野江 三三(のえ さんざ)

初心者です。小説をきまぐれに投稿します。

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最近の記事

常温サイダー

梅雨真っ只中の6月28日。日直は私と重野くんだった。 放課後に黒板消し、ゴミ捨て、日誌書き。加えて担任に言いつけられた資料室の整理。すべてを終えた頃には18時を回っていた。 重野くんは寡黙でちょっと怖い。サボらずに日直としての仕事をこなすし、力仕事は買ってでてくれるし、いい人なのだろうとは思うけれど。 重野くんは眼光が鋭い。「話しかけるな」という無言の圧があるようで、私は少し苦手だ。もっとも、重野くんとは会話という会話をしたことが無いので、本当のところは、彼がどんな人である

    • こうかい し のうた

      「太陽と月、どちらが好き?」 キラキラした目が瞬く。 「好きってどういう?」 「手に入れたいって意味」 夜はすっぽりとこの部屋を飲み込んで、深い闇はもうこのベッドの近くまできている。 「僕には手に入れられないよ」 わずかに射し込む月明かりでは、あまりにも心もとない。 「いやね、ファンタジーよ」 彼女はくすくすと笑う。僕は太陽よりも月よりも、彼女の笑い声が好きだ。 「太陽はあたたかくて、月はつめたい。本当にそうかしら?」 彼女は少し眉を寄せた。何かを演じているようだった。彼

      • あくまでもあくむ

         その日わたしは夢を見た。  何かを目的に、山の中に入っていくのだ。天気は悪く、足元の草は歩みを妨げる。上から踏みつけるようにして歩くのはひどく体力がいった。何のために山道を登るかはわからなかった。ただ、なにか理由があって、私は嫌でも前を向いて歩かねばならなかった。突き動かされるというのも違う。引き寄せられるというのも違う。しかし、とにかく行かねばならなかった。  地面を踏みしめるたびに土の匂いがむわりと鼻に届く。血のような匂い。昨日の雨を吸っているのだろう。しっとりとし