〇「いや、俺なんかに…」

高校監督「相手方も来ているから話だけどもいいから聞きにいけ」

〇〇「分かりました」


〇〇はとりあえず監督に言われた場所に向かう。

〇〇「ふぅ~緊張するな」

コンコン

〇〇「失礼します」

真佑「は~い」

聞き覚えのある声だった。

〇〇「えぇ~~~!!」

真佑「お久しぶり〇〇君」

〇〇「なんで、ここに?」

真佑「〇〇と話をしたくて来た」

〇〇「そんな権限どこに?」

真佑「ん?そんなこといいじゃない」

真佑「〇〇君さ、乃木大に来ない?」

〇〇「いや、あの時も話ましたけど」

真佑「知ってるよ。〇〇の活躍も全部」

〇〇「あの時、話かけてきたのって」

真佑「わざとだよ」

〇〇「それじゃ、あの時に…言えば」

真佑「それは無理かな」

〇〇「それじゃ…」

真佑「野球に懸ける思いを知りたくてね」

〇〇「…」

真佑「うちの監督も乃木高の監督も〇〇君の事情は知ってる。その上で〇〇君の野球への思いを知りたかった。1人で練習している姿も含めて本当に野球が好きなんだなって思った。」

〇〇「でも、家族には迷惑かけられないから…」

真佑「分かってる。」

〇〇「そんなこと…」

真佑「お金は心配しなくて大丈夫だよ」

〇〇「いや!他人に迷惑はかけられません!!」


真佑「…」

〇〇「…」

真佑「〇〇君、」

〇〇「はい」

真佑「人にはね、言えない秘密って山のようにあるの」



〇〇「はい」

真佑「でもね、〇〇君のために言うね。」

〇〇「はい…」

真佑「〇〇君のお母さん、…」

〇〇は、その場から走り去り病院に向かった。

〇〇「はぁはぁはぁ」



真佑「…行っちゃったか…」






真佑「すいません、監督さん。来週にでもまた伺いますのでお願いしますね」

高校監督「分かりました」

真佑「〇〇君、お母さんのいる病院に向かいました。」

高校監督「そっか」

真佑「〇〇君にはまだ何も言えてないんですけどね」

高校監督「大丈夫だよ、お母さんの手術は成功すると信じているから」

真佑「そうですね。」

真佑「驚きましたよ、〇〇君のお母さんの担当医が別れた夫だったんて」

高校監督「そうだな」

真佑「手術代も元夫が払うらしいですし」

高校監督「そうみたいだな」

真佑「別れた理由って知ってます?」

高校監督「いや」

真佑「夫の不倫らしいですよ」

高校監督「なんでそんなことまで」

真佑「なんでですかねぇ」

高校監督「おい、まさか」

真佑「はて?監督さんも離婚なされたそうで…」

高校監督「今はそんなこと関係ないでしょ」

真佑「いいんじゃないですか、何も知らなくて」

高校監督「言いたいことがあるならはっきりと言え!」

真佑「ふ〜ん、まぁ自分で調べたらいいんじゃないですか。今日の所は私帰りますね」





〇〇「お母さん!」

医者「大丈夫だよ、」

〇〇「…」

医者「君のお母さんの手術は成功した。安定したら一般病棟に移すからまた来るといい」

〇〇「手術なんて聞いてないですよ」

医者「〇〇、ごめんな」

〇〇「なんなんですか」

医者「俺の過ちで」

「なんのことやら」

医者「〇〇、手術代は気にしなくていいぞ」

「あなたは何者なんですか?」

医者「君のお父さん、いや元だよ」

「…」

医者「俺が不倫したばかりに〇〇に迷惑をかけて申し訳なかった」

〇〇「…」

医者「今までの学費と今回の手術代は俺が出す」

「そんなんで許すわけ」

医者「本当に申し訳ない」

〇〇「…」

〇〇「俺の近くに来ないでくれ」

医者「本当にすまない」





後日

母「ごめんねぇ〇〇、心配させちゃって」

〇〇「…」

母「〇〇?」

〇〇「俺って…これからどうすればいいの?」

〇〇は、母の元気な様子を見て涙が出る。


母「すきなことをして生きなさい、〇〇」

〇〇「お母さん…」





数日後

〇〇「監督、僕乃木大に行きます」

高校監督「そうか、分かった。あちらの監督さんと話しとくよ」


〇〇「ありがとうございます。」

高校監督「頑張れよ」








大学監督「そうか、やっとか」

真佑「大変でしたよ」

大学監督「田村が自分の親戚にどぶどぶ入って行くってなって心配したよ」

真佑「なにか、焼肉でもおごってくださいね」

大学監督「そりゃ、なんでも」

真佑「あと、バックも欲しいな」

大学監督「全部買ってやるよ」

真佑「やったぁ、なんでそこまでして〇〇が欲しかったんですか?」

大学監督「あの子のバッティングセンスはプロ以上だからね」

真佑「本当にそれだけですか?」

大学監督「どうかね?このチームに〇〇が入ったら分かるよ」

真佑「それじゃ、楽しみにしてますね」


〇〇の挑戦は始まったばかり


後日談

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