人間
わたし普段は淡色の紫陽花ですが
珈琲を点てるとき人間になります
わたし普段は貝に閉じ籠るヤドカリですが
本を読むとき人間になります
わたし普段は鳴けない蝉ですが
歌を歌うとき人間になります
わたし普段は群れない猫ですが
電車に乗るとき人間になります
わたし普段は井戸の中の蛙ですが
海を眺めるとき人間になります
わたし普段は光を失った螢ですが
星に願いを唱えるとき人間になります
できないことは人間になったらできると思った
できないことは人間になってもできないままで
できることは人間になっても一つも増えなくて
それなのにときどき人間になって
自分ではないあなたのために珈琲を点て
自分ひとりの自分だけの場所で本を読み
好きな歌を好きなだけ好きなように歌い
電車に乗って行ったことのない地へ行き
大きくて広くて青い海をぼんやり眺めて
夜空の星にきっと叶わない願いを唱えて
元の姿に戻るといつも思う
人間になれてよかったと
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