【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から⑱ テルピアノ(p) かずみんぐ(fl) 鹿野亮介(sax) アキオジェイムス(ds)

2024年2月29日(木)
テルピアノ(p)
かずみんぐ(fl)
鹿野亮介(sax)
アキオジェイムス(ds)
入谷「なってるハウス」

この日は、鹿野亮介というサックス奏者を知ることができたのが大きな収穫。サックスをしっかり鳴らすという基礎に抜かりがないうえに、私が植川縁の演奏で初めて見た現代音楽っぽい?奏法(厳密にいえば井上敬三やエヴァン・パーカー、カン・テー・ファンの録音で似たような音を聴いたことはあるのだが、正確なことはわからない)と、もろにジャズのバップのフレーズを交えたり、ピアノの反響を利用して音を回したり(日野皓正が「ジャーニー・イントゥ・マイ・マインド」の冒頭でトランペットでやってたのと同じ手法だろう)と、いろいろなことを試みつつも、不思議とまとまりがあり自分のポリシーを貫いたものを感じさせる、芯の通った立派な演奏だった。比較的若い世代でこういう人がいるのは心強いです。

もちろん私の目当てである照内央晴の複雑・玄妙なピアノを聴くことができ大満足でした。響きの生かす・殺すを自在に使い分けるのと、ジャズ出身者にはできない独特のクロスリズムが奇怪な空間感覚を作り出す。流れに転機をもたらしたいときに共演者をそれとなく刺激するフレージングの選択も巧みです。

アキオ・ジェイムスはスティックをドラムに突き立ててこすったり、ハイハットの上を外したりと、ドラムセットの機能を変化させることで音色面の実験をしていた。彼はフリージャズ的に盛り上がる演奏は非常にうまいのだろうし、今回そういうバイタルな場面もけっこうありつつも、あえて違うことを試みていると思われる。前に見た秋元修というドラマーにも同じことを感じたのだが、こういうフリージャズ的なドラムのスタイルは長年の間にあまりにも完成されてしまっており、あえて新機軸を打ち出すのは難しいが、模索する努力は大事だ。

鹿野・ジェイムスの二人ともテクニシャンであるだけでなく(にもかかわらず)、意識的・自覚的なミュージシャンで、これから自分の音楽を確立していってくれれば、より新しい音楽が出てくるだろう。この二人のデュオは短い時間だが相当な強度があった。全体演奏ではそこへフルートが加わることであまり尖りすぎずにマイルドな調和が生まれ、心地よい集団即興になった。

昔風のいかにも古典的なフリージャズという演奏で本当に良い演奏をできる人はもう残り少なくなっており、こういう新しい手法を多く含んだライブを聴くと、世代交代ということを考えさせられる。こういう新世代(というか中堅?)の精鋭を見出して、定期的に胸を貸すというか対等に渡り合っている照内はさすがで、その存在感は圧倒的だ。

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