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睡眠時無呼吸症候群にハイフローは有効か?

Effect of High-Flow Nasal Cannula on Sleep-disordered Breathing and Sleep Quality in Patients With Acute Stroke
Nobuto Nakanishi, Yasuhiro Suzuki, Manabu Ishihara, Yoshitoyo Ueno, Natsuki Tane, Yumiko Tsunano, Taiga Itagaki, Jun Oto
Cureus 12(7): e9303. doi:10.7759/cureus.9303

睡眠時無呼吸症候群という疾患を御存知でしょうか。

夜間の睡眠中に無呼吸といびきを繰り返す疾患です。

代表的な治療法は口や鼻にマスクを装着して呼吸器による圧をかけるCPAP (continuous positive airway pressure:持続的気道陽圧)になります。この治療により無呼吸やいびきが改善されることが報告されていますが、マスクを装着して寝るため、その不快感が強く、途中で治療を断念する患者さんが多いことが問題となっております。

そこで写真に示したハイフローネーザルカヌラを用いて睡眠時無呼吸症候群の治療に応用できないかと考えました。ハイフローネーザルカヌラは鼻から高流量の酸素や空気が流れます。高流量のために二酸化炭素を少し下げたり、圧も少しかかる(PEEP 2-3cmH2O)と報告されています。CPAPに比べて不快感も少ないことが特徴です。

図1

今回ハイフローネーザルカヌラが睡眠時無呼吸症候群の治療に有効か検証しました。脳卒中後は72%の患者さんが睡眠時無呼吸症候群になるともいわれており、睡眠時無呼吸症候群の治療がとても重要になります。

ハイフローネーザルカヌラの特徴から脳卒中後の睡眠時無呼吸症候群に対して有効と仮説を立てました。

17人の患者さんを対象として、途中で離脱やデータの欠損値などのため除外すると8人の患者さんでの解析となりました。

前後比較試験です。1日目にWatchPAT (WatchPAT 200U, Itamar Medical Ltd)を装着してAHI(Apnea Hypopnea Index)=無呼吸低呼吸指数が5を超える患者さんが対象となりました。その時のAHI、ODI、睡眠効率、REM睡眠を2日目のハイフローネーザルカヌラを装着した状態と比較しました。

結果は

AHI:24.9 ± 20.1 vs 21.3 ± 15.0/h (p = 0.63)
ODI:16.2 ± 16.5 vs 12.9 ± 12.3/h (p = 0.54)
睡眠効率:80.4 ± 12.9 vs 87.1 ± 6.2 (p = 0.28)
REM睡眠:19.4% ± 9.6% vs 27.6% ± 8.9% (p = 0.07).

17%(2/12)が不快感のため途中で離脱、25%(2/8)が不快感があった。

つまり、ハイフローネーザルカヌラで明らかな治療介入効果がなく、脳卒中後の睡眠時無呼吸症候群には有効ではないと判断しました。しかも、治療コンプライアンス(治療遵守率)も思ったより高くありませんでした。

対象患者さんは少ないですが、患者さんへのメリットが少ないと判断して途中で終了としました。そしてそのまま学会発表をして机の中でデータが眠っていました。

こういったネガティブデータも今後の医療に非常に重要だと考えておりますが、小規模のネガティブデータを掲載してくれる雑誌を探すのは容易ではありませんでした。しかし、ベストな治療を見つけるためには様々な研究データの蓄積が必要になります。

この結果をより多くの方と共有して議論するために、無料で誰でも読める雑誌(Cureus)に投稿しました。

小さな一歩ですが、医学の発展に少し前進したと信じています。

ベストな医療を目指していきます。

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