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これから自転車屋を始めたいと考えている方へ

最初に申し上げておきますが、自転車屋は儲かりません。
正確に言うならば「なんとか食べていけるくらいしか稼げない。余裕ある暮らしや一発当てたい人には不向き」といったところでしょうか。私が知る限り、自転車屋に逆転満塁ホームランは存在しません。基本的にバント(犠打)生活です。また確定申告の時に税理士が引く程に利益が薄い商売です。「この仕入高の数字は間違っていませんか?」と何度も尋ねられました。本当に原価率が高く、まさに自転車操業!稼ぎたい人は普通にサラリーマンやっていた方が稼げますのでオススメしません。

基本的にマンパワーな仕事なので、自分の能力を超えたラインから上には普通のやり方では到達しません。仮に月20台売るのが能力的に限界の店舗が突然40台売ったとしても、組立する手も時間も限られていますから納期が後ろにずれるだけです。倍の台数が必ず売れ続ける事が約束でもされていれば、人を雇って売り上げを伸ばすことは可能です。ですがそんな都合の良い話はあるわけもなく、不安定な状況と常に対峙しなければなりません。まあ経営的な話は探せばたくさん出てくるでしょうから、私からは整備士目線でのお話をしたいと思います。

【自転車屋に向いていると思われる人】

私は腕時計が小さい頃から好きで、小学生の頃には既に安物ですが腕時計を持っていました。今でも凄く好きなので、懇意にしている街の時計店に入り浸っては店主さんに色々な機械を見せていただいたり談笑したりしていました。店主は時計修理一筋65年、立派な技術者ですが衝撃的な一言をいただいた事があります。

「お兄ちゃんも(私はそう呼ばれています)時計をいじる過程で、より良い修理方法なんかが見つかったら教えてね」

私は趣味でちょっと時計をいじるだけの素人です。その私に「教えて」と言える店主は探究心の塊で、なんて謙虚な方なんだろうと非常に驚きました。店主から見たらただの素人小僧です。常に向上心を持っていると共に、心底修理が好きなんだなとも感じました。とても尊敬している方です。

手先が器用であること。なんてものはある程度必要ですが、そのうち慣れて来るので必須項目ではないと思っています。社会人になってから何人か仕事場で教えてきましたが、残念ながら非常に筋がいいなと感じた人は教えた中ではいませんでした。探求心、応用力、想像力、常に学ぶ姿勢、謙虚な心。手先の器用さよりも、たぶんですがこんな事が求められると思います。それと、時計店の店主はこんな事も言っていました。

「売り子と職人は同居できない。職人は職人、売り子は売り子だ」

80歳を超えている方なので言い回しがちょっと昭和風味ですが、要は「経営者(商売人)と職人とは別物だ」という事でした。たくさんモノを売って、人を使って商売を広げられる能力がある人と、自分の手だけを信じて仕事をやり通す職人とは別なのです。「経営能力に長けていて、かつ自身も腕利きの職人」という人はいない。というのが店主の矜持でした。私もそう思います。自転車屋をやりたいのであれば、まずは「自転車をたくさん売って稼ぎたい」のか、「自分の腕を信じて技術で勝負する商売がしたい」のかをはっきりと区別しておいた方がいいと思います。私は経営能力が無いので、なんとか丁寧な仕事を心がけようとして食いつないでいます。結構必死です。自分の腕だけで食っていく!だなんて聞こえはいいですが、要するに私の場合はそれしか武器が無いほぼ丸腰の状態であると言えますね。

【他人の自転車を整備することが面白いと感じられるか否か】

一番勘違いしやすい部分だと思うのですが、自転車が好き!だから自転車屋になりたい!という短絡的な考え方で自転車屋にならない方がいいです。自転車が好きな人の多くは「乗るのが好き」か「自分の自転車をいじるのが好き」な人です。そういった人が自転車屋を始めると悲劇が待っています。まず自転車に乗る機会は減ります。休日を謳歌するために自転車乗って楽しむぞ!という気持ちは、自分で自転車屋を始めてしまうと結構消えます。もちろん、仕事も休日も全部自転車漬け。という人もいるかもしれませんがたぶん稀です。

整備士になりたい。という人も「自分の自転車のカスタムが好きだから」という人が多いです。私はどちらかと言えば自分の自転車は結構どうでもよくて、お客さんの自転車を修理している方が好きです。過去にあった例ですと、自転車大好きだという後輩に整備を教えていたところ、興味のある整備と無い整備との熱意に凄い差が激しく、興味が無い整備については教えている最中にやる気が失せて生返事になり、なんと「それはいいです」と断られた事がありました。ロードバイクが好きな後輩にとって、バンドブレーキの調整は自分の自転車に関係が無いので興味を持てないようでした。そんな人は自転車屋には向いてないと言えるでしょう。「どんな作業でも面白くてずーっと見ていられて、質問攻めをして相手を困らせる」くらいの熱量が欲しいところです。要するに自転車の構造にわくわくして、直ると嬉しくて、難しい修理ができるようになったら赤飯を炊いて祝い、お気に入りの工具と結婚するくらいの変態度が必要かなと個人的には思っています。

【まとめ】

①自転車屋は稼げないので、お金儲けをしたい人はやらない方がいいです。

②経営がしたいのか、整備士として現場仕事がしたいのかハッキリさせておくこと。

③3度の飯より自転車が好き!という気持ちは大切ですが、頭に「自分の」が付くタイプの自転車好きは自転車屋には向いてないと個人的には思っています。(自分の)自転車に乗るのが好き!(自分の)自転車整備が好き!といった人ですね。

④整備士になりたい人は、手先の器用さよりも素直さや応用力、探究心と強い興味。みたいなメンタルの部分が重要だと考えています。常に学ぶ姿勢がある人はどの分野でも伸びると思いますが、整備士も同じです。

偉そうにアレコレ書きましたが、私自身、開業の際に色々な情報を検索したのですがあまり情報が無かったので思った事を書いてみました。これから自転車屋を始めてみたいんだぜ!という方の1%くらいの参考になれば幸いです。





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