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行政こそDXを⁈混沌とした業務が月100時間削減

東日本大震災の震災遺構として整備された福島県双葉郡浪江町にある震災遺構浪江町立請戸小学校(以下、請戸小)。
開校から3年経ち、今では約6万人を超えるペースで多くの方が来校しています。
団体予約の多い請戸小のような施設にとって、その繁雑な作業への負担は予想以上に大きなものなのです….。

今回は電話 / FAX /メール受付での団体予約から、システムを導入したウェブ受付に変更し、月100時間の業務を削減した案件をご紹介します。

人の手で書き込む日々…膨大な作業量に悪戦苦闘

請戸小では、それまで予約管理をメール又は電話を中心に行ってきましたが、スタッフの業務改善を見直すことをきっかけにウェブ受付に変更しました。
導入前、膨大な予約作業を日々繰り返す苦労に加えて、すべてマンパワーで予約管理することに限界も感じていました。過去の担当者も含めて、「この問題がどうにかならないものか…」と対応に苦慮していました。
そこでトップが予約管理システムの導入を決断しました。

既存のパッケージ製品を流用するのではなく、施設の要望を最大限に反映できるようゼロからのスクラッチ開発としました。

導入時の担当者によると、システム導入するに当たって要件定義が非常に大切とのこと。逆に要件を間違えると、業務効率化は全く期待できないのです。

「課題を洗い出すことが何より重要です。その課題から、解決すべき問題の優先順位をつけながら、適切なツールを見極める必要があります。」

導入時の担当者より

抱えていたいくつもの課題と導入後の変化

具体的にどんな流れてシステム導入に至ったのか。当時の担当者に聞いてみたいと思います。

-具体的にどんな課題がありましたか。

予約するお客様、運営側双方において、予約プロセスが非常に面倒でした。
まずお客様がPDFをダウンロードし、手書きもしくはパソコンで必要項目を記入。
それらをPDF化して、メールまたはFAXなどで送っていただきます。
我々が受け取った後は、他の団体との被りがないかを確認し、承諾か日時変更依頼の返答をする。
この調整が非常に面倒でした。
その後、我々はシステムに団体情報を打ち込み、各申込用紙はバインダーにファイリングしていました。

団体予約はその受け入れ人数の多さ、また確認事項の多さから、個人予約に比べ、非常に煩雑な手続きを求められるケースが多く存在します。
これは相対的に、事業者にとっても複雑な手続きなのです。

-予約システムを導入して、どのように変わりましたか。

最も効果を実感したのは、お客様自身が予約情報を入れるため、こちら側での対応業務がほぼ不要になったことです。
また、お客様自身が空き状況をウェブ上で確認できるようになり、『この時間は空いてますか?』という問い合わせ対応もほぼなくなりました。

お陰様で、少なく見ても月間80〜100時間分の業務を削減したと思います。

他にも見える化・簡易化により

・タブレットでの管理により、誰でもがリアルタムで予約状況を把握でき、現場スタッフとの共有ができる。
・管理システムに書き写す必要なないため、転機漏れや誤記入など、ヒューマンエラーによるミスがなくなる。
・属人化しない体制になる。

など導入後のメリットは大きかったです。

周囲から『ウェブの予約管理システムを導入して売上は伸びるの?』という質問があります。
しかし、このシステムはあくまでも予約管理のためのもの。業務効率化のツールのため、売上などは別の話ですね。

https://namie-ukedo.com/information/

-現場スタッフからの反対はなかったのでしょうか。

共通認識を作ることが大切だと思います。
上司は「売上や来客者数」を課題と考える一方、現場のスタッフさんは「業務の効率化」を解決すべき課題として捉えている。

管理者と現場がしっかりコミュニケーションを取って、課題について共通認識を持つことが重要です。
コミュニケーションを取って理解してもらい、協力してもらえる体制を作ること。
『まずは業務を効率化しましょう。それから売上を伸ばす手を考えましょう』とすることですね。」

前任から続いていた課題をいつ解決するのか

-その他、導入に対してのハードルはありませんでしたか。

「特になかったです。誰かひとりでもネガティブなイメージを持ってしまうと、改善もやりにくくなってしまいがちですが、ありがたいことに皆さんに理解いただけています。

前任からずっと抱えていた課題でもありましたし、作業に費やしている多くの時間のことを考えると、機会損失のほうがはるかに大きかったです。

例えば、予約申込書の文字が読めないと、再確認のために電話やメールをする必要がありました。他人の書いた文字って読みにくいんですよね。
また管理システムへの書き写しの際、転記漏れやミスなどがありましたが、今はデータを自動的に一括管理することができます。

『このシステムを導入したら、どの課題に効くのか?』ということを明確に見極めること。そして「今はどんな課題を解決しようとしているのか」を、組織で統一することが大事だと思います。

『いま我々は、予約管理業務の効率化を目的としています。現場視点から、どんなことが必要だと思いますか?』と、現場メンバーにも投げかけ共有すること。
先に述べたように、このプロセスなしには大切な要件を決められません。」

-予約者の反応はどうでしたか。

「よく『ウェブ予約のみだと、ネットができない人はどうしたら良いのか』ということを懸念されている方がいますが、むしろ予約がラクになってよかった!という声を多く聞いております。

ネットができない方への対応や現地の不明点などは電話で説明するようにしています。
ただ、紙や電話だと書き間違い・聞き間違いなどが起こり得るため、そうしたミスでご迷惑をおかけするリスクを減らすためにという説明をして、基本的にはウェブで予約受付するようにはしています。」

-副次的な効果などはありますか。

「ウェブ予約化が要因かどうかは定かではないですが、結果的に予約数は増加傾向にはあります。
あと、これも副次的な効果ですが、新規の団体も増えていますね。
集客のために何かしていた訳でもないのですが、利便性の向上が一因なんだろうと思っています。ウェブ検索で見つけられるようになったり、どこでも予約できるようになったり。

また予約データの管理も効率化しました。紙だとデータの集計がしにくいし、何が課題だったのかが見えにくい。

そして、集計が格段に楽になりました。
CSVで出力できて自由に活用できるので、いろいろな角度から分析できるようにもなりました。

現状の数字管理ができるようになったことが重要に思います。ただ先ほどもお伝えしましたが、予約管理システムはあくまで、顧客の予約管理の利便性を向上させたり、運営側の業務を効率化したりするためのツールだと思っています。ですので、当施設の予約数が増えたのは副次的な効果です。」

日常業務の見直しにより、他の課題にも着手できる

-ウェブ予約化以外にもDXの一環として行ったことはありますか。

外国人の来場者が増加してきて、対応に四苦八苦していました。
リーフレット(館内案内)はもちろんですが、構内にあるパネルをスマホやタブレットで見れるように対応しました。そのお陰で来場した外国人の方にも、施設の中身を深く理解していただけるようになりました。

-今後の課題はなんでしょうか。

ひとつの課題を解決すると、また別の課題が見えてきます。たとえば予約管理システムを入れて業務は効率化できましたが、一方でウェブ予約ならではの課題も出てきました。

具体的には、現在は複数日程予約を希望する同一団体がいても、1日程しか選択できない仕組みになっています。旅行代理店の方々が団体予約することも多いので、リピーターの方になるべく楽に予約できるような設計にすることも、もしかすると今後の課題かもしれません。

震災遺構浪江町立請戸小学校:
https://namie-ukedo.com/

最後に

日常業務の大変さが、一変したように思えます。しかし、担当者の方が何度も述べていたように、システムの導入が目的ではなく、本質的には何を解決したくて、導入したら何がどう改善されるのかを明確にすることが大事なんですね…!

DX化が叫ばれている昨今においても、アナログな管理・対応が多いと感じます。具体的には、管理・確保が必要なリソースの調整、予約者から取得すべき情報の取得、注意事項の説明等でといったものです。この部分の業務整理や効率化が進んでいないことが、大人数の団体予約でWEBでの即時予約が普及していない理由ではないかと考えています。
これは、結果的に利用者側も相応の負担、例えば、営業時間に電話できない、FAXを所有していない、などを強いていると考えられます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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