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少年の国 第14話 いたずらと冒険

●いたずらと冒険の日々

 その後、僕の周りにはどんどん友だちが増えていった。それと同時に夜遊びの時間も増えだした。とくに決闘以来すっかり仲良くなったガキ大将の龍大と、いつも彼と遊んでいる永吉とはしょっちゅう遊んだ。

 夜になると、家の近くの線路の上にみんなで座り、いろいろな話をしながら過ごす時間は楽しいものだった。

 僕らの住む集落からそれほど遠くない所に、旧日本軍の飛行場の跡地があった。ほとんど放置されているので、僕らはそこによく忍び込んだ。目指すのは練習機の風防である。機体の周囲に散らばった風防ガラスを拾って外に持ち出す。いつもの線路に移動すると、大きな破片をハンマーで割る。それを分配すると、みんなその破片を鼻の先に持って行って大きく息を吸う。

「いい匂いだなあ」

「枕木にこすりつけるともっといい匂いになるよ」

 そう、風防ガラスは「匂いガラス」なのだ。

「そう言えば、これを燃やすともっといいらしいぞ」

 龍大の言葉に、二人は「やろう、やろう」と応じる。ポケットからマッチを取り出して、小さめの破片に火をつけてみた。

 一気に燃えることはなく、まず黒煙が上がる。線路の上に置いて様子を見ていると、やがて黄色い炎が上がってくる。夜の闇の中では何ともきれいな炎だ。そして、あの鼻先で嗅いだときのいい匂いが辺りに立ちこめる。

「すごいよ、いい匂いだ……」

 永吉がしみじみした声音で言う。

「本当だなあ。でも、これは俺たちだけの秘密だよ。ほかの奴らに教えちゃだめだぞ」

 龍大の言葉にうなずきながら、僕は善花にだけは教えたいなと思っていた。教えたとしても、彼女がこの場に来ることはできないのだから問題はないはずだ。この話をしたら、彼女は何と言うだろう。

 そんなことを考えていると、思わず顔がだらしなくなっていたのだろう。

「おい、海守。何をにやにやしてんだよ、気持ちがわるいなあ」

 龍大には、僕の気持ちを読み取られてしまったようだった。

 横浜時代に、海水浴で溺れかけたことがあったが、蔚山に来てからも危ない目に何度も遭った。

 冬が来て貯水池に氷が張ると、子どもたちの格好の遊び場になる。日本ならスケートで滑るところだが、ここではソリのようなもので滑る。上部に箱を作り、そこに乗る。下部には二本の木があり、そこに太めの針金をくっつけ、そこを滑りやすくする。箱に座って両手に持った千枚通しのようなものをスキーのストックのようにして進むのである。

 全部手作りである。まずは龍大が自分の分を作って、それを見本にして僕の分に取りかかった。

「この箱はきちんと作らないと危ないぞ」とか、「針金は真っ直ぐにしないと滑りが悪くなるぞ」とか、龍大が丁寧に指導してくれた。決して立派とは言えないが、なかなか優れたものができ上がった。

 貯水池に行ってみると、一面に氷が張っていて、心が躍った。

「海守、あっちの取水管があるところは、氷が薄いから近づかない方がいいぞ」

 龍大が注意した。けれど、子どもは危険な遊びが大好きだ。もちろん、僕は子どもだ。しっかりした氷の所より、薄い氷の所を滑ると、氷がしなるようになって面白いはずだと思った。

「だから、海守、そっちは危ないって!」

 龍大の声を無視して、僕は取水管の方に進む。思った通り、氷がしなってソリは上下する。

「ほら、こっちの方が面白いよ」

「危ないからよせよ!」

 その声が響いた途端、案の定氷が割れ、僕は冷たい水の中に落ちてしまった。幸い、とっさに浮かんだソリの箱に掴まったので沈むことはなかった。千枚通しを頼りに氷の上に上がろうとするのだが、薄い氷は次々に割れてしまう。

「おーい、助けてくれよう!」

 遠くで見守る二人の顔ははっきり見えているのだが、どちらも怖がって助けてくれない。「ちくしょー! こんな所で沈んでたまるか!」

 ストック代わりの千枚通しが、ようやく割れない氷に刺さってくれた。それを頼りに、ようやく氷の上に立ち上がったものの、服はずぶ濡れで、凍るように寒い。

「だから、言っただろう。俺の言うことを聞かなかった海守が悪いんだぞ」

 龍大の言うことはもっともだったが、寒さにはかなわない。二人を残して、泣きながら家に帰ったものだった。自分の責任と分かっているから、誰にも文句を言うわけにもいかない。情けなくて仕方がなかったが、家に帰り着くと、ハンメに叱られて、ますます情けなくなった。

 言葉が分かるようになると、二人の他にも友だちが増えていった。それにつれて、持ち前のいたずら精神もどんどん発揮されるようになった。

 鶴城公園は、子どもたちの格好の遊び場で、いろんな季節の思い出ができた。秋には栗林に栗の実を採りに行った。もちろん「無断で失敬」である。

 友だちと二人で、棒を持って出かけていく。身体の大きい僕が栗の木に登り、棒で栗の毬を叩き落とす。だいぶ収穫があったと思った頃、管理人の大きな怒鳴り声がした。

「まずいぞ、逃げなきゃ」

 友だちの声で慌ててしまった僕は、持っていた棒を下に落としてしまった。

「痛い!」

 友だちの悲痛な声が響いた。落とした棒が、彼の後頭部に当たってしまい、彼はその衝撃で前のめりに倒れてしまったのだ。

 さらに不運は続く。倒れた先には尖った石があり、彼は額をその石にしたたかにぶつけてしまった。僕がようやく木から降りた時、彼もやっと起きあがってきた。

「うわー!」

 思わず声が出たのも無理はない。彼の顔は血で真っ赤になっていた。駆けつけた管理人も叱ることを忘れ、持っていた手拭いで彼の顔を拭うと、「これはひどい。早く医者行って縫ってもらえ、ほら急げ!」と慌てていた。僕らは頭を下げると、大急ぎで病院に向かった。

 その後、彼の傷は治ったが、額には「Vの字」の傷跡が残ってしまった。その傷跡が兵隊の階級章に似ている。彼はその後「一等兵」というあだ名で呼ばれるようになってしまった。

 いたずら好きは、チャンスがあるといろんなことをやりたくなる。四年生の夏のある夜、龍大と永吉が僕の部屋に遊びに来た。夜遊びは楽しい。それでも遊び疲れることもある。そのうちに永吉が疲れて眠り込んでしまった。

「こいつ気持ちよさそうに寝やがって」

 龍大はしばらく永吉の寝顔を見ていたが、永吉のズボンの上から股間めがけてデコピンをした。

「おい、起きろよ」

 ところがよほど疲れていたのか永吉は目を覚まさない。

「なんだこいつ、全然起きないぞ」

 龍大と僕はそっと目を合わせると、永吉のズボンを下ろして、やつのポコチンを丸出し状態にした。それでも永吉は眠っている。

 こうなると、当然のようにさらなるいたずら精神が、むくむくと頭をもたげてくる。机の中から凧揚げ用の糸を取り出すと、二人でニヤニヤ笑いながら、彼のポコチンを糸でゆわいてしまった。

「クッ、クッ、クッ」

 二人は必死に笑いを堪えながら、糸の端をもってまるで魚釣りのように永吉のポコチンを吊り上げたり下ろしたり、くるくる回してみたりして楽しんでいた。ところが予想外の事態が発生した。永吉のポコチンが次第に大きくなってきたのだ。それを見ていた二人は、ついに我慢できずに大きな声で笑い出した。ポコチンはさらにどんどん大きくなっていく。

「痛い、痛いっ!」

 大きな声で喚きながら、ついに永吉が目を覚ました。僕と龍大は慌てて糸をはずそうとしたが、糸はポコチンに食い込むし、永吉は痛がって暴れるせいでうまく解けない。

「痛い、痛い、痛い、痛い!」

 永吉の声が段々大きくなる。

「早く、口を塞げ」

「こいつの身体を押さえつけろ」

必死の格闘で何とか糸をはずすことができたときには、みんな汗ぐっしょりだった。永吉は、そうとう痛かったらしく、泣きながら股ぐらを押さえている。

 ようやく痛みが治まった頃、永吉はカンカンになって帰っていった。仲良しの三人組だったが、それからしばらく彼は僕たちと口をきいてくれなかった。

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