精神の虫

茶褐色の胴体に六本の足を携えた一匹の虫が、精神の内側を、輪郭をなぞる様に歩いたり、或いは飛びまわる。昼、一匹の虫は音ひとつ立てず寝静まっている。夜、部屋の灯りを消して目を閉じて精神が眠りに着地した瞬間、一匹の虫は起き上がり這って活動を始める。朝、小さな窓から朝日が射し込むと、途端に一匹の虫は活動を止めてその場に倒れ込み、一瞬にして深い眠りを手に入れる。昼夜問わず、一匹の虫は精神の反応、つまり喜怒哀楽を栄養に生長し日毎に肥大する。精神の内側に一匹の虫を感じてから一年が経過した日の夜、分離したのだろうか、二匹の虫がとても活発に活動を始めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?