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『三体X 観想之宙』の書評

COBRAの2023年7月24日の記事「Planetary Situation Update and Kyoto Ascension Conference Report」で紹介された記事「Review of "The Redemption of Time: A Three-Body Problem Novel" by Baoshu」を翻訳しました。

※翻訳がお気に召しましたら、記事下部からサポートをお願い致します。

”現在の光の勢力の主な焦点は、亜量子異常の除去です。

亜量子異常は従来考えられていたほど無知ではなく、ラーカーというエンティティ―はかなりの難題を突きつけています。ラーカーに関する詳細な情報がわかってきました。以前の宇宙周期では、宇宙が特異点に崩壊する
ビッグクランチ(予測される宇宙の終焉の一形態)を生き延びようとするエンティティがいました。(アセンション以外で)生き延びる唯一の道は、意識を強制的に亜量子に投影することでした。

前の宇宙周期から来た者たちは、自分たちの意識を亜量子の非空間へと押しやるという極端なエネルギーによる非常に高度な技術を使用しました。この過程を通じて、彼らは極度のトラウマを負い、個性を失い、SF小説で示唆されているように狂暴で無定形で復讐に燃えるラーカーという名の亜量子の小塊に融合しました。”

元記事

Thursday, October 1, 2020

本作は劉慈欣著の『三体』三部作の二次創作です

他のシリーズを未読でも楽しめるストーリーにはなっていますが、『三体』シリーズ原作のファンなら、より楽しめる内容になっています。

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冒頭でまず、著者の宝樹自身が『三体』シリーズの熱烈な大ファンだったことに触れられます。原作が終わった後は、世界中の愛読者の喪失感を招き、それに耐えかねた宝樹氏が三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆し、なんと原作者の了承を得て刊行されることになったのが、この『三体X』なのです。

原作の三体三部作は非常に複雑なSF小説です。かいつまんで説明すると、こうです。三体星系の異星人「三体星人」は、地球上に科学文明があることを知る。三体星人は過酷な環境の故郷の星を離れ、豊かな資源と穏やかな環境に住む人類を絶滅させ、地球を我が物にせんとし、こちらに向かうことを決める。地球人はその危険を認識し、対策を講じようとする。両陣営が織りなす複雑な戦術、壮大なスケールの宇宙戦争、さらには「天災」について考えさせられるなど、斬新で魅力的な物語です。

その物語を土台として宝樹氏が書いた物語では、ほぼキャラクター同士の対話だけで成り立っています。話の展開で「魅せる」というよりも、登場人物の語りで「説明」されていく感じで、物語は進んでいきます。これは欠点といえば欠点で、原作の魅力の1つであった「アクション」がごっそり削ぎ取られてしまっているというわけです。さらには、物語全体の主題というべきものが最後まで不明瞭で、読み終わった後も「結局、何をしたかったのか?」という感じが残ります。それでも、原作の登場人物たちにまた会えるということ、彼らの視点から見た世界について語られていくのは興味深いと思いました。

『三体X』では、太陽系が壊滅したのち、地球とよく似た青色惑星で、雲天明(ユン・ティエンミン)と艾(アイ)AAが二人ぼっちになります。二人は瓦礫の山で目が覚めて、そこで毎日散歩したり、話をしたり、くつろいだり、眠ったりして過ごします。天明はハイテクの指輪の機能を使って、必要なものはほぼ何でも無限に出現させることができます。そのため、二人の生活は(孤独ではあるものの)とても快適でした。

天明とAAは、自分たちの身の上話や、自分たちの文化で人気の事柄や、民話についても話し合います。そのうち、天明は三体星人と地球人との間に起きた悲劇についても、語り始めます。詳しく説明すると長くなるので簡略的に言うと、彼は三体星人に脳を奪われ、地球人類の思考形態を解明すると言う目的で、何十年も脳を研究されたのです。三体星人は「嘘がつけない」と言う特性を持ちます。よって、人類を打ち負かすには、人類の「欺瞞」を理解することが戦略的に必要を迫られていたと言うわけです。

ところが三体星人はどうしても人類の思考の奥深さを解明できませんでした。それで天明を幻覚などで拷問し、地球人を滅ぼすために手助けするよう無理やり合意させようとしました。天明はこれに反抗し、三体星人を嘘で混乱させようとしました。しかし、事態は思わぬ方向に進んだのです…
ところで、三体星人の外見について、原作者劉慈欣氏は描写していませんでしたが、三体Xでは普通に描写しているのがちょっと気になりましたね😏

そうして数十年間、地球に似たプラネット・ブルーのその環境で過ごし、天明とAAは年をとりました。途中でAAが、まず亡くなります。その後、天明は霊(統治者)の声を聞き、協力を求められます。

宇宙には「マスター」(女神)と「潜伏者(ラーカー)」(統治者に反抗的な息子)という、二大勢力がいます。宇宙はもともと十次元ですが、潜伏者の次元攻撃によって時間の性質が変化してしまい、よって光の速度も変化したことを説明します。潜伏者の本当の目的は、この宇宙の何もかもを瓦礫の山になるまで破壊することでした。

マスターは、ラーカーを根絶させることで、この宇宙の「リセット」を望んでいます。この部分なのですが、妙な疑似科学的な説明がくっついてきて、私的には同人誌っぽさがキツくて、イマイチ引き込まれませんでした。

霊(マスター)の話の後、彼女は天明に「探求者(シーカー)」になってほしいと頼みます。シーカーとは、ラーカーを見つけ出し、マスターはシーカーを通してラーカーを根絶します。天明の意識は「アイデア抽象」(知識)で満たされ、肉体も破壊不可能な強固なものが与えられます。天明は他にもシーカーになれそうな人を探しに、大宇宙を冒険します。潜伏者を滅ぼすために。

天明の冒険は数十億年にわたります。その間、ラーカーの手下たちは、宇宙の知的生命を破壊し尽くすために動き回ります。

その間に織り込まれる策略なのですが、こちらも本御所と比べるとやはり見劣りするというか…クライマックスの部分、「オルタナティブ・ヒストリー」という面白い観点での要素があって、この部分はかなり楽しめましたね。

本の中で、宇宙科学以外にも、登場人物たちが話す神話や歌、童話などは実在するものがあるなど、世代を超えたエンタメにしようとする意図が見えますね。良いアイデアだと思います。

宝樹氏の注いだ情熱と才能には拍手を送りたいと思います。ですが、原作者の劉慈欣氏と比べ、やはり飛躍的な想像力や創造性という点で大きく見劣りするのは、仕方がないところでしょうか。やや全体的にテーマが見えにくくなっているのも難点です。それでも、
三体ファンにはとても楽しめる内容ではないでしょうか。

評価: ⭐︎⭐︎⭐︎

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