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小説

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【小説】魚増(うおます)【60枚】

新宿駅頭(えきとう)を西に出て、超高層ビル街を抜け出たところに、かつての景勝地の面影を残す中央公園がある。中の池に落ちる滝は、いまでは人工の滝に見えるが、かつては自然の滝であった。滝のほか、大小の池を擁し、江戸時代から名所として知られ、周辺には、戦前まで花街が賑わいを見せていた。 中央公園の北側は長い坂になっていて、山の手と下町の境をなしている。 下りきったところは、青梅街道と甲州街道に大きく挟まれ、ゆるやかな谷を形作り、先にずっと行けば、神田川が流れる低地に出る。 や

【小説】自己忘却セミナー【80枚】

     一 夕方五時の放送が響く。破(わ)れたスピーカーの音に続いて、夕焼け小焼けの曲が流れる。 「何だあの音は!」と男が撥ね上がった。 「何だって、五時だろ」 相手の男はちゃぶ台を挟んで答えた。こちらは心持鉤のある鼻を、スポーツ新聞に向けたままである。 「あの陰惨な音、五時だから何だというのだ。何故、おれに知らせる」 男は片手にボールペンを持ったまま藤木を見下ろす。ちゃぶ台には履歴書がのる。 「昨日だって、一昨日だって、毎日鳴ってるぜ」 藤木は引っくり返っ