医療は政治 ー 医療崩壊に向けて進んでいるニュージーランド

ニュージーランド在住で、総合診療科医、ライフコーチ、Havening technique ®️プラクティショナーなどをしています。

日本の医療崩壊の危機が時々ニュースに載りますが、
他の先進国は一歩(か二、三歩)先を行っています。

ニュージーランドはもともとは大英帝国の1部で、今も密接な関係にあります。
イギリスの医療状況は、ニュージーランドの数年先を行っているらしいです。
つまり、今、イギリスに起こっている事は、数年後にニュージーランドでも起こるであろうということ。

下のYouTubeビデオは、イギリスの公立医療システムであるナショナルヘルスサービス(NHS)がどれだけ崩壊した状況にあるかを示しています。
(長いビデオですが、最初の10分ぐらい見れば大体の状況はわかります。英語の聞き取りが難しい方は、日本語の自動翻訳を使えます。)

ニュージーランドでは、ここまでひどくは無いですが
(ただ大都市の一部では似たような状況もあるらしい)
救急外来で待っていられなくて帰宅した人が、悪化して救急外来に戻ってきて死んだとか、廊下で長い間診察や入院を待つ、とか言う事がニュースになっています。

これは救急外来に来る人が多くて、混んでいると言うだけの問題でなく、
ビデオの中でも言われているように、病院の入院病床が埋まっているために、
救急外来から入院する患者さんが長い間救急外来に留まることになる、
と言う問題もあります。
入院中の患者を退院させるためには、退院の手続きを医療従事者がしないといけないのですが、医療従事者の数が足らずそのプロセスが遅れがちになるからです。

結局は、医療従事者の人手不足と言う要素がかなりあります。

私が働く大きなGPクリニックは、医者の数がそこそこあるため、できるだけ早く患者さんを診るシステムもできているのですが、2人ぐらいの人数の医師が働くクリニックでは、予約を入れても、診察が3週間待ちとか言う話も聞きます。

以前にも書いた様に、公立医療にかかると
セカンダリケアの医師(病院の各科専門医)に診て貰うのに
科によっては一年以上待ちます。

システム崩壊がここまで来るには、長い時間がかかっています。
ニュージーランドでも10年以上前から、問題の兆しが見えているのに
政府が積極的に、改善するように動きません。

問題点のいくつかを挙げると

1.   医療従事者の数不足(給料が低いので、医療従事者が他の国へ脱出)
2.病院施設の病床不足や老朽化(移民をどんどん入れて、インフラがそれに対応できるかの考慮不足)
3.低所得者の医療へのアクセス問題(GP受診と薬にお金がかかるので、すごく調子が悪くなるまで医者にかからない)

幾つか、政府が緊急にできる事はあると思います。

例えば、政府がもっとプライマリーケアにお金を投資する事。
現状では、街のプライマリーケアの医者(ジェネラルプラクティショナーGP)に行ってそこで、診療が可能な人も、
GPの予約が取れない、またはGPの診療費、または薬代が払えない
(ニュージーランドはGP受診にお金がかかるが、薬は安い。
イギリスはGP受診は無料だが、薬は高い。)
と言う理由で、人々は、無料の病院の救急外来に行く。

また、普段血圧の管理とか健康状態をGPで診てもらえば
健康をもっと良く保てたのに、
それができず調子が悪くなってから救急外来へ行く。

国民が支払わないといけない医療費を下げることができれば
所得の少ない人たちも、医者にかかり健康管理の質を上げられる。
若しくは国民の経済的状況を改善できれば
所得が少なめの人でもGPの医療費を払え、受診できる。

それ以前に必要なのは、医療従事者への給料を上げることで
もっと多くの医師やナースがニュージーランドから脱出せず、
ニュージーランドで仕事を続けるようになる。

「医療」は「政治」です。
NHSの問題も、「医療従事者がもっと頑張れば解決する」という問題では全くありません。
誰だって、あんな状況で働きたくないですよね。
だから医療従事者はみんな辞めていくんです。
それで状況がさらに悪くなる。

今まで政府が、システムの名前を変えてみたり、コンサル会社にお金を払ったりして、税金を無駄に使ったのを目の当たりにしています。

去年の総選挙後には、地元のGPでもあった政治家がhealth ministerになったので
もう少し前向きな変化を期待していたのですが、その兆しはありません。

この先どうなるのか分かりません。

特にニュージーランドに移住を考えている方は、
こんな状況も頭に入れておいていただいた方が良いと思います。


今日も長文を読んで頂き、ありがとうございました。

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