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ケーキ

もうしばらく父とは話していない

喧嘩したわけでもなく
嫌いになったわけでもなく
ただ話していない
桜が蕾を付け花を咲かせ散り葉桜になるみたいに
自然と

最後に話したのがいつだったか思い出せない
きっとなんでもない話だったと思うし
なんでもない話だったから思い出せない
なんでもない話が出来ていた日常があったことに
少し驚いた

一度話さなくなった親子の関係は
通り慣れていない高速道路のトンネルみたいに
光ひとつない時間が続き遂には出口を見失う

そういう日々が数年続き
これからもそういう日々が何年も否一生続くと思っていたある年の冬至

寒空の夜
駅から家への帰路で
猫背で首を窄めて箱を持ちゆっくり歩く背中を見た

運動会で見た背中で
洗面所で見た背中で
幼少期に捕まった背中だった

声が聞こえて背中を追った

ケーキが倒れないように
そーっと
そーっと
箱を持って歩く背中に
話しかけた

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