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『REBOX5』『不都合な箇所は削除せよ』内容紹介

2023年11月11日文学フリマ東京37の新刊2点の冒頭部分を引用します。お買い求めの際にお役立てください。

『REBOX5』

『REBOX5』特集 テン年代殺し 付録 この単巻ライトノベルがすごい!
序文
沖鳥灯 趣味(テイスト)の階級闘争──外との関係のために
本誌の特集は「テン年代殺し」。二〇一〇年代はことさら「震災・テロ・自己閉塞」などと代理表象された。テン年代(一〇年代)から二〇年代のアイコンの新海誠・庵野秀明・村上春樹を複数化の「趣味(テイスト)」で撃つ試みをしたい。

論考
砂糖円 「バーチャルYoutuber」キズナアイとVtuber試論
「キナアイ」が活動を開始したのは二〇一六年末のことである 。 僕は中学校二年生の一四歳で、スマートフ ォンは持たされていなかったのでPS Vitaの 画面で彼女のことを見た。

伊藤にしん ウェブノベル・ノスタルジア
玲音のお父さんが結構キモイ笑顔を浮かべ、矢島晶子さんは美少女ヒロインをやり、ロープライス抜きゲーにもエモいエンドが用意されていたゼロ年代。2ちゃんねるの時代でもあった。インターネットのいわば黄金時代に続き、 僕たちの青春の在所たるテン年代は、白銀時代と呼ばれるに相応しいも のだっただろうか。

きただ 宇宙に降る雪のように──海猫沢めろん『ディスクロニアの鳩時計』について
本論は、海猫沢めろんのSF小 説『ディスクロニアの鳩時計』について考察したものである。現在『ディスクロニアの鳩時計』(以後『ディスクロニア』と略) は 、2015年に電子書籍の形態で出版された「午前の部」と、2015年から2021年にかけて雑誌『ゲンロン』にて連載された「午後の部Ⅰ〜Ⅺ」の部分のみが公開されている。結末部分を含む単行本は2023年冬に刊行される予定だ。

短篇
松下 異世界衛星通信
ぼくらが生まれた2001 年という年は、アメリカ同時多発テロが起こった激動の年で、その10年後の2011年という年は東日本大震災という未曾有の大災害が起こった、これまた激動の年なのだが 、しかし、ぼくらが2001年と2011年という数字をヤバイものだと認識したのはもっと後、具体的には、定年間近で頭の禿げ上がった社会科教員の、あのセイレーンの歌 声にも似た、クラスメイトたちの過半数を眠りへと誘った声を聴きながら「世界史B」の現代史のページを捲っていたあの瞬間を待たねばならなかったのであり、したがってぼくらは生まれたその瞬間からあらゆる出来事に出遅れていた。

佐波長太郎 名前のない道
私はある物語を構想し、た。……

柊ひいる the age of violent bombs
少女は少年に訊いた。「恋とは爆弾のようなもの── ロバンソンよ、なぜか 分かるか?」

瀬希瑞世季子 世界対
母がまた癇癪を起して自分の部屋の中で暴れた。だから、これから部屋を片付けないといけない。

中川 二〇一六年
海の向こうで極右の大統領が生まれたころ、俺は資本主義の坩堝へと飲まれていた。

エッセイ
織沢実 SMAPを見ていた頃、私は幼かった。
四月のなか頃から井上陽水の音楽を聴くようになった。聴くようになったと云っても、代表的な歌が詰め込まれた出来合いの── つまりAppleMusic が提供するプレイリストを聴くばかりなのだけれど。

付録 この単巻ライトノベルがすごい!
序文
前川卓 いま、なぜ単巻ラノベなのか
いま、なぜ単巻ラノベなのか。本誌の編集長、沖鳥灯は序文「趣味(テイスト)の階級闘争── 外との関係のために」において、「テン年代に思春期を過ごした当事者たちが、時代の象徴性に抗い、個人的な体験に即してコンテンツを自由に語る」本誌の趣旨をのべている。そう、この「時代の象徴性に抗」うということを可能にするのが単巻ラノベという枠組みであると私は考える。どういうことか、そのわけをこの序文では書き記していこうと思う。

ブックレビュー
海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』(二〇〇四) 佐藤智史 
桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(二〇〇四) 瀬希瑞世季子
来楽零『ロミオの災難』(二〇〇八) 三千周介
泉和良『エレGY』(二〇〇八) 佐波長太郎
有沢まみず『銀色ふわり』(二〇〇八) 柊ひいる
江波光則『ストレンジボイス』(二〇一〇) 瀬希瑞世季子
浅生楽『ミネルヴァと智慧の樹』(二〇一〇) 三千周介
星空めてお『四月の魔女の部屋』(二〇一一) 初雪緑茶
石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』(二〇一三) 柊ひいる
高山理図『ヘヴンズ・コントラクター』(二〇一五) 伊藤にしん
青井硝子『異世界自然の非常食』(二〇一五) 伊藤にしん
中里十『どろぼうの名人』(二〇一六) あかふし
御影瑛路『僕らはどこにも開かない』(二〇一六) 瀬希瑞世季子
桐山なると『オミサワさんは次元が違う』(二〇一八) あかふし
佐野徹夜『アオハル・ポイント』(二〇一八) 広場沈
瀬名快伸『君は彼方』(二〇二〇) 初雪緑茶
八目迷『琥珀の秋、0秒の旅』(二〇二二) 広場沈
枯野瑛『砂の上の1DK』(二〇二二) 砂糖円

A5 166頁 1000円



『不都合な箇所は削除せよ』

松原新夜『不都合な箇所は削除せよ』
黒い鳥
富士山が噴火すればいいと本気で呪詛したことがある。

ルース
右の手首にはめたままの腕時計を見やる。

何も執着しない
田舎に生まれた。

ノイ
一八八三年二月十三日、ジェノヴァ近郊で、三十九歳のフリードリヒ・ニーチェは「ツァラトゥストラ」の第一部を十日間で書き上げた。

悪魔夫人
回転椅子に座し、パイロットの万年筆で、薄緑色の便箋に、青インクののたうった筆跡を書き連ねている。

翳りゆくメシア
愛用のアリフレックス16を靴墨で丹念に磨いて黒光りさせる。

二〇世紀ドライブ
三年前に忽然とトヨタの赤い4WDごと失踪したマントラさんと泉田のことを考えていた。

あとがき
1992年に「幻想」という原稿用紙6枚の短篇を書いた。初めての創作だ。17歳だと思う。中上健次の死のショックを受けて小説を書き始めたと思っていたら、どうやら健次忌前らしい。とんだ物語化でおこがましい。
数えると始まりの17歳から現在の48歳までのおよそ30年間で37篇の短篇があった。2015年と2016年に13篇を2冊の同人誌にまとめた。そして本書で7篇掲載した。来夏10篇程まとめて4冊目を刊行したい。合わせると30篇になる。
本書収録の一篇は、ある方から「アウトサイダーリテラチャーっぽい。整合性がない。豪快。何かある。」と講評を受けた。内容は病的でセンシティブなものだろう。その点の考慮は総題に込めたつもりだ。
また別のある方には他の収録作について、「ひとつひとつの文章を丁寧に表記していることや、意表を突く時間移動のなかでもストーリーがちゃんと伝わっていること、それらの文体と趣向に独自性を試そうとされていることなど、作品に向き合う書き手の意識や姿勢が清々しく感じられたのは評価したいポイントです。」という言葉をいただいた。
太宰治「水仙」(『きりぎりす』新潮文庫)で「二十世紀には、芸術家も天才もないんです」「僕には信じている一事があるのだ。誰かれに、わかってもらわなくてもいいのだ。いやなら来るな。」(314頁)とある。
つねづね人との関係が大事だと思っている。とはいえ創作は他者の理解が及ばない領域かもしれない。
商業出版ではない同人出版でこつこつ短篇を書いてきた。新人賞で一次予選通過は二回(2004年・2015年)、主宰の2019年と2020年の短篇集で2021年に小さな文学賞をいただいた。
なにも誇れるものはない半生だった。ただ傍らにいつも本があった。これからもそうであるように。志の途中で亡くなった幾人かの友人たちに思いを馳せて。文学は時の外にある「励まし」だから。


A5 90頁 500円



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