マガジンのカバー画像

【連載小説】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

16
大学三年の秋、青葉大学体育会男子バスケットボール部の主将になった菅野タケルはコーチの人選に悩んでいた。そんなある日。 「私が教えてあげる」 そう言い放ち、コーチに志願したのはタケ…
運営しているクリエイター

#大学バスケ

【連載#16】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十六話 奇跡は起こらない  コーチの中村アヤノから呼び出された青葉大学男子バスケットボール部三年生の4人は、大学の記念講堂内にある『カフェ・アマデウス』に集まっていた。  年が明け、新チームでの役割分担や今後のチーム運営について再度確認をしたい。それが今回のミーティングの主旨である。主将の菅野タケルにはそう伝えられていた  しかし集合時間の午後4時になっても、アヤノはまだ姿を現さない。 「呼び出しておいて時間に遅れるってどういうことだよ」  おかっぱ頭の高橋ツムグは不

【連載#15】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十五話 滑稽でもいいじゃないですか    年が明けて最初の土曜日。元旦に中学時代からの親友である山家ユウタと妹のミドリに背中を押され、タケルは同じゼミの大学院生でバスケ部のコーチでもある中村アヤノを誘って出かける約束を取り付けた。あれこれ思案して、行き先は仙台市の郊外にある仙台市天文台に決めた。目的はそこにあるプラネタリウムだ。アヤノもプラネタリウムが好きだとのことで、タケルの提案は即決された。が、問題はそこまでの移動だった。電車で行くにしても、そこからバスに乗り換えな

【連載#14】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十四話 その手を握ればいいんだよ  年が明けて、山形市内は一面の銀世界だった。  青葉大学体育会男子バスケットボール部主将の菅野タケルは、大晦日のお昼過ぎに仙台市内の自宅アパートを出発し、広瀬通で高速バスに乗って午後三時前には実家のある山形市内に到着した。自宅へ向かう道すがら、空から白いものが降って来た。  実家に着き、年越しそばを食べている間も家の外ではしんしんと音もなく雪が空から舞い落ちた。未明に雪は止んだが、翌朝、地面には15センチほどの積雪があった。タケルはゴゴゴ

【連載#13】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十三話 少し考えさせてください   唐突なユキノの登場に硬直しているタケル。アヤノが慌てて声をかける。 「驚かせてごめんなさい。ここ、うちの家族でやっているお店なんです」 「そうなの。オーナー兼シェフが私の旦那。つまり、アヤノのパパね」  パリッとした白いシャツに黒のボトムス、腰にグレーの前掛けをつけたユキノが笑顔で説明する。 「そういうことですか。でも、家っていうのは……」 「もちろん店に住んでいる訳ではないよ。このマンションの上階に住んでるってこと」  ユキノ

【連載#12】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十二話  ようこそわが家へ!  青葉大学女子バスケ部と仙台市内のクラブチーム・上杉クラブの練習試合が終わった後、青葉大学男子バスケ部主将の菅野タケルは、上杉クラブのメンバーで、中村アヤノの母、中村ユキノに捕まっていた。 「菅野くんやバスケ部のことアヤノから聞いてるよー。でもいいのかなあ、アヤノがコーチだなんて」 「お母さんは余計な口出ししないで。ちゃんと部の総意でコーチをお願いされているんだから」  体育館の外で立ち話をしていたタケルとユキノの背後には、二人を監視する

【連載#11】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十一話 お姉さんですか?  十二月も中旬を迎え、西公園の地面は色づいたイチョウの落葉で黄色に染まっていた。  薄暗く、吐く息も白い早朝。巨大なこけしがそびえ立つ広場に背の高い二人の女性が向かい合っている。一人は金髪の髪をヘアバンドで留め、もう一人は真っ黒な長い髪を後ろで一つに束ねてランニング用のキャップを被っていた。二人は準備運動をしながら言葉を交わす。 「アヤ、なんだそのレトロな恰好は?」  金髪の日下部ニコルが話しかける。 「え、ダメですか?」  黒髪の中村ア

【連載#10】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十話 体で払ってもらうから  十二月に入って朝晩の冷え込みがいちだんと厳しくなった仙台市内、朝七時。飲み会から帰ってきて、着の身着のままでベッドに倒れこんでいた青葉大学体育会女子バスケットボール部二年で副主将の上野ナギサは、羽毛布団を体に巻き付けた状態で目を覚ました。 「んん。あー。頭痛い」  ずいぶん飲んだ記憶はある。飲み会の終盤は、先輩の小笠原ノアと高橋ツムグの出来立てカップルを、男子部の二年生たちと一緒にキャーキャー言いながら冷やかしたのも覚えている。その前は何

【連載#9】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

   第九話 酒癖悪いんですか?  仙台市青葉区国分町。仙台市内の中心部にあるこの場所は、東北地方における最大の歓楽街だ。東北大学バスケ新人大会が行われたこの日、青葉大学体育会男女バスケットボール部は、大会の打ち上げと男子バスケ部コーチの中村アヤノの歓迎会を兼ねた飲み会を開催していた。男子部、女子部ともに、ほぼフルメンバーが参加。普段は練習に来ないメンバーもなぜか集合する。飲み会こそ体育会運動部の本領発揮の場だった。  午後6時を回ったところで、男子部主将の菅野タケルが声

【連載#8】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第八話 結果が全て  十一月の第三日曜日。青葉大学男子バスケットボール部主将の菅野タケルは同じ三年生でチームメイトの高橋ツムグと一緒に福島市内にある市民体育館に来ていた。一、二年生が出場する東北大学新人大会を観戦するためだ。   仙台から福島までは、高橋の車にタケルが同乗してきた。早朝から秋雨がシトシトと降り続けて実際の気温よりも肌寒さを感じさせたが、体育館の中はキュキュっというバッシュと床の摩擦音、レフリーの笛の音、電子音のブザーや選手たちの声などが混ざり合い、バスケット

【連載#7】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第七話 素敵なことじゃないですか  杜の都仙台の老舗デパート『藤崎』は、仙台駅ら東西に続くアーケードと、仙台市役所から南北にのびるアーケードの交わるところにある。青葉大学の大学祭が開催されている週末の日曜日、青葉大学男子バスケ部主将の菅野タケルは、同じく男子バスケ部のコーチである中村アヤノと藤崎のエントランスで待ち合わせをしていた。  予定が決まったのは二日前の金曜日。文系キャンパスの食堂でのちょっとした事件のあと、アヤノからの「付き合って欲しいんです」発言に耳を赤くしたタ

【連載#6】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第六話 推理をしましょう  十一月の最初の週末、金曜日から日曜日まで三日間の日程で、青葉大学では大学祭が開催される。この三日間、青葉大学体育会バスケットボール部が使用している体育館は大学祭のイベントの関係で使うことができない。練習が休みとなったこの日、男子バスケ部主将で経済学部経営学科三年の菅野タケルは、午後から図書館でゼミの課題に取り組んでいた。  十月中はずっと晴天が続いていたが、大学祭の初日の金曜日は生憎の雨だった。タケルは図書館の窓から外を眺める。雨が雑木林の間に幾

【連載#5】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第五話 伊達の悪魔    杜の都仙台市の中心部から西に位置する青葉山。その麓に広がる青葉大学文系キャンパス。経済学部経営学科三年で青葉大学男子バスケットボール部主将の菅野タケルは、文系キャンパスにある経済学部講義棟で行われている統計学の講義を抜け出し、生協の外にあるベンチでホットの缶コーヒーを飲んでいた。夏から秋へと移ろう季節の爽やかな風を受けながら寛いでいたタケルの隣に、何者かがスッと腰を下ろす。 「おいタケル。また授業サボってんだろ」  声の主は、法学部三年で青葉大

【連載#4】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第四話 そんなんじゃないですから    その日の全体練習終了後、練習開始前に言い争いをしていた男子バスケ部三年生の高橋ツムグと女子バスケ部三年生の小笠原ノアは、女子バスケ部が練習していたコートで一対一の勝負を始めるところだった。 「ツム、喜べ。今日もあたしがお前を完膚なきまで叩きのめしてやるぞ。三つ指ついてお願いしますって言え」 「ふざけんな。毎回負けて夜な夜な枕を濡らしているのは誰でしたか? お前だよ!」  高橋とノアの一対一は練習後の恒例行事として部内に浸透しており

【連載#3】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第三話 どういうご関係で?  青葉大学北キャンパスにある体育館。水曜日は二面あるバスケットボールコートそれぞれで男子バスケ部と女子バスケ部の練習が行われる。チーム練習が始まる前、男子部の練習が行われるコートのゴール下で、男女二人が一対一で練習をしていた。 「ボールを受けたら一度体を押し込んで、スペースを作るんだ」  ディフェンスをしながらアドバイスをしているのは、三年生で男子部副主将の古川トモミだ。オフェンスは二年生で女子部副主将の上野ナギサ。遠くから見ると小柄に見える