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好きって言いたい

『〇〇くんと美月ちゃん、付き合い始めたらしいよ』



『ふたり美男美女でめっちゃお似合いじゃん』

『うわぁ〇〇くんと付き合えるとか羨ましいけど、あんな可愛いんじゃ割り込めないわぁ』





噂はすぐに私の耳にも入った
そりゃあもう、否応なしに。




毎休み時間にみんながそれぞれ席に集まってはこの話題でつきっきりだし




どんなに耳を塞いだって
どんなに窓の外に物思いにふけようとしたって
明日の分の宿題やろうとか柄にもなく集中しようとしたって


全部、もう全部聞こえる。
集中なんて出来たもんじゃない。



いや、別に気になるわけじゃないからね?

全然興味ないし、気にもならない。
ただうるさくて集中できないだけだから。





本当よくも飽きないよねみんな。
そんなヒトの恋愛事情なんぞ関係ないじゃん、




うん。関係ない。
私はぜんっぜん興味ない。もう、ぜんっぜん

















「いいなぁ〜恋愛したーい!みたいな顔してるけど」

「はっ?」



はたと目の前に現れた美波がぐぐっと屈んで顔を覗いてきた



「まあ、幼馴染だもんね〜」



「っ、全然!私には関係ないし!」





「そのわりにはさっきから手止まってますけど?」


「違うよ、うるさくて集中できなかっただけ」




「またまた意地張っちゃってぇ」


「フン」





意地?


そうだよ意地でなにが悪い。






「〇〇と美月…」




思ったより
その言葉を口にしたとき
自分の声が震えた



あー、私こんなに好きなんだっけ




「本当に付き合ったのかな…」



自信なんてもう地の果てだった。





私は
〇〇にとってただの幼なじみで


特別可愛くもなくて
愛想もないし
背も低いし
声も可愛げないし
なんも取り柄なんかなくて




美月ちゃんは可愛くて
女子力も高くて
ふわふわしてて守ってあげたくなるかわいさで
スタイルも良くて
声も可愛くて





あぁ比べるんじゃなかった。

自分のセールスポイントの無さえげつない…




「でもただの噂でしょ」



美波はたまに突拍子もないこと言う

火のないところに煙は立たないってことわざ知らないのかな?
噂は何か大元があるから出るんだよ…


「自分で確認してみたら?」

美波は追い討ちをかけるような事を言う



「いや…そんなの、出来るわけ…」




振り返ったら私の席の背後に、いた。



(マジかぁー)



今一番会いたくなくて


けど
やっぱり会いたいヒト




トントン

「飛鳥?」



〇〇も噂聞いてどうせウキウキしちゃってるんでしょ、あー馬鹿らしい

美月ちゃんみたいな可愛い女子と付き合う俺かっこいいとかどうせ思ってるんでしょ、


ほんとに、最悪な気分



「…何か用?」

惚気話でも聞かされるのかな?


「いや、お前が俺に彼女出来たって聞いて落ち込んだかなぁーと思って顔見にきた」




…は?

え、殴っていい?



なにこいつ
何このデリカシーのない顔だけイケメンなクソ脳なし野郎じゃん




私こんなされただけでもう心臓があり得ないほどバクバクいってるっていうのに


胸の近くまである腕に心臓の音が伝わってないかな…





「意味わかんない、あっち行って」


平静を保ってなんとか絞り出すけど

私はもう顔が赤くなってないか
そればっかりで



なのにこいつときたら



ただでさえ彼女出来たって聞いただけでも本当はメンタル崩壊寸前なのに


そんな私の気なんて知らないで
幼なじみだからっていつものノリで構ってくるし


私が好きだなんて知らないで
幼馴染のことなんか一つ理解してない





あー、もうだめだ

なんか涙出そう




「…は?泣いてんの?」




え?泣いてる?

そんなこと…

あれ?どうしたんだろ

涙が出てる…?



涙は頬を伝って口に入ってきた




好きな相手に好きになってもらえない

ただの幼なじみだってきっとずっとそう思われてる
そんなの今に始まったことじゃないのに、



なんでそんな奴の前で…



「飛鳥、ちょっとこっち来い」




グイッ

腕を掴まれて無理やり席を立たされた




「何ちょっどこ行くの」

「いいから」




えっえっえっ


何で腕引っ張られてるの私



どういう展開?



あれ?私、何した?





訳もわからず〇〇に引っ張られたまま
もうすぐ教室のドアってとこで
ふいに慌てて振り返ったら



美波が口パクで『ガンバレ』って言ってた








なにを頑張るの今更…私に浮気でもするの?…


というかどこに行く気?





引っ張られて全速力で連れてかれた先は
人気のない屋上

「はぁっ、はぁはっ、」




あぁ、こいつ足だけ無駄に速いんだった。




小学校の時
徒競走で1等常連だった〇〇は下級生上級生限らずみんなの好意の的だった


中学校の時
サッカー部に入って、もちろんその足の速さで1年生からレギュラー勝ち取って
当たり前にモテた。そんなの私が息を吸って吐く間に女子1人が〇〇に惚れるくらい



いつだって〇〇には選択肢が山ほどあって
誰に告られただの
バレンタインのチョコ30個貰っただの
そんな話ばっかりで



なのに何故か
〇〇はずっと彼女を作らなかった






私はそこに安心しきってた
いや、なんなら自惚れてたかもしれない

幼馴染として、好きな人として。





もしかしたら


"私の事が好きなんじゃないかって"







家が近くで幼稚園の頃から幼なじみとして家族ぐるみで仲良かった私と〇〇はもうそれはずっと一緒にいた。


昔は女の子みたいに可愛い顔して私と同じくらいの身長だった〇〇が、知らぬ間に大人っぽくなって背も私なんかよりずっとずっと高くなっててカッコ良くなってた。



好き! この気持ちはいつから続いているのかは分からないけど


もっと早く気付けば良かった〇〇のことを。

私が〇〇のことが好きだということを。



「ごめん、なんか気付いたら走ってた」



〇〇は何か考えるような顔をして俯きがちにそう呟いた



後ろ頭を掻く仕草



私は知ってる。
それ照れてるときの仕草だよね…?



「どうしたの突然、」



私は〇〇の口から出る次の言葉が欲しくて


でも怖かった


だって〇〇と美月ちゃんがほんとに付き合い始めたなら




私もう、

〇〇のそばにはいられないでしょう?





「俺さ、さっき美月ちゃんに告られたんだよね」


私が期待してた言葉なんて出るはずもなく


目の前の幼なじみはその口で"美月ちゃん"と言う

付き合ったんだろうな…

そりゃあそうだ美月は私なんかと違って可愛いし
私が男でも彼女にしたいって思うよ


あーあ

もっと私が早く告白してたらなぁ


「良かったね」

「おめでとう〇〇」


淡白で抑揚のない声で〇〇に伝える。



この状況が辛くて思わず下を向く





「飛鳥、なぁそれほんとに思ってんの」




は?


ふいに顔を上げると




そこには不機嫌マックスの〇〇の顔が



泣きたいし怒りたいし早くこの場から逃げ去りたいのに…




すると、
ふっとひと息つくやいなや1メートルくらいあった距離をぐんと縮められる




彼女いるのにこんなに近くていいの…


その距離15センチあるかないか。




「今からするのはもしもの話だから」

ん?

この場に及んでもしもの話?


「うん?」





「もしも、ある男Aにずっと昔から好きだった奴がいて
でもそいつはAに全然気がなくて多分ただの幼なじみだと思っててだから男として意識させてやろうと思って、無駄に近付いて話しかけたり本当はすっげぇ緊張したけど、そいつの肩抱きしめてみたり他の奴から告白されたってわざと報告してそいつの反応確かめるとかダサい事したりでもそいつ照れるでも何か反応するでもなくいっつも素っ気ないしそんなのしても結局なんも効果なくて」


一気に畳めかけてくる。



なにそれ

なにそれなにそれ


例え話って言ってるのに私には思い当たる節しかない








「なのに付き合うって噂流れた途端に辛い顔して、泣くそいつの事。俺マジで理解不能だし、ぜんっぜん気持ちわかんねぇんだけど。」



「でも、ソイツのことが俺どうしようもなく好きなんだよね」



もしもの話だっていうのに、俺とか言っちゃダメじゃん


だってそんな事したら…




「俺は美月ちゃんに告白されたけどちゃんと断った。」


「で、なんなの?お前は」



もう怒ってるんだか悩んでるんだか訳わからない顔をしてる目の前の幼なじみが


耳まで真っ赤にしてこっちを見てて



私はその信じられない状況に息をするのを忘れそうになった



「なんなのって、そんなの…」


「なぁ」



「例えば、ね」



「真似かよ」



「いいじゃん、お互い様でしょ」



「はいはいどうぞ」


〇〇はじっと私の目を見つめて離さない


私はやっぱり恥ずかしくて
心臓の音が煩くて自分の声を掻き消してしまうんじゃないかって不安になるくらいで



少し俯きながら口を開いた


「例えば、ずっと昔から好きだった人がいて」


「その人は本当によくモテるから色んな可愛い女の子からいつも告白されたりとかしてその度に浮かれてニヤニヤしてるような気持ち悪い奴で」


「でも、幼なじみだからって距離感無視してくっついてくるし、私は心臓の音がバレてないか不安で素っ気ない態度しか取れなくて、その度に意識してるのは私だけなんだって思い知らされて、」

「ずっと彼女作らなかったそいつに安心しきって油断してたせいでいざ彼女が出来たって噂聞いたときにショックで死にそうになった」



「だから諦めようと思ったけど、」


「こんな屋上急に連れてかれてこんな例え話聞かされて
ほんっとになに考えてるのかさっぱりわからないけど」

「でも私、やっぱり好きなんだ」




「は?!」


「えっ、?なに?」



〇〇が急に大声を上げるもんだから驚いてどんな恥ずかしい例え話してたか忘れた



「は、?じゃあ、それってつまり」


…………俺の事好きなの?」







何をいまさらって私の顔




散々言ったでしょ今




例えられてなかったよ私も








だって
好きって〇〇の目を見ながら言ったんだから

もうそれ告白でしょ…





「はっ、?マジで…?」

あり得ないとでも言いたげな顔するから思わず笑ってしまった



うわーマジかよ、早く言えよとか




こっちのセリフだわ



「〇〇こそ…」



「いや、俺わりとずっとお前の事好きアピールしてたけどな??」



「そんなストレートに言わなくても」

むりむりむりそんな事言われたら顔熱くなる



好きアピールとか、

好き、とか…




「なに?照れてんの?」

ニヤリと笑うその顔はもう意地悪の始まりの合図


「もっと言ってあげようか?飛鳥ちゃん」



「いい、大丈夫、わかった」




すると突然

フッと腰に手を回されて



「えっ…、ちょ〇〇」



その距離0


ふいに重なった唇




触れるくらいの優しいキスだった、




「まっ、〇〇!?急に」



「ずっとこうしたかったんだよ、俺は我慢してたんだからさせろ」





爽やかな顔でほざくこいつ

ドキドキでおかしくなりそうなのは私だけって






なんかムカつくんですけど…?





「じゃあお返し!!」





半ば投げやりで
真っ赤な顔をしてるであろう私は

無理やり背伸びして〇〇にお返しのお見舞いをしてやった



「は?!!、いや、それは反則」



ってしてやったりだと思ってたら





「スイッチ入れたの、お前だからな?」









なんか間違えちゃったみたいです



「助けてえええ!ここに変態が」



「好きな男を変態呼ばわりすんな」



〇〇、こいつはすぐ調子乗る奴



そう言ってまた距離を詰めてくるから

思わず後退りすると




「まぁいいよ、今日はこのくらいで」


なんて、
頭ポンポンされてなだめられたけど




告白の数秒後にこんな破〇〇恥な事する奴、許さん…と思って睨みつけて見上げたら



うわ、無理

 

両想いになった途端
なんか余計にカッコよく見えてきた



「なに飛鳥?どうせ俺の事かっこいいって思ったんだろ」




やっぱりこいつすぐ調子乗るんだから。


そんな奴に好きとかまた言えるのは

当分先になりそうー


「もう、知らないっ」

プン

「早く教室帰るよ」

「HR始まっちゃう」


「クソっ、いい雰囲気だったのに」


「そうだねえ〜」


2人は手を繋いで教室に戻った。

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