スクリーンショット_2020-03-09_2.44.18

【図解】給料前払いは貸金業なのか

2011年に起業し、2017年にメルカリ社に会社を売却、今はメルペイのミッション「信用を創造して、なめらかな社会を創る」の実現に向け、ものづくりをしてる @nobu です。

従業員の採用に悩む企業が多い中、応募数が増え、従業員の定着率があがると言われる給料前払いサービス。大手外食チェーンも導入する給料前払いは貸金業なのか、その解釈が話題です。「給料前払い」は多様なスキームがあり、一律に貸金業かの判断はできません。今回のnoteでは、給料前払いに関する金融庁への照会とその回答を基に、貸金業に該当するスキーム、該当しないスキームを解説します。

貸金業に該当する給料前払いのスキームとは?

金融庁に以下の照会がありました。(引用元

業として、個人(従業員)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うこと(以下「本件業務」という。)は、貸金業法第2条第1項に定める「貸金業」に該当するかどうか。

照会内容を図解すると以下になります。

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.27

一つずつ解説していきます。


(1)お仕事をする

スクリーンショット 2020-03-09 1.51.44


従業員は雇用者と雇用契約書を結びお仕事をします。今回の照会スキームは雇用者と給料前払い事業者間の契約に関する記述が無いため、雇用者は従業員が給料前払いを利用しているのか把握できないと立場と考えられます。

(2)給料前払い申請

スクリーンショット 2020-03-09 1.51.58


急ぎの現金需要が発生した際に、従業員は給料前払い事業者と契約し、お仕事の実績を共有し給料前払い申請を行います。雇用者から給料日に支払われる予定の給料は賃金債権と言われ、労働者は賃金債権を給料前払い事業者に譲渡します。

(3)給料を前払い

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.06


給料前払い事業者は、(2)で指定の前払い額から事務手数料を差し引いた金額を労働者に振り込みます。事務手数料は給料前払い事業者の売上となります。

(4)給料日に給料を支払う

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.13


雇用者は従業員が給料前払いサービスを利用しているか把握していないため、前払い総額を天引きせず従業員の賃金を給料日に満額支払います。

(5)前払い額を請求

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.20


給料前払い事業者は、賃金債権を回収するために給料前払い総額を従業員を通じて雇用者に請求します。実態は、労働者から雇用者へ(5)の請求がされることはないように思います。

(5’)前払い額を請求

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.35


給料前払い事業者が、雇用者に対して直接前払い額を請求するのは労働基準法により禁じられているため、(5)のように労働者を通じて雇用者に請求する必要があります。

(6)前払い分を支払う

スクリーンショット 2020-03-09 1.52.27


従業員は、(4)で得た給料から前払い総額を支払います。賃金債権を媒介してお金がやりとりされるためファクタリングとも呼ばれます。貸金業に該当するポイントは、(3)で給料前払い事業者が従業員に支払い、(6)で従業員が給料前払い事業者に返還予定で、(6)以外の返済方法がない点になります。


貸金業に該当しない給料前払いのスキームとは?

給料前払いサービスで有名なPayme社が、過去に以下のプレスリリースを出しています。(引用元

政府が用意する「グレーゾーン解消制度」を利用し、「サービス導入企業の従業員に支払う給与の前払いが労働基準法第11条に規定する賃金に該当する場合、貸金業法第2条第1項に定める貸金業に該当するか」を関係省庁に照会しました。
その結論として、弊社サービスについては「貸金業には該当しない」との回答をいただきました。

プレスリリースからたどると、Payme社の照会が以下であることがわかります。(引用元

本照会を行う事業者(以下「当該事業者」)は、給与前払いサービス(以下「本サービス」)を展開している。
当該事業者は、導入企業と業務委託契約を締結し、導入企業の従業員(以下「従業員」)と利用規約を締結することで、従業員の申請に応じて、従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限として、申請された金額を従業員の給与口座に振込む。
導入企業は、従業員に対する前払額の合計額、銀行振込手数料及び業務委託手数料を当該事
業者に支払う。また、導入企業は、本サービスを利用した従業員に対して、当該従業員に係る賃金から前払額の合計額、銀行振込手数料及び業務委託手数料を控除した金額を通常の給与弁済日に支払う。
なお、業務委託手数料は、「前払額の一定割合」か「申請件数×固定金額(数百円)」のいずれかの選択制とすることを検討している。

照会内容を図解すると以下になります。

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.57


一つずつ解説していきます。

(1)業務委託契約

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.10

雇用者は、給料前払い事業者と従業員への給料前払いにかかる業務の委託契約をします。

(2)利用規約に同意

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.16

従業員は給料前払い事業者の利用規約に同意します。給料前払い実施にあたり、(1)と(2)で従業員と雇用者どちらも給料を前払いを認識し同意していることになり、貸金業に該当するスキームと大きく異なります。

(3)お仕事をする

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.28

従業員は雇用者と雇用契約に基づきお仕事をします。

(4)勤怠情報を共有

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.34

雇用者は従業員のお仕事実績を給料前払い事業者に共有します。

(5)給料前払い申請

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.40

お仕事実績に応じた給料相当額を上限として、従業員が給料前払い申請をします。


(6)給料を前払い

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.45

給料前払い事業者は、給料前払い申請額を従業員の給与口座に振込ます。給料前払い事業者から労働者への貸付けのようにも見えますが、従業員のお仕事実績に応じた賃金を上限とした短期間の立替えのため貸金業には該当しません。

(7)前払い分を清算

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.52

雇用者は、従業員に対する前払額の合計額、銀行振込手数料、業務委託手数料を前払い事業者に支払います。雇用者からの業務委託により前払い事業者が従業員に給料を前払いしているため、雇用者は給料であっても給料前払い事業者に対して支払いができます。給料前払い事業者から雇用者への貸付けのようにも見えますが、照会のスキームは雇用者の支払い能力を補完するための資金の立替えではなく、雇用者の信用力によらず手数料が一定に決められているため貸金業には該当しません。

(8)給料日に給料を支払う

スクリーンショット 2020-03-09 2.03.57

雇用者は、賃金から前払額の合計額、銀行振込手数料、業務委託手数料を天引きした額面で給料を支払います。


まとめ

今回ご紹介した「給料前払い」では、お金の流れや契約関係で異なる点を図解し解説しました。
貸金業に該当するスキームは、雇用者と給料前払い事業者間の契約が不要になるため、給料前払いサービスが広がるスピードが早く給料前払い事業者にとってメリットがありますが、トラブル時に従業員が給料前払い事業者と直接調整をする必要があり、不安を抱く従業員もいるように思います。
貸金業に該当しないスキームは、雇用者と給料前払い事業者間の契約やお仕事実績の連携など、給料前払い事業者にとって事業展開に時間を要するデメリットがありますが、トラブル時に雇用者が仲裁できる立ち位置のため、従業員はより安心して利用できるように思います。
今回のnoteで紹介できなかった他のスキームも含め、従業員・雇用者・給料前払い事業者それぞれのバランスを保ちながら、「給料前払い」の認知・利用が広がり、従業員は給料が流動化によりモチベーション高くお仕事をし、雇用者は採用強化と入社後の定着率の恩恵を得る、このような営みを通じ前払い事業者のビジネスが発展していくことを願います。

参考になったようでしたら、スキやシェアをしていただけると嬉しいです!!お気づきの点、ご質問などありましたらTwitterで気軽にメンションいただければと思います!


2020/3/11追記

給料前払い事業を営む各社から貸金業の該当性に関する見解が発表されました。

株式会社ペイミー

株式会社 Payment Technology

株式会社キュリカ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?