きつねさんがほしいもの、なんだ(後編)
ぽかぽか陽気の日。
小狐は徐々に巣を整えていきました。
そして、近くを少しずつ少しずつ探索していきます。
小枝や落ち葉がたくさん集められる場所。
食べ物のありか。
1日の日当たりの変化。
やがて、巣の前にある崖の手前を、少しずつ掘り返し始めました。
ひとりでせっせと土を耕すその様子を、巣の少しから、森の動物たちはたまにやってきては、不思議そうに見つめていました。
小狐はやがて、あの夜、動物たちにもらったあるモノを、とりだしました。
大きな緑色の木の葉に包まれたそれは、あの橙色の木ノ実の種でした。
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やがて梅雨の時期がやってきました。
木ノ実を植えてしばらくして、小さな芽に喜んでいたのもつかの間。
水やりをしなくてもよくなりましたが、叩くように降る雨に、苗が流されてしまわないかと、小狐は心配で心配でたまりませんでした。
雨が早く過ぎることを祈りながら、残りの種を抱いて眠りました。
雨が止んで、苗が残っているのを確かめては、ほっとする日々でした。
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残った苗が育ってきて、やがて実をつけそうなくらい大きくなりました。
小狐の背丈を追い抜いて大きくなったそれを見て、森の動物たちは届かないだろうと収穫を手伝ってくれるようになりました。
ありがとう、ありがとう。
収穫した木ノ実を大きな木の葉で包んで、小狐は貯めていきました。
ある程度の量がたまったとき、小狐は自分でそれを食べるのではなく、木の葉に包んだ木ノ実たちをくわえて、どこかに出かけていきました。
森の動物たちは顔を見合わせます。
はて、小狐は自分で木ノ実を食べたいのではなかったのか。
木ノ実をもらったとしても、食べ終えてしまったらなくなってしまうから植えることを選んだのだと思っていた。
お日様がてっぺんにたどり着く少し前に出発した小狐。
怖がりで夜になる前には帰ってくるはずだし、体力もそんなにない小狐が、そんなに遠くに行くとは思えませんでした。
森の動物たちは、興味本位でそろそろと後をつけることにしました。
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息をきらして、顔を赤くしながら、小狐がたどり着いたのは、近くの丘にある少し暗い洞穴でした。
小狐が小さく鳴くと、しばらくして、奥からごそごそと誰かが出てきました。
それは、少し茶色い色をした小狐でした。
はちみつ色の毛皮の小狐と、少し茶色の毛皮の小狐。
少し茶色の小狐の方が、はちみつ色の小狐より年上に見えました。
二匹は挨拶し、前から知り合いのようでした。
小狐は、加えてきた葉っぱの小包をおろしました。
なんだろうと不思議そうに見つめる茶色の小狐の前で葉っぱを広げると、橙色の木ノ実がころころと出てきました。
びっくりする茶色の小狐。
顔を上げて小狐を見ると、にこにこと嬉しそうに笑っていました。
茶色の小狐はもう一度、木ノ実を見ました。
なぜだか、じわじわと涙がこぼれてきて、木ノ実の上に落ちました。
それを見て小狐は慌てます。
てっきり茶色の小狐が喜ぶと思ったのでした。
慌てる小狐に、茶色の小狐は鼻をすりあわせます。
それは感謝の印でした。
小狐はその様子を見て、ああ、よかった、自分のやったことは間違っていなかったのだと、心の中でほっとしました。
二匹は目は閉じて、しばらく寄り添っていました。
茶色の小狐の巣の中には、はちみつ色の小狐の巣の中と同様、動物の死骸はなく、食べおわった木の実がありました。
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少しお日様が傾いてきました。
自分の巣から少し距離のあるこの場所。
あまり遅くなると、真夜中になって他の動物に襲われてしまうかもしれません。
世間話をしていた小狐は、また来ると告げて、茶色の小狐の巣を発ちました。
帰りに自分も橙色の木の実を一個、かじりながら。
今度は茶色の小狐を巣に呼んでみよう。
そんなことを思いながら。
木の実のように橙色の空。
自分の巣に着く頃には夕方になっていました。
ああ、今日は木に水をやっていない。
川にいかなくてはー…
そう思っていたら、どうも自分の巣の方がざわざわしています。
何事だろうとそっと様子を伺うと、森の動物たちが木の実の木の周りに集まっています。
どうして、何が。
まさか、まさかー…
少し青ざめた気持ちになって、そろそろと近づくと、動物たちがこちらに気づいて手を振りました。
小狐は、彼らが木に水をやって、新たな苗を植えてくれていたことに気づきました。
一瞬、なぜそんなことを、してくれているのか、と共に、自分が帰ってきた道に、彼らの足跡があることに気づきました。
彼らは、橙色の実を、小狐がどこに持って行ったのか、見ていたのかもしれません。
動物たちが小狐を呼びます。
大きな実ができているから、自分で取ってご覧。
きっと、とても美味しいよ。
つやつやで、きらきらで、甘いにおいのする大きな木の実。
小狐の視界はだんだんぼやけて、涙がにじんで、ぼろぼろと泣き出してしまいました。
動物たちは今度は不思議そうな顔をしません。
優しい顔をして、小狐の肩をぽんぽんと叩きます。
その大きな木の実をとって、その日はみんなで一口ずつ食べました。
その木の実は、小狐が今まで食べた中で、すこし塩っ辛かったけれど、一番美味しい木の実になりました。
おわり
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