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地域が観光で消耗されている

観光は地域を活性化させることができる一方、地元にとってマイナスとなること、不満や不安を与えることもあります。
それは昨今、世界各地の観光地で問題になっているオーバーツーリズムです。

強く言ってしまえば、『オーバーツーリズムは、大切な観光資源を失うリスクのある病気』です。ガンみたいなものです。この病気を放置することで、受け入れ側の疲弊から始まり、サービスの質の低下により、観光客と住民の摩擦が生じます。事態を変えないとリピーターの獲得もままならないのに、目の前の業務をこなすことで精一杯なため、「求められているサービスにまで、意識を向けられない」という悪循環に陥ります。

弊社では、日本固有の文化や自然、人の温かみを大切にしていきたいと思い、様々な地方で地域ブランディングなどを行ってきました。弊社が考える観光地の最も重要な資産は、『固有の文化・風土』、そしてそれらを形成する『住民の生活』です。

そう、合掌造り集落で有名な白川郷もその一つでした。しかし現実は、「観光客は増加しているのに、住民の幸福度は反比例して下がってきている。」という地域住民の悩みにぶち当たりました。

当たり前と言えば当たり前ですが、住民を向いて地域づくりをしていくことが様々な地域で疎かになってきていると感じます。
地域がどこを向いて政策を行っているのかワカラナイ。

今の政治などにも繋がるかもしれません。国民や住民を見ずに政策や施策を進めたところで、みんながついて来なければ、持続可能なものにはならず、短期的な絵空事になっていますよね。本当に最近の政治もよくワカラナイ。

オーバーツーリズムの住民の意識や行動

ところで、観光客増加に直面した際、地元住民の意識や行動を5つの時系列的な段階を辿るという「Doxyモデル(Doxey1975)」というものがとても参考になると思います。

stage3以降は、観光恐怖症(Tourismphobia)や anti-tourism(反観光)と呼ばれ、世界各地で地域住民が観光客を拒絶する状態になってしまいます。例えば、世界ではイタリアのベネチア、オランダのアムステルダム、スペインのバルセロナ、日本では、京都、鎌倉、白川郷、富士山などが挙げられます。

オーバーツーリズムの共通点

オーバーツーリズムに直面している地域を見てみると、あれっ、共通点があるのかも?と私たちは考えました。

さて上述のDoxyモデルに話を戻すと、白川郷、特にライトアップのイベントではstage4にまで達した危険な状態でした。では実践者である私たちが考えてきたことを述べていきます。

時代が変化していく中で、変わらないこともリスク

持続可能な観光地経営をしていく上で、観光地の文化や歴史、伝統を本来の姿で継承して守り観光資源として生かしますが、変化していく時代に寄り添うことも同じく重要だと考えています。諸悪の根源は制度設計、つまり時代の変化に合わせずに昔ながらの設計で行なっていることです。

私たちが大切に感じていることは、地域住民が主体的に動いていくことであり、その活動を大局観でとらえてサポートすることです。これからは、観光客が自発的に「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」を意識してくれることで、受け入れ側の態勢はより整い、結果的にサービスを向上させる足掛かりになるでしょう。

私たちが実践している「持続可能な観光地経営のデザイン」は、事業者としての立場から、観光客と地域住民の相互理解を求めています。それは第三者からの押し付けではなく、白川郷に伝わる『結』のように、相互扶助の精神によって実現されてゆくものだと信じています。

実行するうえで、重要であったことは以下に集約できます。
課題解決に向け、将来設計を描いていきました。

また頭に入れておきたいこととしては、オーバーツーリズムが解決したからってゴミのポイ捨て問題や落書き、マナー違反の横行などが減るわけではありません。日本人のロジックは通用しないと思ったほうが良いですね。全くの別問題として扱う必要があります。

どのようなお客様に来ていただき、楽しんでいただくか

観光地経営で最も重要であるにも関わらず、多くの地域で抜けている視点が、「地域側が観光客を選ぶ」という発想です。これは*レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)で重視されている考え方で、観光成熟市場のハワイが意識して行っていることです。受け入れ側となる地域が明確なフィルタリングをしていれば、来訪する観光客は徐々に理想に近づいていきます。
オーバーツーリズムを解消するには、観光産業を成り立たせるだけの観光客数と質を確保しつつ、住民への負荷がかかりすぎないように、観光客数を抑える対策が必要です。

量だけでなく、質や関係性を主体とするマーケティングへ変換する時期がきています。いや、本来ならもっと早くに取り掛かるべきでした。
「低価格による人数増では豊かにならない」という課題対応が不可避となっています。当事者である地域住民が主体的に動くためには、できるだけ早い段階で観光地経営をデザインすることが大切です。

受け入れ体制を整えることで、
「何を求めてここに来ているのか?」
「地域住民にとって、どのようなお客様に来ていただきたいのか?」
「どうしたら来ていただいたお客様に、満足していただけるのか?」
といったことにまで意識を向けることができます。
さらには、サービスの向上に伴い、その先にある時代の変化に柔軟に対応することに繋がっていくのです。

増えすぎた観光客が原因で、昔から大切にしてきたことが綻びはじめていることに危機感を抱き、何より行動(アクション)を起こすことが大切です。

財源をお客様から確保すること。住民の負担を軽減して、継続的な質の担保をできるか

大切なのは〇〇というブランドではなく、そこに住む人々の生活や風土、文化です。この地域ならでは、田舎ならではの素朴さや温かさ、少々のおもてなしが観光競争力の原点なのです。その本質を見失わないために、丁寧な対応やおもてなしにまで意識が向くように心掛けることが大切です。
地域生活の風土や文化を保ちつつ、継続できる取り組みであること。
観光ブームやインバウンド需要の増減に左右されず、サービス品質・信頼を提供できることです。

多くの地域では『来場者や観光客から入場料をいただくのは、申し訳ない』という想いがあります。しかしそれでは、いつまでたっても良いサービスは生まれません。『お金を払ってでも行きたくなる場所・地域・イベントにしていく』という発想や心意気が地域全体で必要なのです。

健全な観光地経営には、受け入れ側が主体性を持ち、実現可能かつ持続可能なサービスに取り組むことによって形成されます。そのためには、質と量のバランスがとても大切です。短期的な問題にフォーカスするだけでなく、現状の問題を踏まえつつも、それらを抜本的に改善するために、「お客様の満足度を高める」という受け入れ側の共通目的を明確にして、実現可能で持続可能なアプローチと、現場オペレーションをデザインし直していく必要があります。

関係各所を巻き込んで連帯性を持って取り組む

観光地経営は、とにもかくにもチームプレーです。観光産業に関わりのあるさまざまな事業者が連携し、時には観光産業に携わらない方の意見も取り入れながら取り組む姿勢が重要なのです。このことを念頭において、受け入れ側全体が当事者意識を持って取り組めば、改革が実現することでしょう。

「自社や自分の地域だけが良いという行動をすると、他所がその煽りを受ける。自分勝手な行動が感染拡大に繋がると、元も子もなくなる」と警鐘を鳴らした。

地域が限られた予算や資源を有効に使い、成果を重ね、持続可能な観光地経営を実現していくには、結局は住民一人ひとりの「当事者意識」にかかっています。そして、その意識を変えていくには、住民が主体的に取り組める施策が必要で、住民不在のプランニングや外部コンサルティングだけでは絵空事に終わってしまいます。
アドバイザーやコンサルティングが何を提案するか、企画するかではなく、どんなことを一緒に実行できるのか?にフォーカスするべきです。

それって本質的なアプローチ?

他地域のオーバーツーリズム対策の事例としては、枚挙に暇がありませんが、ここでは厳島神社がある広島県の宮島を挙げます。

以前からオーバーツーリズムに悩み入島税を2008、2015年に検討していましたが、根強い反対があって見送った経緯があります。
結局、2023年からフェリー料金に100円を上乗せしたのです。
この間、ゴミの増加、トイレ不足など観光地としての維持費がかさんだこともあり財政悪化にもなりました。また観光消費額が約4,000円(2018年) / 人と、観光客の増加が地域の税収につながっていないという課題もありました。その結果、「商店街は人であふれ、店のスタッフも満足に接客できなかった。宮島の魅力を満喫できずに帰った人も多かったんじゃないか」といった意見も地元からは出てきました。
「100円の追加料金を払いたくないから、行くのをやめよう!」という観光客にも来てほしんでしょうか。
当時反対していた人たちはどういう未来を描いていたんでしょうか。

表面的かつ一時的な対応策や解決策では通用しない時代に突入しています。
アドバイスも大切ですが、実践経験のない教授やコンサルティングの意見をまともに受けていたのでは難しいことが日本各地の事例からも分かってきていますね。

魅力や強みを最大限にひきだして、訪れた人が「また来たい」と思えるような場所を目指すことで、観光競争力は自ずと高まります。そのためには、地域住民が主体的に動く必要がありますね。
オーバーツーリズムを解決して、真の観光立国を目指していきましょう!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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