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あきらめなかった新陽生〜高校生が考える宮澤賢治展 【週刊新陽 #61】

みなさんは、宮澤賢治と聞いてどの作品が思い浮かびますか?

童話の『銀河鉄道の夜』や『注文の多い料理店』、あるいは『雨ニモマケズ』の詩でしょうか。

先日「新陽高校・宮沢賢治文学を研究する会」主催のイベントが行われました。

今回、有志生徒と国語科の髙橋励起先生によるこの会のメンバーが選んだのは、短編童話『オツベルと象』。その版画絵本の作者・佐藤国男さんから、なんと直々に版画(原画)や版木をお借りすることができ(!)、それらの作品とともに生徒たちが作った作品紹介パネルを展示しての開催となりました。

『高校生が考える宮澤賢治展
-おや、川へはいっちゃいけないったら-』

会場は、サツドラの皆様のご好意で北8条店の『++ROOM』を使わせていただきました。週末ということもあり、新陽の関係者だけでなく、買い物に来たお客様も立ち寄ってくださるなど、多くの方に観ていただけたようです。(残念ながら当日私は行けず・・・泣)

サツドラ北8条店++ROOMにて。
デジタル掲示板にはポスターが!
様々な方が立ち寄ってくださいました
来場者とお話するメンバー

この企画、実は昨年の年明けに生まれたアイデアの種が4月に芽を出し、夏に実を結ぶはずが一歩手前で棚上げ。仕切り直して今年2月に開催に向かうも、今度はコロナの感染拡大で中止。今回、三度目の正直でとうとう実現しました。

この間3月に卒業してしまった生徒もいますが、その先輩の分まで、あきらめずにやり通した4人のメンバーに話を聞かせてもらいました。
※名前の表記は、メンバーがそれぞれ呼び合っている名にしています。

1ミリでも文学に興味を持ってもらいたい

-- どうやってこのプロジェクトが始まったのですか?

【佐藤歌夏さん。以下、歌夏】もともと私が文学が好きで。何か活動できないかと担任の伊原先生に相談したところ、髙橋励起先生のことを教えてくれたんです。「賢治研究をしている国語の先生だよ」と。

お話を聞きに行ったら「円山動物園と連携して、動物園と賢治作品という構想がある」と話してくださって、「すごいこと考えてる先生だ!」と衝撃でした。

クラスメイトの寺分(光牙)に声をかけると興味を持ってくれて、2人で図書館に行き、動物が出てくる賢治作品を探し始めました。(一つ上の)高橋椿先輩には、伊原先生が声をかけてくれました。それが去年の年明けくらいだったと思います。

励起先生と椿先輩とは『文学離れ』について話して、「1ミリでもいいから文学に興味を持つ人が増えてほしい」という気持ちが強くなって、それがこのプロジェクトの目的になりました。そのあと響と凛を巻き込んだと言うか(笑)

【髙橋響さん。以下、響】僕がすごく覚えてるのは2人から誘われた時のことです。去年の4月、定期券を買いに行った帰りにチカホ(札幌駅前通地下歩行空間)の真ん中でいきなり「一緒にやらない!?」と。

【宮下凛さん。以下、凛】そうそう!4人で並んで立ってて歌夏と寺分が両端に居て、挟まれてた響と私は「うん。」って言ってました(笑)。

メンバーは探究コース3年の4名
とても仲良しです♡

--そこからどのように進みましたか?

【歌夏】励起先生から、作品を読んで1500字レポートを書くように、と動物が出てくる賢治作品のリストが送られてきて、一人一冊ずつ分担して読み込みました。

【凛】1500字と言われて「終わった・・・」と思いました(笑)。普段の授業の課題もあって、すらら(デジタル学習教材)もあって、あの時期すごく大変でした。でもなんとか書ききって、最後には楽しかったです。

【歌夏】夕食のあと、皆でオンライン通話つないだよね。

【凛】毎週金曜の夜9時、オンライン通話集合!ってね。繋ぎっぱなしにして、一緒に課題をやっていました。

【響】僕は、賢治さんと動物のつながりは知っていたけど、浅い知識しかなかったんです。でもこのレポートや展示会の準備ですごく深まりました。

【歌夏】まず、円山動物園で展示できる、となって、担当者の方と私たち生徒でのやりとりが始まりました。でも、動物園の方が求めることと、自分たちのやりたいことがどうしてもぴったり合わなかったんです。園にも行って何度もお話したのですが結局、企画自体を見送ることに。

でもしばらくして、サツドラさんの施設(今回開催した会場がある建物の2階)でのお話をいただきました。「自分たちの掲げた目的一本でいけるんだ!」とまたやる気が出てきて、準備もスムーズに進んだように思います。

【響】サツドラさんの会場で、原画の流れでお客様とお話しできるイメージが湧いて、「興味を持ってもらう」という目的が明確になりました。

ものの見方が増えた。変わった。

--2月開催はコロナで中止になってしまったけど、サツドラさんの会場で今回実施できてよかったですね!開催してみてどうでしたか?

【歌夏】ずっと取り組んでいたけど実施できない状況が続いていたので、ようやく1つ形になって、とりあえず一安心です。一番嬉しかったのは、「あなたはこの絵を見てどう思う?」と声をかけてくださったお客様がいたこと。一緒に絵を見ながら物語の考察ができて、これがやりたかった!と。

興味を持ってもらうためには自分自身が知らなきゃ、と思って、作品や作品に対する批評などを読み込んできました。最初に読んだ時の印象と変わってくることもあり、うわべだけで判断しないようになった気がします。

【寺分光牙さん。以下、寺分】自分は最初から関わっていたのに、展示会当日はどうしても外せない別の予定があってすごく残念でした。でも、ダッシュで向かって最後の10分だけ会場に居られて「長い間準備してきた甲斐があった」と実感しました。

【響】最初は、歌夏と寺分に「手伝って」と言われて「本は好きだからいっか」ぐらいの気持ちでした。でも国男さんの版画が借りられたり、パネルを準備したりしているうちに自分のプロジェクトになっていって。当日、版画を持って並べながら、あらためてその重みを感じました。

それから、お客様の中に賢治さんや国男さんのファンの方もいて、共通に話せるキーワードに"宮澤賢治"があることを実感しました。準備や当日の対話をとおして、ものの見方も覚えたと思います。

【凛】私は、歌夏たちが図書館で調べているのを見て、正直、「タイトルは知ってるけどよくわかんない」と思ってました(笑)。でも読んでいるうちにだんだん興味が湧いてきて、それから、版画を見て「どうしてこんな表情してるのかな?」などの問いが生まれました。

最初は「同じものが好きな人同士が集まって何かやろうとしているのすごいな〜」と思って手伝うことになったけど、あらためて当日、「イベントの企画を一からやって実現したのすごい。みんなかっこいい!」と感動しましたね。

--展示会、今回で終わりではなく次はもっと公共的空間で開催する予定と聞きました。今後の展望を聞かせてください!

【歌夏】規模を拡大するので、きりっとした気持ちでやりたいです。今回は、知らない間に理想的な空間ができていた感じでした。次は展示物も増えますが目的はぶらさず、また理想的な空間を作れるように企画を詰めていきます。

【寺分】実は、もともと僕は「『銀河鉄道の夜』しか勝たん!」と思うくらい好きで、他の作品には興味なかったんです。でも、いろいろな賢治作品に目を向けていくことで、視野が広がったと思ってます。次は当日もちゃんと参加して、お客様とたくさん話をしたいです。

【響】今回、あるお客様に「この展示会でどういうことを伝えたいの?」と聞かれたので、僕なりの解釈をお話しました。あの場にいる人がそれぞれの考察を共有し交換する場になったので、規模が大きくなると、もっといろんな考察がやりとりできるのでは、と楽しみです。でもその分、自分たちの考察ももっと深めていかなきゃ、と思ってます。

校長室にある『本気で挑戦ボード』の前で。
「ここで写真を撮るの憧れてた」by 響

先生から見る宮澤賢治プロジェクト

4人にインタビューした後、励起先生にも話を伺いました。

--構想から約1年半、展示会が実現した感想を聞かせてください。

ここまで長い期間、心が折れずに取り組んでくれた。これに尽きますね。

そして、会場を貸してくださったサツドラさん、チャンスをくれた佐藤国男さん、展示について色々とアドバイスしてくださった宮沢賢治記念館の宮沢さんにも、大変感謝しています。

--あらためて、どんなプロジェクトか教えていただけますか。

一人の生徒の「やりたい!」に他の生徒が賛同して始まったプロジェクトです。生徒が自発的に活動するのを教員はただただ見守るスタイルで、自分が普段関わっていない(担任でもなければ教科を受け持っていない)生徒たちとのプロジェクトという意味では、「中村哲さん写真展」以来2回目となります。

そして、『青の旅路』(2018年5月に新陽高校が出版した副読本)の続きだとも思っています。副読本を作成した生徒たちは卒業していますが、それを後輩たちが繋いでいる。

"宮澤賢治"という一つのテーマで、副読本から展示会まで表現方法がこんなにも多様になるのは今回の大きな発見でした。この広がりは最初から想定していたわけではないんです。そうなればいいとは思っていたけど、いつ、どのタイミングで興味を持つ生徒が出てくるか、行動を起こすかは予測がつかないんで。

ただ、それは賢治さんだからというか、賢治さんの作品であることは広がりに大きく影響しているでしょうね。

--生徒たちも「賢治作品だったからこそ、来場者とのコミュニケーションが生まれたと思う。」と話していました。

そうですね、大抵の人が賢治作品をなんらか知っていて、それぞれに想いや想い出がありますよね。生徒たちも、寺分は最初に「銀河鉄道が大好きです!」と言ってきたんです。響は、家族の中で「"宮澤賢治"といえば響」と認識されているらしいです。

きっかけは薄くてもだんだん濃くなっていく。そこから発展していくのは賢治さんならではかもしれません。

また、テーマは一緒でも、一人ひとりの目的が違うのもプロジェクトの面白さだと思います。たとえば、歌夏は「文学に興味を持ってもらいたい」という動機ですが、凛は「行動に移す仲間がかっこいい」という気持ちが参加を後押ししている。「賢治作品が好き」なメンバーだけじゃないからこそ、うまくいくことがあるのではないかと。

ここまで時間はかかったけど、彼らには必要な時間だったと今は思います。サツドラさんとのやりとりも全部生徒に任せていたのですが、ご担当くださったサツドラの社員の方が、「生徒さんたちのメールが早くて丁寧で、”できる社員”みたいですね」と褒めてくださったんです。

円山動物園の方々とのやりとりも含めて、この間いろいろな道を経たことは彼らに取って良い経験となり、学びとなったと思います。

4人のメンバーと励起先生

【編集後記】
4人の生徒の話を聞きながら、なぜ彼らはあきらめずにやり続けられたのか考えていました。まず、最初からずっとビジョンがブレなかったこと。「1ミリでも文学に興味を持ってもらいたい」という歌夏さんの想いに周りが賛同し、いつの間にか皆のビジョンになっていたことはプロジェクトの成功要因のように思います。
そして、実は生徒たちが感じた「先生の熱」。インタビュー中、「励起先生の熱に動かされたってとこあるよね。」「うん、熱いわけではなくて、なんていうかじわじわ消えない火って感じ。」「好奇心なのかな。そういう励起先生から感じる熱。」と盛り上がっていました。
先生の熱に動かされ、一緒に考える喜び。これも彼らが挑戦し続け、さらに次の挑戦に向かう原動力になっている気がしました。
次回の賢治展が楽しみです!

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