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地球によくないダイエット

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】

 ふだんほとんど決心などしないほうである。どちらかというと、決心しなければいけないようなことを避けながら生きて来たと言ってもいい。いや、小さな決心はするものの、ものの見事にその決心を忘れる、という繰り返しだったのかもしれない。

 しかし、今回は決めたのだ。ダイエットしよう。そう思い立ったのだ。

 なあーんだ、と思われるかもしれない。女性にとったらそれこそ日常茶飯事の決心、かもしれない。確かに、女性雑誌を見ればダイエット特集ばかり。こんなに懇切丁寧でいいのだろうかと思うほど詳しくダイエットの理論、方法が書かれている。やせるエステは大はやり。薬局や健康食品の店にはダイエットフードがずらりと並ぶ。ダイエットはすでに産業であるかのようだ。

 さて、僕が今回減らしたいと思っている体重は十キロ。このところ机に向かう仕事が多かったからか、食い道楽に拍車が掛かったせいか、一年間で十キロも太ってしまったのである。十キロといえば二百グラムのステーキなら五十枚分である。五キロのダンベルを両手に持った重さである。当たり前だけど。

 当初はまあいいやと思っていた。バスタブに入りきらなくなったわけでも、玄関のドアから出れなくなったわけでも、自分のおしりをふけなくなったわけでもない。この程度のデブならそこらじゅうにいる、とたかをくくっていたのである。困ったことといったらウエストのサイズが変わって、はけるズボンがなくなってしまったこと。久しぶりに体重計に乗ってさらにびっくりというわけだ。

 かくして決心をしたのである。短期間で十キロをへらそうというのだから、無謀は承知の上。無謀な目標達成にこそ決心という大それた称号は与えられるべきである。

 しかし、ふと考えてみる。皆が皆、僕のように決心をし、やせたいと思っているとしたら…。僕でさえも減らさなければいけない脂肪が十キロ分あるのだから、日本の国全体でどのくらいの脂肪が余っているのか。

 これを仮に”余剰脂肪”と名付けるとしよう。どんなに低く見積もってもダイエットブームの日本では一人平均二キロは減らしたいと思っているだろう。逆に脂肪が少し欲しい人もいるか。まあ、仮に一キロとしよう。それでも十三トンもの余剰脂肪があることになる。ちなみにこれを平均体重で割ってみると、何と二百五十万人の脂肪人間が余計にいることになる。脂肪だけで大都市の人口を形成できるわけだ。これはすごい。

 世界的に見ればやはり脂肪余剰国ナンバーワンはアメリカだろうか。暖かい国ではあまり脂肪は必要ない。逆に寒い国ほど脂肪が必要に違いない。脂肪余剰国は余剰脂肪を輸出するかまたは援助として送るべきだということになる。

 だからダイエットなどというものは無駄なことなのかもしれない。浪費である。十万トンもの脂肪を燃焼させたら、地球の温暖化にも加担することになる。

 などとダイエットの苦しさ紛れに夢想する。一週間で三キロ体重が減った。燃焼した脂肪はどこにいってしまったのだろう。成仏してくれ。


関口コメント:
28年経っても同じようなことをやっている自分がいる。コロナ禍の自粛生活で4キロ太ってしまい、かつてと同じように一念発起して3キロ減らした。一週間で3キロ減らしたこの時とは違うのは、そこまで減るのに3ヶ月もかかったということだ。

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