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一方的に憧れていた先輩から突然DMが来た話

中学の頃、ダンス部だった。
お嬢様学校のキラキラダンス部に属していたのだ。

わたしの学校は中高一貫で、中1〜高2まで一緒に部活動を行う。
その中でも特にダンス部は「先輩への憧れ」で満ちていた。

わたしの通っていた女子校は、先輩後輩の関係性が一般的なものとは異なっていたように思う。
全員が本気で先輩を女神のように想っており、各々の「憧れの先輩」への気持ちは「恋」とも言えるものであった。

憧れの先輩と文通する文化もあり、友だちを何人か引き連れて先輩のクラスに行き、恋焦がれる相手に告白するかの如く、文通していただきたい旨を伝えた。

文化祭などのステージ後に憧れの先輩とツーショット撮影をすれば、泣いて喜んだ。

誤解無きよう一応言っておくが、わたしは「これが異常である」と伝えたいのではなく、今でも納得の光景であった。


そのダンス部に、わたしは溶け込めなかった。
「溶け込んでいる風」を装っていたが、全く溶け込めていなかった。
ダサかったからだ。

正直割とダンスは上手い方だったが、後輩に慕われることはなかった。
ダサかったからだ。

逆に先輩にはマスコットキャラクターのように可愛がられた。
ダサかったからだ。

特に、同学年の中で孤立していた。
誰かと仲が悪かったわけではないし、全員と1対1では楽しく話せるのだが、集団になると苦しくて、中3いっぱいで退部してしまった。

他の誰かが悪かったわけではない。
恐ろしく協調性の無かったわたしが悪いのだ。
むしろ初めはみんな手を差し伸べてくれていたのに、自慢のダサさを優先し、その手を振り払った。


中学の頃のわたしは、ハロプロ命だった。
フォロワーが五千人ほどいるツイッターのアカウントを、一日に何度も更新しており、
リア垢とオタク垢の棲み分けもせず、学校の人と繋がっているアカウントでひたすら外に向けてハロプロの話をしていた。
当時は自覚が無かったが、そういう空気の読めなさが、ダサ人(んちゅ)ぬ所以だった。

同級生に「TLが埋まるから」という理由でブロックされることもあったが、自分がダサいのは自分のせいではなく、自分の良さを理解していない他人のせいだと思っていた。


高1になりダンス部を辞めた後、自分の周りへの態度を改めた。それからは、自然と周りも優しくなった。

とはいえ、ツイッターでは空気も読まずにハロプロの話をし続けていた。
そんなある日、知らないハロオタのアカウントからフォローされ、そのアカウントからDMが来た。

「野乃子ちゃん!私、○○!ハロオタだって聞いててずっと話したかったんだけど、このアカウント学校の人には言ってないから内緒にしててほしい!」

○○の部分にあったのは、「ダンス部の中でもトップクラスにダンスが上手く、誰もが認めるほど美人な、部員全員の憧れの先輩」の名前だった。

その先輩は珍しい名字だったので、DMを見てすぐに顔が浮かび、目を疑った。
「先輩からDMが来る」という状況だけでも一大事なのに「先輩のトップオブトップからDMが来ている」のだから。

あまりにも崇高な存在であったため、それまで話したこともなかった。それまで、存在を認識されている自信さえなかった。
憧れることさえ烏滸がましいと思うほどに「高嶺の花」だった。
なのに、向こうが「ずっと話したかった」と言っている。しかも、みんなが知らないアカウントで。
てか、下の名前で呼ばれてる。ヤバすぎ。


先輩は「亀井絵里と鞘師里保が好き」だと言うので、亀井絵里と鞘師里保に関するありったけの知識で必死に会話を繋げた。

「こんなに誰かとハロプロの話できたの初めてだから本当に嬉しい!」と言ってくれた。
わたしの方が嬉しいに決まっている。わたしは先輩とひとこと会話を交わせるだけでも夢のような時間だったのですよ。


高校卒業してからは、わたしが「SNSのアカウントを一斉に消す」という愚行に走ったのもあり、先輩とは連絡をとっていない。

先日、数少ない高校からの友だちと会った際、久しぶりに先輩のインスタグラムを見た。

そこに写るのは、紛れもなく、女神だった。

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